ミュージアム運営において、来館者の満足度向上とリピーターの増加は成功の鍵 となります。そのためには、来館者の声を的確に収集し、施設やサービスの改善につなげることが重要です。
アンケート調査には、定量調査(Quantitative Research) と 定性調査(Qualitative Research) の二つの手法があります。
• 定量調査:数値データを収集し、統計的に分析する方法
• 定性調査:来館者の意見や感想を深掘りし、課題や強みを明確にする方法
本記事では、これらの手法を活用した効果的なアンケート設計方法を解説します。
なぜ来館者アンケートが重要なのか?
ミュージアム運営において、来館者アンケートは施設や展示の改善、来館者満足度の向上、リピーターの増加に不可欠なツール です。単なる来館者数の把握だけでなく、来館者の行動、満足度、期待、そして改善点 を定量・定性の両面から分析し、運営方針に活かすことができます。
① 来館者の行動パターンを把握し、展示・施設運営を最適化する
来館者アンケートは、どのような展示や体験が人気なのか、来館者がどのような経路で館内を移動するのかを明らかにします。
例えば、Centorrino et al.(2020) の研究では、ローマのボルゲーゼ美術館において来館者の動線を分析し、混雑管理や安全性の向上に貢献 しました1。このようなデータを基に、人気エリアの拡張や、導線の最適化 などの改善が可能になります。
▶ 具体的な活用例
• 館内の混雑状況を分析し、来館者の流れをスムーズにする(狭い通路の改善や休憩スペースの増設)
• どの展示がより長く滞在されるかを把握し、魅力的な展示のポイントを強化する
• 訪問者が見逃しがちなエリアを特定し、案内表示の改善やPRの強化を行う
② 来館者の満足度向上と再訪意向の向上
ミュージアムは、単に展示を提供する場ではなく、来館者が「また来たい」と思う体験を提供すること が重要です。
例えば、Løvlie et al.(2020) の研究では、ミュージアムが知識の伝達だけでなく、来館者同士の交流や共同体験を促進する場 であることが、満足度向上につながることが示されています2。
▶ 具体的な活用例
• 展示に関するフィードバックを収集し、「分かりやすさ」「興味深さ」を向上させる
• 「体験型」展示の評価を測定し、より没入感のあるコンテンツを強化する
• アンケートで不満点を把握し、改善することでリピーターを増やす
例えば、「展示が分かりにくかった」「説明が難しかった」 という声があれば、解説パネルを改良したり、AR・VR技術を活用してより直感的に学べる展示に変えることができます。
③ 来館者の多様なニーズを把握し、ターゲット層ごとに適した施策を打ち出す
ミュージアムの来館者は、年齢層・国籍・興味関心 など、非常に多様です。
アンケートを通じて、以下のようなターゲット層別のニーズを把握することができます。
▶ 年齢層別のニーズ把握の例
• 子ども連れの家族:遊びながら学べる体験型展示やワークショップを求める
• 若年層(10代・20代):インタラクティブな展示やデジタルコンテンツを好む傾向がある
• シニア層(60代以上):落ち着いた雰囲気の中でじっくり鑑賞できる環境を求める
このように、ターゲット層ごとに最適な施策を打ち出すためにも、来館者アンケートは不可欠な手段 となります。
④ プロモーションの効果測定とマーケティング戦略の強化
アンケートを活用することで、どの情報源を通じて来館者がミュージアムを知ったのか を分析し、より効果的なプロモーション戦略を立てることができます。
▶ 具体的な設問例
• 来館のきっかけは何ですか?(SNS・友人の紹介・チラシ・テレビ・ウェブサイトなど)
• どの展示を目的に来ましたか?(特定の企画展、常設展、イベントなど)
例えば、SNSを通じて来館した人が多い場合、SNS広告やインフルエンサーを活用したPRを強化する ことで、さらなる集客が期待できます。
また、「イベントの告知が分かりづらい」という意見があれば、告知方法を見直し、より多くの人にリーチできるようにすることができます。
⑤ 来館者のフィードバックを活用し、継続的な改善を行う
アンケートを一度取るだけではなく、定期的に実施し、トレンドの変化を把握する ことが大切です。
▶ 具体的な活用方法
• 毎年のアンケート結果を比較し、来館者のニーズの変化を分析
• 新しい展示やイベントの導入後にアンケートを実施し、評価を確認
• 収集したデータを基に、運営方針やマーケティング戦略を柔軟に見直す
結論:来館者アンケートのデータを最大限に活用し、ミュージアムの価値を高める
来館者アンケートは、単なるデータ収集の手段ではなく、ミュージアムの魅力を最大化するための重要なツール です。
• 来館者の行動や滞在時間を把握し、施設や導線を最適化
• 満足度向上のために、展示内容や体験型コンテンツを改善
• ターゲット層ごとのニーズを分析し、より魅力的な体験を提供
• プロモーション戦略の効果を測定し、集客施策を強化
• 定期的にアンケートを実施し、時代に合わせた改善を継続する
このように、来館者アンケートのデータを運営に活かすことで、「また来たい!」と思えるミュージアムづくりが可能になります。では、実際に定量調査ではどのようなことを設問にすると良いかを説明します。
定量調査(Quantitative Research)
定量調査は、数値データを収集し、来館者の傾向や行動を分析する手法 です。5段階評価や選択式の質問を活用することで、統計的な分析が可能になります。
① 来館者の基本情報を把握する
▶ 設問例
• あなたの年齢を教えてください。(10代・20代・30代…)
• どこから来館しましたか?(市区町村名、都道府県名)
• 誰と一緒に来館しましたか?(一人・家族・友人・恋人・学校など)
→ 目的:来館者の属性ごとの来館動機や満足度の違いを分析する
② 来館のきっかけと目的を探る
▶ 設問例
• 来館のきっかけは何ですか?(SNS・友人の紹介・チラシ・テレビ・ウェブサイトなど)
• どの展示を目的に来ましたか?(特定の企画展、常設展、イベントなど)
→ 目的:来館者がどの情報経路を利用しているのかを把握し、効果的なプロモーション戦略 を立てる
③ 施設や展示に対する満足度を測る
▶ 設問例
• 展示の内容は分かりやすかったですか?(5=とても満足 ~ 1=不満)
• 館内の案内表示は分かりやすかったですか?
• 休憩スペースやカフェの設備に満足しましたか?
→ 目的:施設の利便性や展示内容の分かりやすさを測定し、来館者の不満点を改善する
④ 再訪意向を尋ねる
▶ 設問例
• またこのミュージアムに来たいと思いますか?(はい・いいえ・分からない)
• その理由を教えてください。(自由記述)
→ 目的:リピーター獲得に向けた改善策を検討する
定性調査(Qualitative Research)
定性調査では、来館者の感想や意見を深掘りし、ミュージアムの課題や強みを明確にします。 自由記述式の質問を活用し、来館者の本音を引き出すことが重要です。
① 展示や施設に関する意見を収集
▶ 設問例
• 特に印象に残った展示やエリアは何ですか?その理由も教えてください。
• 館内で分かりづらかった点や改善してほしい点があれば教えてください。
→ 目的:数値では測れない「来館者の感じ方」を把握し、展示の魅力や課題 を特定する
② ミュージアム体験の感想を自由記述で集める
▶ 設問例
• 今日はどんな体験をしましたか?特に良かった点を教えてください。
• もし当ミュージアムに新しい展示を加えるなら、どんなものが良いですか?
→ 目的:来館者の期待や要望を把握し、今後の展示企画や体験プログラムの参考にする
③ ミュージアムの印象やブランディングに関する質問
▶ 設問例
• 当ミュージアムを一言で表すとしたら、どんな言葉が浮かびますか?
• 他のミュージアムと比べて、当ミュージアムの強みは何だと思いますか?
→ 目的:来館者がミュージアムに対して抱く印象や、競合と比較した際の独自性を把握する
まとめ
効果的な来館者アンケートの設計は、ミュージアムの運営改善やリピーターの増加に直結する重要な施策 です。本記事では、定量調査と定性調査 の両方を活用し、来館者の声を的確に収集する方法について解説しました。
アンケートの設計・実施にあたっては、以下のポイントを意識すると効果的です。
アンケート設計のポイント
✔ 定量調査で来館者の傾向を把握(年齢・居住地・来館目的・満足度)
✔ 定性調査で来館者の本音を引き出す(展示の感想・改善点・印象)
✔ アンケートの所要時間は5分以内にする(回答率向上のため)
✔ 選択式と自由記述のバランスを取る(数値データと具体的な意見を収集)
✔ オンライン対応を可能にする(タブレット・QRコード活用)
✔ 回答率を上げるためのインセンティブを用意する(割引やプレゼント)
✔ 定期的に分析し、運営改善につなげる(来館者の声を反映)
特に、Løvlie et al.(2020) の研究では、ミュージアムが「知識の伝達の場」から「交流・体験の場」へと進化することが、来館者の満足度やリピーター獲得に大きく影響することが指摘されています。このような視点を踏まえ、来館者の期待やニーズに応えるミュージアム運営を実現するために、アンケート結果を積極的に活用することが重要です。
「また来たい!」と思ってもらえるミュージアムを目指し、アンケートを活用してより良い運営につなげましょう!
参考文献
- Gonçalves, Carlos, et al. “Museum Visitor Experience and the Role of Interactive Technologies: A Case Study in a Science Museum.” Journal of Hospitality and Tourism Management, vol. 47, 2021, pp. 210–220. ↩︎
- Løvlie, Anders Sundnes, Birgitte Leerhøy Due, and Dorte Skot-Hansen. “Museums as Social Arenas: Engagement and Participation in Digital Spaces.” arXiv preprint arXiv:2011.11398 (2020). ↩︎