ミュージアムと企業のパートナーシップの事例3選

令和4(2022)年4月「博物館法の一部を改正する法律」が成立し、約70年ぶりとなる博物館法の単独改正が実現しました。その改正によりこれからの博物館の役割として、教育や文化の域を超えて、まちづくり、観光、福祉、国際交流といったさまざまな分野との連携による地域社会への貢献が期待されています。1このような期待にはミュージアムと企業とのパートナーシップも含まれていると考えられます。

ミュージアムと企業のパートナーシップについては前回の記事ではユニクとニューヨーク近代美術館のパートナーシップの事例を紹介しました。

今回の記事ではミュージアムと企業のパートナーシップの他の事例を紹介し、その可能性についてさらに考えてみたいと思います。

目次

Swatchとミュージアムの事例

Swatch. [Swatch]. (2022, Mar 11). Swatch X Centre Pompidou Collection [Video]. YouTube. https://www.youtube.com/watch?v=xNMbQjDIVVw

最初に紹介するのは腕時計のメーカーであるSwatchとフランスの近代美術を扱うポンピドゥー・センターのパートナーシップの事例です。2

腕時計で有名なSwatchは1985年以来、ブランドはスウォッチアートスペシャル時計のラインを制作していました。そして、2018年からは、著名なミュージアムがSwatchに傑作へのアクセスを許可したことから、ミュージアムジャーニーシリーズというラインを制作してきました。

ミュージアムジャーニーシリーズでは2022年までにアムステルダム国立美術館、マドリードのティッセン・ボルネミッサ国立美術館、パリのルーヴル美術館、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の作品を用いた腕時計を制作しました。

ポンピドゥー・センターとはミュージアムが所有する6つの作品を参考にして制作されました。

Swatchはポンピドゥー・センターとのパートナーシップは相乗効果があると語っています。

Swatch曰く、どちらも、すべての人が芸術にアクセスできるようにすることを使命としています。また、革命的であり、手首に芸術をもたらすためのスウォッチと大衆に芸術をもたらすためのポンピドゥーセンターはお互いの使命を腕時計を通して社会に発信することができていると考えています。

この取り組みで制作された腕時計はSwatchだけでなく、ミュージアムショップでも購入することができることからSwatchのファンだけでなく、実際にミュージアムに訪れた観覧客にもミュージアムのお土産として購入することができるようになっています。したがって、Swatchとミュージアムはそれぞれが新しいファン層を獲得するために相乗効果があると言えます。

したがって、このような取り組みはミュージアムの収益に貢献するだけでなく、ミュージアムの作品のファンを増やす効果もあると考えられます。

AirBnbとルーブル美術館の事例

Airbnb. [Airbnb]. (2019, Apr 3). Airbnb presents: A night at the Louvre | Airbnb [Video]. YouTube. https://www.youtube.com/watch?v=R3xvH8NEJiA&t=41s

次に紹介するのは民泊支援をしているAirbnbとフランスのパリにあるルーブル美術館の取り組みです3

Airbnbは2019年4月30日の一晩に2人限定でルーブル美術館における特別宿泊プランを募集し実施しました。

このプランでは写真の通り有名なモナリザの絵の前で寛ぐ経験をすることができました。具体的には豪華なパリのラウンジソファでリラックスしながら、居心地の良いルネッサンスにインスパイアされた食前酒でモナリザに乾杯することができると紹介しています。

また、宿泊はルーブル美術館の有名なピラミッドの場所にAirbnbが特別に用意したピラミッド型のテントに泊まることができました。

宿泊以外にも「オーダーメイドのツアー」を通じて芸術の独自の鑑賞をすることができました。美術史家が率いるこの特別にキュレーションされたツアーには、モナリザなどのルーヴル美術館の貴重な作品の鑑賞が含まれいて同様のツアーは、以前にビヨンセとジェイ・Z、バラクとミシェル・オバマに過去に経験したものと同様でした。4

このような取り組みは世界的に話題になったことからAirbnbが素晴らしい宿泊体験ができるという企業価値を高めることに貢献したと考えられます。

また、世界で最も有名な美術館一つであるルーブル美術館の素晴らしさを美術館にあまり興味がない人達にも知ってもらうことができたのでは考えられます。

実際にルーヴル美術館の副マネージング・ディレクターであるアン・ロール・ベアトリクスは、「多くの人が夜にルーヴル美術館を一人でさまよう機会を気に入っていることを知っており、これが魔法のような忘れられない経験になることを望んでいます」と発言しています。また、「Airbnbのパートナーシップにより、より多くの人々が芸術の素晴らしさがどれほど本当にアクセスしやすく、刺激的であるかを発見することを奨励したいと考えています。」とも述べている。

mizunoとアムステルダム国立美術館の事例

Mizuno Europe. [Mizuno Europe]. (2023, Aug 18). Mizuno x Rijksmuseum x Vermeer Wave Rider 27 Amsterdam [Video]. YouTube.https://www.youtube.com/watch?v=_tekfzruGeg

3つ目の事例は日本のスポーツシューズメーカーであるミズノとオランダのアムステルダム国立美術館のパートナーシップです。5

このパートナーシップではミズノがアムステルダム国立美術館が所蔵しているフェルメールの作品から発想を得てランニングシューズが制作されました。

このランニングシューズはTCSアムステルダムマラソン2023の公式シューズとして採用されて多くの人の注目を集めました。美術館愛好家だけでなく、スポーツを愛する多くの人にも訴求した事例です。

また、ミズノとアムステルダム国立美術館のパートナーシップは2021年にも実施されており、その際にはアムステルダム美術館の所蔵する日本美術に関わる作品をモチーフに別のランニングシューズも制作されています。6

オランダ江戸時代からの貿易のつながりがあったためアムステルダム美術館には出島の模型があるなど日本美術を専門に紹介する展示室があるほど日本とのつながりが強い美術館でした。

その美術館と日本のつながりを多くの人に知ってもらう取り組みとしても素晴らしい取り組みだったのではないでしょうか。

まとめ

企業とミュージアムのパートナーシップの事例を紹介しました。

どの事例においてもミュージアムがこれまでアクセスすることが難しかった層にミュージアムの魅力を伝えることができています。

これまで以上にミュージアムの資料が世の中に伝わるような取り組むが増えることを願っています。

参考文献

  1. 文化庁.“法改正で変わる日本の博物館”.博物館総合サイト.https://museum.bunka.go.jp/law/,(2024年5月27日閲覧). ↩︎
  2. Swatch.“SWATCH JOINS FORCES WITH CENTRE POMPIDOU FOR AN ART-FILLED WATCH COLLECTION”.swatch.com.https://www.swatch.com/ja-jp/press-release-swatch-x-centre-pompidou.html,(2024年5月27日閲覧). ↩︎
  3. Airbnb.“A Night with Mona Lisa”.news.airbnb.com.https://news.airbnb.com/louvre/,(2024年5月27日閲覧). ↩︎
  4. Forbes.“Airbnb Offers Once-In-A-Lifetime Chance to Spend the Night at the Louvre”.forbes.com.https://www.forbes.com/sites/micheleherrmann/2019/04/04/airbnb-sleep-over-at-the-louvre/?sh=42773492a16c,(2024年5月27日閲覧). ↩︎
  5. rijksmuseum.“MIZUNO LIMITED EDITION SNEAKERS INSPIRED BY VERMEER’S MILKMAID”.rijksmuseum.nl.https://www.rijksmuseum.nl/en/press/press-releases/mizuno-limited-edition-sneakers-inspired-by-vermeer-s-milkmaid,(2024年5月28日閲覧).  ↩︎
  6. mizuno.“Mizuno x Rijksmuseum”.emea.mizuno.com.https://emea.mizuno.com/eu/en/tcs-amsterdam-marathon-2021.html,(2024年5月28日閲覧).  ↩︎
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この記事を書いた人

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日々の業務経験をもとに、ミュージアムの楽しさや魅力を発信しています。このサイトは、博物館関係者や研究者だけでなく、ミュージアムに興味を持つ一般の方々にも有益な情報源となることを目指しています。

私は、博物館・美術館の魅力をより多くの人に伝えるために「Museum Studies JAPAN」を立ち上げました。博物館は単なる展示施設ではなく、文化や歴史を未来へつなぐ重要な役割を担っています。運営者として、ミュージアムがどのように進化し、より多くの人々に価値を提供できるのかを追求し続けています。

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