子どもと博物館:どうしたら来たくなる?家族・学校・社会でつなぐ来館増加の実践策

目次

なぜ今「博物館 子ども 集客」が重要なのか

子どもの博物館利用をめぐる状況は、この数年で大きく変化しています。少子化や社会全体のライフスタイルの多様化、さらにコロナ禍による一時的な行動制限などの影響も重なり、子どもを含む家族の来館機会がこれまでと比べて変動してきました。こうした変化は全国の多くの博物館で実感されており、今後どのように子どもの来館を促していくかが共通の関心となっています。

そもそも、子どもが博物館で得られる学びや体験は、知識の習得だけでなく、文化資本の形成や社会性・創造性の発達など、将来にわたって大きな価値をもたらすものです(Shaffer, 2024)。このような観点から、博物館と子どもの関係性を見直し、どうすれば子どもたちが「また来たい」と思える博物館づくりができるのかが問われています。

子どもの来館増加やファミリー層の集客に関する課題は、多くの博物館関係者や保護者、教育現場で関心が高まっています。インターネット上でも「どうしたら子どもが博物館に来るようになるのか」「子ども 集客」「ファミリー 来館」といったテーマについて情報を求める声が見受けられます。

本記事では、こうした課題意識を踏まえ、家族・学校・社会参加の三重視点から「子どもが来たくなる博物館」への実践策を多角的に検証します。あわせて、子どもにやさしい空間設計については 「子どもにやさしい博物館とは? ― 遊び・学び・親子の体験がつながる空間設計の工夫」 、 子どもの社会参加や共創の実践については 「博物館と子どもの社会参加 ― ソーシャルアクションを生み出す参加型教育の実践」 にて詳しく解説していますので、あわせて参照してください。

子どもが博物館に来ない理由と集客の壁

家庭環境・親の意識と来館行動の関係

子どもが博物館に訪れるかどうかは、家庭環境や保護者の意識に大きく左右されます。親自身が文化施設に親しみを持っていなかったり、日常生活の中で博物館を選択肢として考える習慣がなかったりすると、子どもを連れて行く機会はどうしても限られてしまいます。また、家族でのレジャー先として博物館を選ぶ動機は「学び」や「体験」への期待に加え、費用や移動の手間、子どもが飽きないかという不安なども複合的に影響します(Borrione et al., 2021)。情報発信の工夫や家族連れに配慮したサービスの充実は、保護者の心理的なハードルを下げるうえで重要です。

学校との連携・校外学習の現状と課題

学校を通じての博物館利用は、子どもが博物館に興味を持つ大きなきっかけとなります。しかし、現実には校外学習として博物館を訪れる機会が十分に確保されていない地域や学校も少なくありません。特に、学年や地域による機会のばらつきが存在し、校外学習が減少傾向にある地域では、子どもたちが博物館と出会うきっかけがさらに減ってしまうことが指摘されています(Borrione et al., 2021)。学校と博物館の連携体制の強化や、教育現場と連動したプログラムの開発が求められています。

地域差とアクセス環境の問題

都市部と地方・農村部では、博物館へのアクセス環境に大きな違いがあります。都市部では交通手段が豊富で選択肢も多い一方、地方や郊外では移動距離や公共交通の便が課題となることが少なくありません。このようなアクセスの不便さが、子どもやその家族の来館頻度を左右しています(Borrione et al., 2021)。海外でも同様の傾向が見られ、交通支援や出張型プログラムの導入など、多様なアクセス戦略が必要とされています(Shaffer, 2024)。

子ども自身のニーズと現代的関心

子どもが「行きたい」と思う博物館には、現代の子どもたちならではの関心やニーズへの対応が不可欠です。友達や家族と一緒に体験できるプログラムや、実際に手を動かす参加型のワークショップ、最新のデジタル技術を活用した展示など、従来の「見るだけ」ではない新しい楽しみ方が求められています。また、子ども自身の意見やアイデアが反映されることで、来館動機がより強くなることも分かってきました(Shaffer, 2024)。こうした視点に立ち、子どもの声を取り入れた企画や運営が今後ますます重要になります。

子どもが来たくなる博物館づくりの具体策

ファミリー向けサービスと体験プログラムの強化

家族で訪れる子どもにとって、「また行きたい」と思える博物館になるためには、ファミリー向けサービスや体験プログラムの充実が不可欠です。子ども専用のキッズスペースや安全に遊べるエリア、親子でゆっくり休めるファミリーラウンジなど、施設のハード面での配慮はもちろん、親子で一緒に学び・発見できるワークショップや体験型イベントの開催も効果的です。たとえば、展示資料を使ったものづくり体験や、学芸員と巡る親子ガイドツアー、館内を巡るスタンプラリーやクイズラリーなど、子どもが主体的に参加できる仕掛けが多いほど、子どもの興味と集中力は長続きします。

また、ファミリー向けの特別イベントや季節ごとのフェア、来館時にもらえるお土産、キッズメニューを用意したカフェなども人気のポイントです。こうした取り組みは、子どもだけでなく保護者の満足度向上にも寄与し、「家族でまた来たい」「友人にも勧めたい」と感じてもらえる博物館づくりにつながります。利用者アンケートや保護者・子どもたちの声を運営改善に反映することで、実際のニーズや不満点を着実に把握でき、よりきめ細やかなサービスの開発にも活かされています(Borrione et al., 2021)。このように、ファミリー層への多角的なサービス強化が、子ども来館の集客アップに直結します。

学校とのパートナーシップと教育連携の拡大

子どもが博物館を知り、興味を持つ最大のきっかけの一つが「学校との連携」です。学校が校外学習や授業の一環として博物館を訪れることで、子どもたちは非日常の学びや体験に触れ、新しい発見をする機会を得られます。多くの博物館では、地域の小中学校と連携して特別プログラムを企画したり、学年ごとのカリキュラムに合わせたワークシートや学習支援教材を提供するなど、学校側のニーズに応じたサービスを強化しています。

特に、教員向けの事前研修や教材開発の協力、学芸員が学校に出向く「出張授業」の実施は、学校側の信頼を高める重要な施策です。団体受け入れの手順を分かりやすくしたり、校外学習後のフィードバック会や報告会を設けることで、博物館と学校の双方向的な連携が生まれます。こうした経験が、子どもたちの「また行きたい」「家族で行ってみたい」という自主的な再来館意欲にもつながります(Borrione et al., 2021)。教育現場との連携が広がることで、学校単位・地域単位でのリピーター層の拡大が期待できます。

アクセス改善と地域連携による来館促進

博物館へのアクセスは、特に地方や郊外に住む子どもや家族にとって大きなハードルとなります。公共交通機関の利用が難しい地域では、スクールバスや地域連携バスの運行、近隣自治体との協力による無料・割引チケットの配布など、移動の負担を軽減する工夫が重要です。また、地域のイベントや商業施設とコラボレーションした出張展示やミニワークショップ、移動ミュージアムの活用は、普段博物館になじみのない家庭や子どもにとって、初めての“博物館体験”を得る貴重なきっかけとなります。

アクセス情報をわかりやすく公式サイトやパンフレットで発信したり、家族連れが安心して来館できる駐車場やベビーカー利用の案内を充実させることも、見逃せないポイントです。さらに、地元の交通事業者と連携した「博物館ルートバス」の設定や、観光施設とのセット割引など、地域ぐるみの集客戦略も成果を上げています(Borrione et al., 2021)。このようなアクセス改善策と地域連携の両輪で、子どもやファミリー層の来館機会が大きく広がります。

デジタル施策と情報発信で“行きたい”気持ちを後押し

現代の子どもや保護者は、インターネットやSNSを活用して行きたいスポットや体験情報を検索するのが当たり前になっています。博物館も、公式ウェブサイトやSNSアカウントを通じて、子ども向けイベントや参加型ワークショップ、期間限定の展示などの最新情報を積極的に発信することが重要です。動画コンテンツやバーチャル展示ツアー、オンラインワークショップの導入は、実際の来館前から「楽しそう」「行ってみたい」という期待感を高める効果があります。

また、SNS上での写真投稿キャンペーンや来館者の体験シェア、館内で利用できるデジタルクイズ・AR体験など、リアルとデジタルを組み合わせた参加型の企画が注目されています。コロナ禍で一時的にオンライン体験の需要が高まったことをきっかけに、バーチャル参加をリアル来館へとつなげる「ハイブリッド型」サービスを展開する館も増えています(Shaffer, 2024)。情報発信とデジタル施策を両立させることで、子どもやファミリー層の「行きたい」「また行きたい」という気持ちを継続的に後押しできます。

子どもの声と参加型運営で“また来たい”を生み出す

子どもの意見を取り入れる博物館運営の意義

博物館が子どもの来館を継続的に増やしていくためには、子ども自身の意見や要望を積極的に運営に取り入れる姿勢が欠かせません。近年、多くの博物館では、展示やイベントを体験した後にアンケートやワークシートを活用し、子どもたちの感想やアイデアを収集する取り組みが進められています。館内に意見ボックスを設置したり、来館記念のメッセージカードを書いてもらうなど、子どもが自由に自分の思いを伝えられる工夫も効果的です。こうした方法は、子どもの「もっとこうしたい」「次はこんなことがしたい」という声を把握するうえで非常に役立ちます。

集めたフィードバックは、次回以降のワークショップや展示内容の改善に反映され、運営者側と来館者側の双方向コミュニケーションが生まれます。とくに海外の先進館では、子どもたちの意見を公式なプロジェクト会議で紹介したり、実際に新しい体験型展示の企画に取り入れる事例が増えています(Shaffer, 2024)。こうした姿勢を持つことで、子どもは「自分もこの博物館の一員だ」と感じやすくなり、より深い愛着と再来館意欲につながります。単に「受け身」で参加するのではなく、子どもの声が形になる喜びを味わえる場づくりこそが、持続的な集客アップに直結する重要なポイントです。

子どもが主体となるプログラムと参加型企画

現代の博物館では、子ども自身が主体的に関わる参加型プログラムの存在が来館意欲を高める大きな要素となっています。たとえば、子ども評議会やユースカウンシルのように、実際の展示やイベントのテーマ決定、内容づくりに子どもが参画する仕組みを導入する館も増えています。館内で使われるポスターやサイン、イベントのアイデア募集、特別企画の広報動画の制作など、子どもたちの「やってみたい!」という気持ちが反映される場面はさまざまです。

また、自分の作った作品を展示できるコーナーや、親子で一緒に取り組むミニプロジェクトなども好評で、こうした実践は「自分の発想が博物館の新しい価値になる」という実感につながります(Shaffer, 2024)。さらに、学校や地域団体と連携しながら「子どもが先生になる」ワークショップや、同年代同士が教え合う体験型イベントを実施することで、子どもの主体性やコミュニケーション力も伸ばすことができます。主体的な参加の経験は、子ども自身の自信と達成感につながり、来館のリピーター化や家族・友人への推奨にも直結します。

家族・学校・地域とつなぐ社会的連携の広がり

博物館が子どもの参加や声を活かすためには、家族や学校、地域社会との連携が不可欠です。たとえば、家族参加型ワークショップや親子イベントの開催は、保護者も一緒に学び・体験することで家族全体の満足度を高める効果があります。学校との連携では、課外活動や特別授業として博物館を利用し、学芸員や地域の専門家が授業サポートに入る取り組みが進んでいます。こうした活動を通じて、子どもは普段の学習とは異なる新たな刺激を得られ、保護者や教員も博物館の魅力を再発見できます。

さらに、地域の商店街やNPO、子育て支援団体とコラボした「地域ぐるみ」のイベントやフェスティバルを開催することで、より多様な家庭や子どもが集い、異なる背景や文化を持つ参加者同士の交流が生まれます(Borrione et al., 2021)。包摂や多様性に配慮した社会参加型プログラムは、障がいや外国ルーツを持つ子ども、さまざまな家庭環境の子どもたちの参画を促進し、地域全体で子どもの成長と文化体験を支える持続可能な仕組みとなります。社会的な連携を深めることで、博物館は「地域の文化拠点」としての存在感をさらに高めていくことができます。

“また来たい”を持続させるリピーター戦略

子どもや家族にとって「一度だけで終わらない博物館」を実現するには、リピーター獲得に向けた仕掛けや継続的なコミュニケーションが必要です。たとえば、年間を通じて参加できる子ども向けプログラムや、季節ごとのイベント、館内ラリーやポイントカード、来館回数に応じた特典プレゼントなどは、子どもが「次も参加したい」と感じるきっかけになります。また、毎月新しい体験や限定イベントを告知することで、来館のたびに新たな発見や楽しみを得られる仕組みづくりも有効です。

リピーター向けのニュースレターやメールマガジン、SNSでのイベント情報発信は、家族や子どもと博物館との継続的なつながりを生み出します。アンケートへの参加やSNSでの写真投稿キャンペーン、来館者限定のシークレットイベントなど、双方向的な関係性を重視したアプローチが“また来たい”というモチベーションを維持します(Shaffer, 2024)。このような工夫の積み重ねが、「また来たい博物館」として地域や子どもたちの記憶に残る存在となり、持続的な集客と社会的信頼の基盤となります。

まとめ ― 家族・学校・社会で支える、持続的な「子ども集客」と博物館の未来

多層的アプローチで実現する子どもの来館増加

子どもが「行きたい」「また来たい」と感じる博物館づくりを実現するためには、家族・学校・地域がそれぞれの役割を発揮しながら連携する多層的なアプローチが不可欠です。まず、ファミリー層が安心して楽しめるサービスや体験型プログラムの充実、親子で過ごしやすい空間設計やイベント企画が、子どもの初回来館のハードルを下げます。さらに、学校と博物館が密に連携し、校外学習や教育プログラムとして博物館を活用することで、子どもが非日常の学びや発見を体験できる機会が増えます。加えて、地域全体でのイベント開催や交通アクセス支援、移動ミュージアムや出張ワークショップの実施など、地域ネットワークを活かした取り組みも重要です。

このような多面的な施策は、単発的な集客で終わらせず、リピーターとして継続的に来館する子どもや家族を育てる基盤となります。また、子ども自身の声を取り入れた参加型運営や子ども評議会の設置など、当事者意識を高める仕組みを導入することで、来館動機が一層強化されます。家庭・学校・地域が一体となったアプローチは、博物館の「子ども集客力」を持続的に高める有効な戦略といえます(Borrione et al., 2021)。

子どもと博物館の関係性が社会にもたらす価値

子どもが博物館で多様な体験や学びを重ねることは、個人の知識や関心を広げるだけでなく、社会全体にも大きな価値をもたらします。博物館は子どもにとって未知の世界に触れる「入り口」となり、歴史・科学・芸術・文化といったさまざまな分野に興味を持つきっかけとなります。これにより、文化資本が育まれ、創造性や探究心、社会参加意識が自然と身につきます。

また、多様な家庭や子どもが分け隔てなく参加できる包摂的な博物館は、ダイバーシティを重視する現代社会の理念とも調和します。障がいや言語・文化的背景が異なる子どもたちも安心して参加できる仕組みをつくることで、博物館は地域社会全体のつながりを深め、多様性への理解を広げる拠点となります。さらに、SDGs(持続可能な開発目標)との関連や、子どもの権利条約に基づいた実践も注目されており、博物館と子どもがともに成長する関係性は、これからの社会においてますます重要になると考えられます(Shaffer, 2024)。

今後の展望と持続可能な集客戦略

これからの博物館経営においては、デジタル技術や新しいコミュニケーション手法を積極的に活用し、社会や家庭環境の変化に柔軟に対応していくことが求められます。公式ウェブサイトやSNSによる情報発信、オンラインワークショップやバーチャル展示の提供は、遠方の子どもや多様な家庭環境にある子どもたちにも博物館の魅力を伝える新たな手段となります。また、来館者のフィードバックや参加体験をもとに、定期的なプログラム改善やリピーター向けの特典、アフターフォローを強化することも不可欠です。

今後は、地域・学校・家庭がより密接に連携し、子どもが継続的に「また行きたい」と感じる博物館体験を創出するための仕組みづくりがさらに進むことが期待されます。博物館は未来を担う子どもたちにとって、知的好奇心や社会性を育てるかけがえのない場であり続けるために、今後も現場の実践と研究を重ねていくことが大切です。多くの関係者と協働しながら、より良い「子どもと博物館」の関係構築に挑戦し続けていくことが求められます。

参考文献

  • Borrione, P., Friel, M., & Segre, G. (2021). Kids, Today We’re Going to the Museum! Discriminating Factors in Museum Visiting for Families With Children in Italy. International Journal of Arts Management, 23(3), 54–65.
  • Shaffer, S. E. (2024). Museums, Children and Social Action: Past, Present and Future. Routledge.
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この記事を書いた人

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日々の業務経験をもとに、ミュージアムの楽しさや魅力を発信しています。このサイトは、博物館関係者や研究者だけでなく、ミュージアムに興味を持つ一般の方々にも有益な情報源となることを目指しています。

私は、博物館・美術館の魅力をより多くの人に伝えるために「Museum Studies JAPAN」を立ち上げました。博物館は単なる展示施設ではなく、文化や歴史を未来へつなぐ重要な役割を担っています。運営者として、ミュージアムがどのように進化し、より多くの人々に価値を提供できるのかを追求し続けています。

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