博物館の会員はなぜ継続するのか

博物館の会員制度については会員なのに、最近あまり来ていない人や特典はほとんど使わない人もいらっしゃるかもしれません。

実際、会員向けの無料入館や割引、限定イベントといった特典は用意されているものの、それらを頻繁に利用している会員ばかりとは限りません。年に数回しか来館しない人、しばらく足が遠のいている人も少なくないでしょう。それでも、多くの博物館では会員の更新率は一定水準を保っています。「あまり来ていないのに、なぜ更新するのか」という問いは、決して一部の館だけのものではなく、広く共有されている現象だと言えます。

この状況を、単に「忙しくて来られない」「生活環境が変わったから」と片づけてしまうこともできます。しかし、それだけでは説明しきれない何かがあるようにも感じられます。もし会員制度が純粋に「お得な仕組み」であるなら、使われなくなった時点で解約されても不思議ではないからです。

では、博物館の会員制度は、何によって支えられているのでしょうか。来館頻度や特典利用だけでは測れない、別の理由があるのではないでしょうか。本記事では、「なぜ使われなくても会員が続くのか」という素朴な疑問を手がかりに、博物館の会員制度を少し違った角度から整理していきます。

目次

博物館の会員制度は「お得さ」だけで説明できるのか

博物館の会員制度と聞いて、多くの人がまず思い浮かべるのは「割引」や「無料入館」といった特典ではないでしょうか。何度も足を運ぶ人にとっては入館料が抑えられ、会員限定イベントや先行内覧といった付加的なサービスも受けられる。こうした点から、会員制度はしばしば「たくさん利用する人ほど得をする仕組み」として説明されます。

実際、会員制度を紹介する案内やウェブページでも、無料入館、割引、優先参加といった具体的な特典が前面に出されることが多く、制度の魅力を分かりやすく伝えるうえでは合理的な説明だと言えるでしょう。来館頻度が高い人にとって、会員になることは経済的にも納得しやすい選択です。

しかし、現場の実態に目を向けると、この説明だけでは捉えきれない側面が見えてきます。多くの博物館では、会員の中に「入会したものの、結果的に元を取っていない」「特典をほとんど使っていない」という人が一定数存在します。年に一度か二度しか来館しない、会員限定イベントには参加しない、といった会員は決して珍しくありません。

もし会員制度が純粋に「利用回数に応じて得をする仕組み」であるならば、こうした会員は早い段階で更新をやめても不思議ではないはずです。ところが実際には、特典を十分に使っていない会員であっても、毎年更新を続けているケースが多く見られます。この点は、会員制度が単なる割引制度として理解されているだけでは説明しきれません。

ここで立ち止まって考えてみる必要があります。博物館の会員制度は、本当に「利用の多さ」によってのみ支えられているのでしょうか。それとも、会員であること自体が、来館頻度や特典利用とは別の価値を持っているのでしょうか。会員制度を「どれだけ使われているか」という視点だけで評価するのではなく、「どのような関係をつくっているのか」という観点から捉え直すことで、別の姿が見えてくるのかもしれません。

本節では、博物館の会員制度を「お得さ」だけで説明する見方をいったん脇に置き、制度が持つもう一つの側面、すなわち博物館と人との関係を形づくる仕組みとしての可能性について考えるための出発点を提示します。

博物館の会員は、どんな理由で入会しているのか

博物館の会員制度について考えるとき、しばしば前提とされるのが「何度も来館する人が会員になる」というイメージです。確かに、入館料を気にせず展覧会を楽しみたい人や、家族で繰り返し訪れたい人にとって、会員になることは分かりやすい選択肢です。しかし実際の会員構成を見ていくと、それだけでは説明できない多様な理由が存在していることが分かります。

「何度も来たい人」だけが会員になるわけではない

会員になる理由として最も想像しやすいのは、「頻繁に来館したい」「家族で利用したい」といった利用目的です。特別展のたびに足を運ぶ人や、子どもと一緒に展示やイベントに参加したい家庭にとって、会員制度は利便性の高い仕組みだと言えるでしょう。こうした利用を前提とした入会は、会員制度の基本的な姿として広く共有されています。

一方で、会員の中には必ずしも来館頻度が高くない人も含まれています。年に一度しか訪れない、家族利用でもないにもかかわらず、会員であり続けている人がいるという事実は、「会員になる理由」が利用目的だけではないことを示しています。会員制度を理解するためには、この点に目を向ける必要があります。

応援したい・関わりたいという動機

利用目的とは別に、多くの博物館で見られるのが「応援したい」「関わっていたい」という動機です。博物館の展示や活動に価値を感じ、その継続を支えたいという気持ちから会員になる人もいます。これは、頻繁に足を運ぶかどうかとは必ずしも結びつかない動機です。

また、博物館が果たしている文化的・教育的な役割に共感し、「会員になること自体」に意味を見出す人もいます。自分は積極的に利用しなくても、会員として名前を連ねることで博物館とのつながりを保ちたい、という考え方です。海外の調査でも、博物館会員の動機は利用、支援、誇り、関与といった複数の側面から整理できることが示されています(Paswan & Troy, 2004)。

このように、博物館の会員動機は一つではありません。会員制度は、単に来館回数を増やすための仕組みというよりも、人それぞれ異なる関わり方を受け止める枠組みとして機能している可能性があります。この多様な動機を踏まえずに会員制度を捉えると、実態とのずれが生じやすくなるでしょう。

「使われていないのに続く」会員制度の不思議

博物館の会員制度をめぐって、もう一つ興味深いのが「あまり使われていないのに、更新は続いている」という現象です。会員になったものの、来館頻度は高くない。会員限定イベントにもほとんど参加していない。それでも毎年、更新の手続きを行う人が少なくありません。この状況は、多くの博物館で共通して見られます。

特典利用と会員継続は一致しない

一般的な感覚では、会員制度は「使えば使うほど得をする」仕組みとして理解されがちです。そのため、来館頻度が下がれば、更新をやめる人が増えてもおかしくありません。しかし現実には、来館回数が少なくなっても会員を続ける人が一定数存在します。

この点を経済合理性だけで説明しようとすると、どうしても無理が生じます。入館料の元を取っていない、特典も活用していない。それにもかかわらず更新するという行動は、「損得」だけでは判断されていないことを示しています。会員継続は、単なる利用頻度の結果ではなく、別の要因によって支えられている可能性があります。

会員であること自体が持つ意味

こうした行動を理解する手がかりとして注目されてきたのが、「会員であること自体が持つ意味」です。会員であることは、単にサービスを受ける立場であること以上に、自分と博物館との関係を表すものとして受け止められている場合があります。

たとえば、会員であることに誇りを感じたり、文化や知の場を支えている一員だと意識したりする人もいます。また、会員であることが自分の関心や価値観を象徴するものとなり、「会員である私」という自己イメージの一部を形づくっている場合もあるでしょう。こうした側面は、会員の行動を利用回数だけで測ろうとすると見落とされがちです。

会員の意味づけに着目した研究では、博物館会員が感じている誇りや所属感、社会的な評価意識が、特典利用とは異なる次元で行動に影響していることが指摘されています(Glynn et al., 1996)。ここで言う「威信」とは、外から見える地位の高さというよりも、会員であることを前向きに捉える内面的な感覚に近いものです。

このように考えると、会員制度が「使われているかどうか」だけで評価されるべきものではないことが見えてきます。会員継続の背景には、博物館との関係性や意味の捉え方が深く関わっている可能性があるのです。

会員であり続ける理由は、時間とともに変わる

博物館の会員制度を理解するうえで、もう一つ重要なのが「時間」という視点です。入会したばかりの会員と、何年も会員を続けている人とでは、博物館との関わり方が同じであるとは限りません。会員制度を一時点の行動だけで捉えてしまうと、こうした変化は見えにくくなります。

入会直後と長期会員では行動が違う

一般に、入会直後の会員は、比較的積極的に博物館を利用する傾向があります。無料入館や割引といった特典を試し、会員限定のイベントや情報にも関心を示すことが多いでしょう。会員になったこと自体が新鮮で、制度を「使ってみよう」という意識が強い時期だと言えます。

一方で、会員歴が長くなるにつれて、こうした利用行動は次第に落ち着いていく傾向があります。来館頻度が下がり、特典やイベントへの参加も減っていく。これは必ずしも博物館への関心が失われたことを意味するわけではなく、会員としての関わり方が変化している結果と考えることができます。実際、会員歴が長いほど特典利用が低下する傾向は、海外の調査でも確認されています(Slater, 2003)。

それでも会員をやめない理由

興味深いのは、利用が減っても会員をやめない人が多い点です。そこには、いくつかの理由が重なり合っていると考えられます。一つは、会員であることが生活の中で習慣化しているケースです。毎年更新することが当たり前になり、特別な理由がない限り続ける、という感覚です。

また、博物館に対する好意や信頼が、継続を支えている場合もあります。頻繁に訪れなくなっても、博物館の存在そのものを大切に感じており、「なくなってほしくない」「続いてほしい」という気持ちから会員であり続ける人もいるでしょう。さらに、会員としての距離感が安定し、無理のない関わり方に落ち着いていることも考えられます。

会員歴と利用行動の変化は、しばしば否定的に捉えられがちですが、必ずしもそうとは限りません。入会当初の積極的な利用から、より穏やかな関係へと移行することは、博物館と会員との関係が成熟していく一つの過程とも言えます。会員であり続ける理由は固定されたものではなく、時間とともに形を変えながら維持されているのです。

「誰が続くか」ではなく「どう続いているか」を考える

ここまで見てきたように、博物館の会員制度をめぐる継続の背景は一様ではありません。それにもかかわらず、会員制度の評価や議論では、「誰が続くのか」「どの属性の人が更新するのか」といった点に注目が集まりがちです。しかし、この問いの立て方だけでは、会員制度の実態を十分に捉えることは難しいように思われます。

同じ「更新」という行為であっても、その中身は人によって大きく異なります。会員制度を理解するためには、継続を一つの結果として見るのではなく、「どのような形で続いているのか」という質の違いに目を向ける必要があります。

同じ「更新」でも中身は違う

会員の継続には、いくつかの異なるあり方が考えられます。まず分かりやすいのは、展示やイベントを積極的に利用することを前提とした「利用としての継続」です。来館頻度が高く、会員特典を活用することで、会員制度のメリットを実感しているタイプと言えるでしょう。

一方で、来館頻度はそれほど高くなくても、博物館の活動を支えたいという気持ちから会員を続ける「支援としての継続」もあります。この場合、更新は利用の対価というよりも、博物館への賛同や応援の表現に近い意味を持ちます。

さらに、会員であることが自己認識や所属意識と結びついている「所属としての継続」も考えられます。博物館の一員であるという感覚や、その場に関わっているという意識が、更新を支えているケースです。そして、明確な理由を意識することなく、毎年更新することが習慣化している「習慣としての継続」も存在します。これらは優劣の関係ではなく、同時に重なり合うこともあります。

会員制度を設計するうえで重要な視点

このように考えると、会員制度を設計・運営するうえで重要なのは、会員を一括りにしないことです。更新しているという一点だけで同じ会員として扱ってしまうと、それぞれが会員制度に求めているものとの間にずれが生じやすくなります。

継続要因を数量的に分析した研究では、満足度や来館頻度、会員歴などが更新に影響することが示されています(An & Butler, 2017)。しかし、これらの要因が同じであっても、会員がどのような意味づけで継続しているかは異なります。会員制度を「誰が続くか」だけでなく「どう続いているか」という視点から捉えることで、会員一人ひとりに応じたコミュニケーションや関係づくりの可能性が広がるのではないでしょうか。

まとめ

博物館の会員制度は、しばしば「どれだけ使われているか」「特典が活用されているか」といった指標で評価されがちです。しかし、本記事で見てきたように、会員制度の実態はそれほど単純ではありません。来館頻度が低く、特典をあまり使っていなくても、会員であり続ける人は数多く存在します。

その背景には、会員制度が単なる割引やサービスの仕組みではなく、博物館との関係を形づくる枠組みとして機能しているという側面があります。利用として続く会員もいれば、支援や共感の表現として会員であり続ける人もいます。また、所属意識や習慣として自然に更新を続けている場合もあり、継続のかたちは一様ではありません。

このような多様性を踏まえると、会員制度を「使われる/使われない」という二分法だけで捉えることには限界があります。重要なのは、会員が博物館とどのような関係を結び、その関係をどのような形で維持しているのかという点です。

博物館会員制度は、「どれだけ来たか」ではなく、「どんな関係として続いているか」という視点から捉え直すことで、その意義や可能性がより立体的に見えてくるはずです。

参考文献

  • An, J., & Butler, P. (2017). Understanding loyalty to membership-based organizations: A study of museum members. International Journal of Arts Management, 19(3), 36–49.
  • Glynn, M. S., Bhattacharya, C. B., & Rao, H. (1996). Art museum membership and cultural distinction: Relational motives and consumption values. Journal of Consumer Research, 23(2), 168–184.
  • Paswan, A. K., & Troy, L. C. (2004). Non-profit organization and membership motivation: An exploration in the museum industry. Journal of Marketing Theory and Practice, 12(2), 1–15.
  • Slater, A. (2003). Consumers of museum services. Journal of Marketing Management, 19(3–4), 373–392.
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この記事を書いた人

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日々の業務経験をもとに、ミュージアムの楽しさや魅力を発信しています。このサイトは、博物館関係者や研究者だけでなく、ミュージアムに興味を持つ一般の方々にも有益な情報源となることを目指しています。

私は、博物館・美術館の魅力をより多くの人に伝えるために「Museum Studies JAPAN」を立ち上げました。博物館は単なる展示施設ではなく、文化や歴史を未来へつなぐ重要な役割を担っています。運営者として、ミュージアムがどのように進化し、より多くの人々に価値を提供できるのかを追求し続けています。

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