博物館に展覧会以外のイベントはなぜ必要なのか― 学習・関係性・価値・世代の視点から考える ―

博物館の中核的な活動は、言うまでもなく展覧会です。資料の収集・保存・調査研究という基盤の上に構築される展示は、博物館が社会に対して成果を提示する最も重要な手段であり、来館者にとっても博物館体験の中心を成してきました。その意味で、展覧会は今後も博物館活動の軸であり続けることに変わりはありません。

一方で近年、多くの博物館では、ワークショップやトークイベント、参加型プログラム、地域連携企画など、展覧会以外のイベントが数多く実施されるようになっています。この傾向は、単なる流行や一時的な試みではなく、国内外の博物館に共通して見られる動きです。しかしその一方で、こうしたイベントは「集客のためのにぎやかし」「展示を補うための付随的活動」「展示の代替手段」として理解されてしまうことも少なくありません。

こうした見方に立つと、イベントは展覧会に比べて二次的なもの、あるいは本来の博物館活動から逸脱したものとして評価されがちです。しかし、本当にイベントは展示の代わりに行われているのでしょうか。あるいは、展示では果たしきれない別の役割を担っているのでしょうか。この点を曖昧にしたままでは、イベントの是非を感覚的に論じることしかできません。

本稿の目的は、展覧会とイベントを優劣で比較することではありません。そうではなく、両者が担っている機能の違いを整理し、なぜ現代の博物館において展覧会以外のイベントが必要とされているのかを、研究成果に基づいて明らかにすることにあります。展覧会とイベントの機能差を丁寧に捉え直すことで、博物館が果たす教育的・社会的役割を、より立体的に理解することができるはずです。

目次

展示を見るだけでは、学習は十分に生まれないのか

博物館展示はどのように学びを生み出してきたのか

博物館展示は、知識や情報を空間的に提示し、来館者が自らの関心に応じて読み取り、理解を深めていくことができる点に大きな強みがあります。実物資料や視覚的要素を通じて構成された展示は、教科書や映像とは異なるかたちで理解を促し、博物館ならではの学習体験を生み出してきました。この意味で、展示は長らく博物館の教育的役割を担う中心的な手段であったと言えます。

しかし一方で、展示は基本的に「見る」ことを前提とした形式であり、来館者は情報を受け取る側に位置づけられやすい構造を持っています。キャプションを読み、展示物を鑑賞するという行為は、来館者の主体的な解釈を促す余地を持ちながらも、学びの過程そのものは比較的受動的になりがちです。特に、短時間で多数の展示を巡る場合、内容を十分に咀嚼することが難しく、学習が表層的な理解にとどまることも少なくありません。

この傾向は、親子来館や家族単位での博物館利用において、より顕著に現れます。展示空間では、子どもが展示物を見ても、その意味や背景を十分に理解することは容易ではなく、保護者もどのように関わればよいのか分からないまま鑑賞が進んでしまうことがあります。その結果、展示は「一緒に見る」経験にはなっても、「一緒に考える」「対話を通じて理解を深める」学習の場にはなりにくいという限界を抱えてきました。

イベントという「介入」は何を変えるのか

こうした展示の限界に対して、近年注目されているのが、博物館による意図的な「介入」としてのイベントやプログラムです。この点を実証的に示しているのが、親子来館に関する複数の研究を統合したメタ分析である「The Effectiveness of Museum Intervention on Parent–Child Conversations」です(Kupiec et al., 2023)。この研究は、博物館や科学館、動物園などで行われた実験研究を対象に、展示のみの場合と、声かけ、ワークシート、ガイド、ワークショップといった介入が加えられた場合を比較しています。

その結果、イベントや介入がある場合には、親子の対話量が有意に増加し、会話の質も向上することが示されました。重要なのは、単に会話が増えただけではなく、その内容が展示テーマに即したものへと変化した点です。雑談的なやり取りが増えるのではなく、展示物の意味や背景、疑問点について話し合う対話が促進されたことが確認されています。

さらに、この研究では、必ずしも学芸員やスタッフが常に付き添う必要はなく、展示内の問いかけや簡潔なガイド資料といった最小限の介入であっても、十分な効果が得られることが示されています。つまり、イベントや介入は人的コストの大小ではなく、学びを促す設計そのものが重要であることを示唆しています。

学習効果の観点から見たイベントの意義

これらの研究結果が示しているのは、イベントが展示を「分かりやすくする補助的な手段」にとどまらないという点です。イベントや介入は、来館者が展示内容を言語化し、他者と共有しながら意味づけていく学習プロセスそのものを支える役割を果たしています。展示を見る行為に、対話や思考のプロセスが加わることで、学びはより深く、記憶に残るものになります。

このように考えると、イベントは展示に付け足される周辺的な活動ではなく、博物館の教育機能を成立させるための重要な構成要素であると言えます。展示によって知識や情報に触れ、イベントによってそれを理解し、意味づける。この両者が組み合わさることで、博物館における学習は初めて十分に機能するのです。

イベントは学習補助ではなく「関係性を設計する装置」である

なぜイベントは一過性で終わることが多いのか

多くの博物館でイベントが実施されている一方で、その多くが単発的な取り組みとして終わっているのが現状です。新しい企画として注目を集めても、数回の実施で継続されず、次年度には別のイベントに置き換えられてしまう例は少なくありません。この背景には、イベントの成果が見えにくく、組織内で正当に評価されにくいという問題があります。

展覧会の場合、来館者数や入場料収入といった指標によって一定の成果を把握することができます。しかし、イベントの効果は、参加者の満足度や学びの深まり、博物館との関係性の変化といった定性的な側面に現れることが多く、短期的な数値として示すことが難しい傾向があります。その結果、イベントは「やってみたが効果が分からない」「評価しにくい活動」として位置づけられがちです。

さらに、イベントが展示とは切り離された「付加的業務」として扱われる場合、担当者の熱意や個人的な努力に依存する構造が生まれやすくなります。このような状況では、企画者が異動したり、業務負担が増加したりすると、イベント自体が継続できなくなってしまいます。こうしてイベントは、「その場では盛り上がったが、組織として何が残ったのか分からない」という「やった感」だけを残して終わることになります。

この問題は、イベントの内容が不足しているというよりも、イベントを博物館の活動全体の中でどのように位置づけるかという設計の問題であると言えます。イベントを学習補助や集客施策としてのみ捉える限り、その意義は限定的なものにとどまってしまいます。

コミュニティ・インフォームド・デザインとは何か

こうした課題に対して示唆を与えるのが、「コミュニティ・インフォームド・デザイン」という考え方です。この概念は、約10年間にわたる参加型プログラムの実践を分析したケーススタディに基づいて整理されています(Callahan Schreiber et al., 2024)。ここで注目されているのは、イベントを単発の企画としてではなく、博物館と人々との関係を形成していくプロセスとして捉える視点です。

この研究では、展示とイベントの性格の違いが明確に整理されています。展示は、調査研究の成果をもとに構築された「完成された知」を来館者に提示する形式です。一方、イベントや参加型プログラムは、参加、対話、試行錯誤を通じて進行していくプロセスそのものに価値が置かれます。そこでは、最初から完成形を想定するのではなく、実践を通じて内容や方法が変化していくことが前提とされています。

コミュニティ・インフォームド・デザインの重要な特徴は、来館者を一方的な受け手としてではなく、「関係者」として位置づける点にあります。参加者は、博物館が提供する体験を消費する存在ではなく、活動の方向性や内容に影響を与える存在として扱われます。そのため、プログラムの設計においても、参加者の声や反応が次の改善につながる仕組みが組み込まれます。

また、この考え方では、計画を固定せず、学びながら変えていく姿勢が重視されます。イベントの内容や進め方は、最初から完全に決められるものではなく、実施を通じて得られる気づきによって調整されていきます。こうした柔軟な設計が、参加者との信頼関係を育み、結果として継続的な関与を生み出す土台となります。

展示とイベントの役割分担をどう考えるべきか

ここまでの議論から明らかなように、展示とイベントは同じ役割を担うものではありません。展示は、博物館が蓄積してきた知識や成果を社会に向けて提示する手段であり、「知を示す」機能を担っています。一方、イベントは、その知をめぐって人々が関わり合い、対話し、意味を共有していくための場をつくる活動です。

この違いを踏まえると、展示とイベントは競合するものではなく、相互に補完し合う関係にあると言えます。展示がなければ、イベントは内容的な基盤を失い、イベントがなければ、展示は人々との関係性を深める機会を失います。両者が組み合わさることで、博物館は知識の提示と社会との接続を同時に実現することができます。

とりわけ重要なのは、イベントが博物館の公共性を具体化する装置として機能する点です。参加や対話を通じて、多様な人々が博物館と関わりを持つことで、博物館は単なる鑑賞の場を超え、社会との関係性を編み直す場となります。イベントをこのように位置づけることで、一過性で終わらない、持続的な博物館活動の可能性が開かれるのです。

市民は「参加できる博物館」を本当に価値あるものと感じているのか

参加型博物館は理念論に過ぎないのか

近年、博物館をめぐる議論では、「参加」や「共創」という言葉が頻繁に用いられるようになっています。しかし一方で、こうした概念は理念的で抽象的なものとして捉えられ、実務や経営の文脈では評価されにくいという認識も根強く存在しています。参加型の取り組みは理想としては理解できるものの、実際にどのような価値を生み、博物館の運営にどのように寄与しているのかが見えにくいと考えられてきました。

とりわけ、博物館経営の観点からは、参加型イベントや共創的プログラムは、来館者数や収益といった分かりやすい指標と結びつきにくい活動として扱われがちです。その結果、展示に比べて優先順位が下げられ、「余裕があれば実施するもの」「付加的な事業」として位置づけられることも少なくありません。このような状況が、参加型博物館を理念論にとどめてきた一因であると言えます。

しかし、この見方は本当に妥当なのでしょうか。市民は、展示中心の博物館と比べて、参加できる博物館に価値を感じていないのでしょうか。この問いに対して、感覚や印象ではなく、実証的に答えようとした研究が近年登場しています。

参加型活動の価値をどう測定したのか

参加型博物館の価値を定量的に検証した研究として注目されるのが、「I like participatory museums but, how much?」です(Gómez-Zapata et al., 2024)。この研究は、参加型活動が市民にどの程度評価されているのかを、経済学的手法を用いて測定した点に特徴があります。

研究では、仮想評価法や選択実験と呼ばれる手法が用いられました。これは、回答者に対して複数の博物館モデルを提示し、それぞれにどの程度の価値を感じるか、また金銭的にどの程度まで支払ってもよいと考えるかを尋ねる方法です。ここでは、展示中心の博物館モデルと、地域連携や参加型イベント、社会課題への関与を含む博物館モデルが比較されました。

その結果、展示中心モデルに比べて、参加型要素を含む博物館モデルが一貫して高く評価されることが明らかになりました。特に、地域社会と連携した活動や、社会的課題に取り組むイベントは、回答者から高い支持を得ています。これらの活動は、単なる鑑賞体験を超えて、博物館が社会とどのように関わっているのかを具体的に示すものとして受け止められていることが示唆されます。

さらに重要なのは、こうした評価が「支払意思額(Willingness To Pay)」という形で可視化された点です。参加型活動を含む博物館に対して、回答者はより高い金額を支払ってもよいと考えており、参加型イベントが社会的価値として認識されていることが定量的に示されました。これは、参加型活動が単なる好意的評価にとどまらず、経済的価値としても捉えられていることを意味します。

イベントは博物館経営にどのような意味を持つのか

この研究が示しているのは、イベントや参加型活動が理念的な取り組みではなく、市民によって明確に評価される価値創出行為であるという点です。展示を中心とした従来型の博物館像に対して、参加や関与の機会を提供する博物館は、より高い社会的評価を得ていることが明らかになっています。

このことは、博物館経営にとって重要な示唆を含んでいます。イベントは、短期的な集客効果だけを狙った施策ではなく、博物館の価値そのものを高める活動として位置づけることができます。市民が価値を感じる活動に資源を配分することは、博物館の公共性を強化すると同時に、長期的な支持や持続可能性を確保することにもつながります。

参加型イベントは、博物館が社会とどのような関係を築いているのかを具体的に示す装置であり、その価値はすでに市民の側から評価されています。経営と理念を切り離して考えるのではなく、参加型活動を博物館経営の中核に位置づける視点が、今後ますます重要になると言えるでしょう。

若者世代にとって、イベントは博物館との主要な接点である

なぜ若者は博物館に来ないと言われるのか

近年、「若者の博物館離れ」という言葉がしばしば用いられています。来館者調査においても、若年層の来館頻度が相対的に低いことが指摘されることがあり、博物館は若者にとって敷居の高い場所であるというイメージが定着しつつあります。しかし、この状況を単純に「若者が博物館に興味を持っていない」と捉えることは、問題の本質を見誤る可能性があります。

若者の博物館離れが語られる背景には、展示中心モデルとの相性の問題があります。多くの博物館展示は、一定の知識や関心を前提に構成されており、静かに鑑賞し、解説を読み取ることが期待されています。この形式は、目的意識を持って来館する層には適している一方で、「何をどう楽しめばよいのか分からない」若者にとっては距離を感じさせる要因となりやすい構造を持っています。

その結果、若者が博物館を訪れない理由は、文化への無関心というよりも、「自分が関わる余地を見出しにくい」という体験設計の問題として理解する必要があります。若者の博物館離れは、展示中心モデルの限界が顕在化した現象として捉えることができます。

Z世代が博物館に求めているもの

この点を具体的に示しているのが、「The Participatory Engagement of Generation Z in Museums」です(Vikmane et al., 2025)。この研究は、ラトビアの博物館における参加型プログラムを事例として、Z世代がどのように博物館と関わり、何を価値として感じているのかを質的に分析しています。

研究によれば、Z世代は展示を受動的に鑑賞するだけの体験には、強い意味を見出しにくい傾向があります。一方で、展示制作やプログラム運営への参加、意見の表明、他者との協働といった要素を含む活動には、明確な関心と積極的な関与を示しています。ここで重要なのは、若者が「学び」を拒否しているのではなく、学びに至るプロセスへの関与を重視している点です。

また、この研究では、心理的安全性の確保が若者の参加を左右する重要な条件として指摘されています。正解を求められないこと、意見を否定されないこと、失敗が許容されることといった環境が整っている場合、若者は博物館を「自分がいてよい場所」として認識しやすくなります。さらに、単発のイベントではなく、継続的に関われる仕組みがある場合に、博物館との関係性が定着しやすいことも示されています。

イベントは将来の博物館を支える入口になる

これらの知見から導かれるのは、イベントが若者にとって博物館との「最初の接点」として機能しているという点です。展示を目的に来館しない若者であっても、参加型イベントを通じて博物館と関わることで、その存在意義や活動内容を理解するきっかけが生まれます。

この最初の接点は、その場限りの体験にとどまるものではありません。継続的な参加を通じて、若者は将来の来館者となり、支援者となり、場合によっては博物館活動を担う側へと移行していきます。イベントは、単なる集客手段ではなく、次世代と博物館をつなぐ入口として、将来の博物館を支える基盤的な役割を果たしているのです。

まとめ|展覧会とイベントをどう位置づけるべきか

本稿で見てきたように、展示は博物館にとって不可欠な中核的活動である一方、それだけでは学習の深化や来館者との関係構築を十分に担うことは難しい側面があります。展示は知や成果を提示する優れた手段ですが、その意味を理解し、共有し、社会的文脈の中で位置づけていくためには、対話や参加のプロセスが必要となります。

イベントは、こうしたプロセスを具体化する装置として機能します。教育的には学びを深め、公共性の面では多様な人々との関係性を編み直し、経営の観点からは博物館の価値を社会に可視化する役割を果たします。したがって、展覧会以外のイベントは付随的・周辺的な活動ではなく、現代の博物館を成立させる中核的機能として位置づけるべきものです。展示とイベントが組み合わさることで、博物館は初めて社会と持続的に結びつく場となるのです。

参考文献

Kupiec, K., Malmberg, L.-E., & Mathers, S. J. (2023). The effectiveness of museum intervention on parent–child conversations: A meta-analysis. Visitor Studies, 26(1), 82–102.

Callahan Schreiber, R., Goeke, M., & Bequette, M. (2024). Community-informed design: Blending community engagement and museum design approaches for sustainable experience development. Curator: The Museum Journal, 67(2), 441–457.

Gómez-Zapata, J. D., Del Barrio-Tellado, M. J., Espinosa-Casero, F., & Herrero-Prieto, L. C. (2024). I like participatory museums but, how much? Embedding demand-side value in assessing strategies. Socio-Economic Planning Sciences, 96, 102111.

Vikmane, E., Tjarve, B., & Cērpa, L. K. (2025). The participatory engagement of Generation Z in museums: A case study from Latvia. Museum International, 77(1–2), 14–27.

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この記事を書いた人

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日々の業務経験をもとに、ミュージアムの楽しさや魅力を発信しています。このサイトは、博物館関係者や研究者だけでなく、ミュージアムに興味を持つ一般の方々にも有益な情報源となることを目指しています。

私は、博物館・美術館の魅力をより多くの人に伝えるために「Museum Studies JAPAN」を立ち上げました。博物館は単なる展示施設ではなく、文化や歴史を未来へつなぐ重要な役割を担っています。運営者として、ミュージアムがどのように進化し、より多くの人々に価値を提供できるのかを追求し続けています。

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