ミュージアムの経営戦略の策定方法―海外事例をもとに解説

目次

ミュージアムの役割と経営戦略の重要性

ミュージアムは文化資産の保存や教育活動を通じて、社会に多大な貢献を果たしています。例えば、大英博物館(イギリス)は膨大なコレクションを無料公開し、世界中の来館者に文化教育の機会を提供しています1。また、メトロポリタン美術館(アメリカ)はオンラインコンテンツを強化し、デジタル教育にも力を入れています2。しかし、財政的な制約や行政方針の変化などの外部要因に適応し、持続可能な運営を実現するためには、戦略的な経営が不可欠です。本記事では、海外の研究や事例を基に、ミュージアムの経営戦略の策定方法を詳しく解説します。

ミッションステートメントの策定

まず、ミュージアムの経営戦略の基盤となるのが、ミッション(使命)とビジョン(将来像)の明確化です。これにより、組織の方向性を定め、ステークホルダーや職員が共通の目標を持つことができます。適切なミッションステートメントを策定することで、運営の指針が明確になり、長期的な成功が期待できます。以下に、実際のミュージアムのミッションステートメントを紹介します。

1. The Metropolitan Museum of Art(メトロポリタン美術館)

原文(英語)

“The mission of The Metropolitan Museum of Art is to collect, study, conserve, and present significant works of art for the education and enjoyment of the public3.”

和訳

「メトロポリタン美術館の使命は、重要な芸術作品を収集、研究、保存、そして公開することにより、一般の教育と楽しみを提供することです。」

解説

このミッションステートメントは、メトロポリタン美術館が単に芸術品を展示するだけでなく、それらを通じて公衆の教育と文化的享受を促進するという強い理念を示しています。ミュージアムの役割が学術的研究や保存活動、そして広く市民にアートを楽しんでもらうことに重きを置いていることが伺えます。

引用元URLThe Metropolitan Museum of Art – About the Met

2. The Museum of Modern Art(ニューヨーク近代美術館)

原文(英語)

“The Museum of Modern Art connects people from around the world to the art of our time. We aspire to be a catalyst for experimentation, learning, and creativity, a gathering place for all, and a home for artists and their ideas4.”  

和訳

「ニューヨーク近代美術館は、世界中の人々と現代美術をつなぐ役割を果たしています。私たちは、実験、学習、創造性の触媒となり、すべての人々の集う場所であり、アーティストとそのアイデアの拠点となることを目指しています。」

解説

このミッションステートメントは、MoMAが現代美術を通じて世界中の人々を結びつけることを使命としていることを示しています。また、実験的な試みや学習、創造性を促進する場として、アーティストとそのアイデアのための拠点となることを目指しています。これにより、MoMAは多様な背景を持つ人々が集い、現代美術を共有し、理解を深める場を提供しています。

引用元URLThe Museum of Modern Art – Mission Statement

SWOT分析による現状評価

SWOT分析は、ミュージアムの内部環境と外部環境を分析し、戦略立案の基礎を築く手法です。例えば、大英博物館では自館の強みとして豊富な収蔵品と知名度を活かし、デジタルアーカイブを強化することで国際的な観客の増加を図りました5。具体的な手順としては、①現状の財務・運営データを収集し、②内部要因(強み・弱み)と外部要因(機会・脅威)をリストアップし、③戦略オプションを検討する、という流れで進めます。この分析を活用することで、ミュージアムは自館に適した成長戦略を設計できます。

  • 強み(Strengths): 資金調達能力、収蔵品の価値、教育プログラムの充実度など
  • 弱み(Weaknesses): 財政的な課題、施設の老朽化、人材不足など
  • 機会(Opportunities): デジタル技術の活用、国際的な提携、観光産業の発展など
  • 脅威(Threats): 経済状況の変動、政府補助金の削減、競争の激化など

この分析を行うことで、ミュージアムは自身の強みを活かしながら、外部環境の変化に対応する戦略を立案できます。

  • 参考文献: Kotler, Neil G., Philip Kotler, and Wendy I. Kotler. Museum marketing and strategy: designing missions, building audiences, generating revenue and resources. John Wiley & Sons, 20086.

財務指標を活用した経営分析

ミュージアムの経営戦略を策定する際、財務分析は重要な役割を果たします。以下の主要な財務指標を活用し、経営状況を可視化することが推奨されます。

  • 収益性指標(Revenue Generation): 入館料、寄付金、助成金、物販収益などの収益構造を分析
  • 支出管理(Cost Management): 運営費、人件費、展示企画費のバランスを評価
  • 財務健全性(Financial Sustainability): 負債比率、流動資産比率、キャッシュフローの健全性を確認

財務データを詳細に分析することで、持続可能な経営方針の立案が可能となります。具体的には、物販や寄付、法人スポンサーシップを活用し、収益の多様化を進めています。財務分析において特に重要なのは、収益性(収入と支出のバランス)、財務健全性(自己資本比率や負債比率)、キャッシュフロー(資金の流動性)の3つの指標です。これらを適切に管理することで、長期的に安定した運営が可能となります7

まとめ

ミュージアムの経営戦略を策定することで、経済的にも社会的にも持続可能な運営が可能となります。世界中の研究や実践例を参考に、本記事で紹介した方法を取り入れ、効果的な経営戦略を実践してください。

参考文献

  1. British Museum. “The Collection.” British Museum. Retrieved from https://www.britishmuseum.org/collection/,(2025年2月19日閲覧).  ↩︎
  2. The Metropolitan Museum of Art. “Collection Search – Open Access.” The Met. Retrieved from https://www.metmuseum.org/art/collection/search?searchField=All&showOnly=openAccess&sortBy=relevance,(2025年2月19日閲覧). ↩︎
  3. The Metropolitan Museum of Art. “About The Met.” The Met. Retrieved from https://www.metmuseum.org/about-the-met#:~:text=Mission%20Statement,%2C%20ideas%2C%20and%20one%20another,(2025年2月19日閲覧). ↩︎
  4. The Museum of Modern Art. “Mission Statement.” The Museum of Modern Art. Retrieved from https://www.moma.org/about/mission-statement/,(2025年2月19日閲覧). ↩︎
  5. 田良島哲. “ミュージアム画像資源の多様な楽しみ方を開拓する.” 日本写真学会誌 84.2 (2021): 85-89. ↩︎
  6. Kotler, Neil G., Philip Kotler, and Wendy I. Kotler. Museum marketing and strategy: designing missions, building audiences, generating revenue and resources. John Wiley & Sons, 2008. ↩︎
  7. Jung, Yuha, Rachel Shane, and Jaleesa Wells, eds. Financial Management in Museums: Theory, Practice, and Context. Taylor & Francis, 2024. ↩︎
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この記事を書いた人

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日々の業務経験をもとに、ミュージアムの楽しさや魅力を発信しています。このサイトは、博物館関係者や研究者だけでなく、ミュージアムに興味を持つ一般の方々にも有益な情報源となることを目指しています。

私は、博物館・美術館の魅力をより多くの人に伝えるために「Museum Studies JAPAN」を立ち上げました。博物館は単なる展示施設ではなく、文化や歴史を未来へつなぐ重要な役割を担っています。運営者として、ミュージアムがどのように進化し、より多くの人々に価値を提供できるのかを追求し続けています。

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