ヴィクトリア&アルバート美術館 とAdobeのパートナーシップ

先の記事にてユニクロの事例からミュージアムと企業のパートナーシップの新しい在り方について紹介しました。

ミュージアムにとってはやりたい事業に資金や広報で企業と協力ができて、企業側もミュージアムが持つコレクションのデザインの良さを商品に活かしたりと双方にメリットがあることが分かりました。

今回の記事では前回ご紹介したユニクロとは別の企業はどのような取り組みをミュージアムと協働しているのかを紹介したいと思います。

目次

ヴィクトリア&アルバート美術館 とAdobeの紹介

UnsplashTheodor Vasileが撮影した写真

最初に紹介するのは英国のロンドンにあるヴィクトリア&アルバート美術館とillustratorなどで有名なAdobeのパートナーシップの事例です。

ヴィクトリア&アルバート美術館のことを簡単にご紹介すると現代美術や各国の古美術、工芸、デザインなど多岐にわたる400万点の膨大なコレクションを中心にしたイギリスの国立博物館です。特に英国の中ではデザインに関しては一番重要な美術館になっています。

また、この美術館の成り立ちも面白くて1851年のロンドン万国博覧会の収益や展示品をもとに、1852年に産業博物館として開館した。1851年の万国博覧会で欧州諸国に比して英国の産業製品のデザインの質が著しく低いことが指摘され、公衆の「趣味」を教育によって啓蒙し高めるべきであるという議論が沸き起こり、装飾美術館(Museum of Ornament Art)と改名したという歴史があります。

要するに英国のデザインの発展を未来に繋げるための美術館というわけです。

一方、Adobeはどのような会社かというとみなさまが普段使っているAcrobat PDFや写真編集ソフトのPhotoshopや動画編集ソフトのPremiere Proなど日々のデザイン性の高い制作物を作るのに欠かせないソフトを作っている会社です。

このようにヴィクトリア&アルバート美術館 とAdobeには「デザインを啓蒙する」という共通の目的があることが分かります。

では、ヴィクトリア&アルバート美術館 とAdobeはどのようなパートナーシップを結んでいるのでしょうか。

ヴィクトリア&アルバート美術館 とAdobeのパートナーシップ

ヴィクトリア&アルバート美術館 とAdobeのパートナーシップは「デザインの未来を育てる」という共通目的を達成するための取り組みを行なっています。

具体的には過小評価されているコミュニティのクリエイターに、ストーリーを共有し、夢を追求し、キャリアの成功を達成するために不可欠なクリエイティブスキルを構築するためのより多くのアクセスと機会を与えることを行なっています。

過小評価されているコミュニティとは実際にデザイン教育を受けることが難しい地域のことを指しています。

このような地域の出身であるために優れた過去のデザインに触れることができず、才能があったとしても新しいクリエイティビティを生み出すための学びの機会を得るための資金がない若者が一定数いることが問題になっています。

このような未来ある若者が金銭面で苦労することなく自らの創作活動に集中できるようにヴィクトリア&アルバート美術館とAdobeがサポートするプログラムになっています。

このクリエイティブレジデンツプログラムは、キャリアの早い段階のアーティストに対して、スタッフの専門知識、指導、作品を展示するプラットフォームなどの美術館のリソースへのアクセスを提供します。

12 ~ 18 か月の期間中、クリエイティブレジデントはスキルを磨き、彼らのネットワークを拡大し、デザインする能力を開発する機会が与えられます。

また、滞在期間中、クリエイティブな居住者は地域コミュニティと連携して、社会に関与したアートワークを制作します。

このようにデザイン活動を続けたくてもキャリアの早い段階であると金銭的余力がないため、そのキャリアを諦めてしまう可能性がある方の才能を未来に繋げるためのプログラムになっています。

このプログラムでは「イラストレーション」、「セラミック工芸」、「衣装デザイン」に分かれています。

これらのプログラムに選ばれた参加者は自らの創作活動をする場所を与えられるだけでなく、ヴィクトリア&アルバート美術館で開催される展覧会に合わせて自らのワークショップを提供することもできます。

このワークショップは美術館側としては展覧会を盛り上げるための良い企画になりますし、参加者も美術館に訪れる人たちとの新しい繋がりを作るための良い機会になります。

このような取り組みに対してAdobeは主に資金面の自社が用意できるソフトを提供して協力しています。

では、このようなプログラムはAdobeにとってはどのようなメリットになるのかを次に考察したいと思います。

Adobeがヴィクトリア&アルバート美術館と協働するメリット

UnsplashEmily Bernalが撮影した写真

Adobeが得ることができるメリットはミュージアムと協働することにより自社の社会的価値を高めることができることです。

企業だけの活動ではデザインを啓蒙する目的であったとしても自社の製品を無料で提供したりすることは営利活動をしていく上でできません。

しかし、ミュージアムと協働することで無料でソフトを提供することに対して株主からの理解を得たり、社会からも評価されやすくなります。

また、ヴィクトリア&アルバート美術館が既に築き上げてきた歴史に寄り添うことによりAdobe自体のブランドの向上にも繋がります。

資金面ではパートナーシップがマイナスになることがあったとしても見返りとして企業価値をさらに高めていくことができると考えれば普段、広報にかける金額以上のメリットが企業にはあるかもしれません。

実際にAdob​​e Foundation 理事のステイシー マーティネット氏は次のように述べています。

「Adobe Foundation は、誰もが 21 世紀の労働力で成功するために必要なクリエイティブなスキルを開発できるようにする、この種初のコラボレーション、有意義で影響力のあるプログラムに投資できることを誇りに思います。」

https://news.adobe.com/news/news-details/2023/Adobe-Launches-New-Creative-Residency-With-World-Renowned-Museums-To-Empower-the-Next-Generation-of-Creators/default.aspx

この言葉からも分かるようにミュージアムとのパートナーシップが企業の投資活動としても効果的であることがわかるかと思います。

まとめ

今回はヴィクトリア&アルバート美術館 とAdobeのパートナーシップについて解説しました。

ミュージアムはただ企業からの資金的援助を受けることを考えるのではなく、企業とミュージアム双方のミッションが達成できるようなプログラムを開発することが大切かと思います。

日本においてもこのような企業とミュージアムのパートナーシップが盛んになり、双方にとってメリットのある取り組みが増えればと思います。

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この記事を書いた人

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日々の業務経験と研究知見をもとに、博物館の魅力と可能性を多角的に発信しています。本サイトは、学芸員課程の学生や博物館実務者を主な対象としながら、ミュージアムに関心を持つ一般の方々にも理解しやすい形で、理論と実践を架橋する情報提供を目指しています。

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