博物館の組織構造とは何か―使命と戦略を実行する役割・権限・関係の設計

目次

組織図を見るだけでは、組織構造はわからない

博物館の組織構造を知ろうとするとき、まず思い浮かぶのは組織図でしょう。館長の下に学芸部門や総務部門が置かれ、その下に課や係が並ぶ。組織図を見れば、どのような部門や職位があり、誰が誰に報告するのかという公式な関係の一部は確認できます。しかし、それだけでは、博物館という組織が実際にどのように仕事を進め、意思決定しているのかまでは分かりません。

例えば、一つの展覧会を実施する場合を考えてみます。企画を立てるのは誰か。開催に必要な予算を誰が判断するのか。資料の保存、教育プログラム、広報、契約や支出を担当する職員は、どの段階から関わるのか。部門間で意見が異なったときには、誰が調整し、誰が最終的に決定するのか。こうした仕事の分担、権限と責任、報告関係、部門間の調整まで見なければ、その博物館の組織構造を十分に理解することはできません。

この問題は、博物館の経営のしくみとも深く関わっています。博物館のビジネスモデルでは、どのような価値を生み、それを誰に届け、活動をどのように持続させるのかを考えます。しかし、その仕組みを実際に動かすためには、必要な仕事を人や部門に割り当て、誰にどこまでの権限を与え、どのように責任を負わせるのかを決めなければなりません。価値を生み出す仕組みと、それを実行する組織の設計は切り離せない関係にあります。

日本の博物館制度でも、使命と組織運営は別々の問題として扱われているわけではありません。2026年に改正された「博物館の設置及び運営上の望ましい基準」では、博物館が目的と使命を明確にした基本的運営方針を定め、それに基づいて必要な資源を適切に配分することが求められています。使命を掲げるだけではなく、それを実際の活動として実行できる体制を整えることまでが、博物館経営の課題となっています。

本記事では、博物館の組織構造を単なる部署や職位の並び方としてではなく、使命と戦略を実行するために、仕事をどう分け、どの単位にまとめ、誰に権限と責任を置き、どのような報告関係と調整経路をつくるのかという組織設計として考えます。組織図を見ることは出発点です。その先にある、人と仕事と権限の組み合わせを読み解くことが、博物館の組織構造を理解する第一歩になります。

組織構造とは何か――組織図との違い

組織構造を考えるうえで、組織図は重要な手がかりになります。そこには、どのような部門や職位が置かれ、誰が誰に報告するのかという公式な関係が示されています。しかし、組織図に描かれているのは、組織構造の一部にすぎません。実際に博物館がどのように仕事を進めているのかを理解するには、部門や職位の配置だけでなく、その背後にある仕事、権限、責任、調整の関係まで見る必要があります。

組織構造を形づくる第一の要素は、仕事の分け方です。博物館が担う仕事をどのように分け、それぞれをどの職員や部門が担当するのかを決めなければなりません。次に必要なのが、分けた仕事をどの単位にまとめるかという設計です。似た仕事を一つの部門に集める場合もあれば、異なる専門性を持つ職員を一つのプロジェクトに集める場合もあります。組織設計では、こうした仕事の専門化や部門への集約が重要な論点となります(Mintzberg, 1980)。

さらに、仕事を分けるだけでは組織は動きません。誰が誰に報告するのか、どの判断をどの職位で行うのか、その判断について誰が責任を負うのかを定める必要があります。同時に、分けられた仕事を再びつなぐ仕組みも必要です。展示、保存、教育、広報、管理運営などが別々に動けば、それぞれの仕事は成立しても、博物館全体として一貫した活動にはなりません。会議やチーム、担当者間の連絡などを通じて仕事を調整することも、組織構造を構成する重要な要素です。博物館の組織運営においても、スタッフをどのように組織し、チームとして仕事を進めるかは重要な設計課題となります(Lord, 2024)。

ここで注意したいのは、組織構造と、それに近い経営概念を混同しないことです。博物館のガバナンスが、組織全体を誰が方向づけ、監督し、最終的な責任を負うのかを問うのに対して、組織構造は、その方向性を実行するために仕事や権限、責任、報告関係をどう配置するかを扱います。また、博物館の人事マネジメントは、必要な人材をどのように採用し、配置し、育成し、評価するかを扱います。組織構造が「どのような役割や権限を置くか」を決めるのに対し、人事マネジメントは「そこで働く人をどう確保し、活かすか」を考える領域だと整理できます。

博物館のリーダーシップとも区別が必要です。館長などの職位にどのような公式な権限を置くかは組織構造の問題ですが、その立場にある人が方向性を示し、職員との関係を築き、組織を動かしていく過程はリーダーシップの問題です。実際の博物館経営では相互に関係しますが、同じものではありません。

したがって、組織図は不要なのではありません。公式な部門、職位、報告関係を確認し、組織の基本的な骨格を把握するための重要な資料です。ただし、組織図だけを見て「この博物館はどのような組織なのか」を判断することはできません。組織構造を理解するには、仕事をどう分け、どの単位にまとめ、誰に権限と責任を置き、それぞれをどのようにつないでいるのかまで読み解く必要があります。

組織構造をどう設計するのか――5つの問い

組織構造を考えるとき、最初から理想的な組織図を描こうとする必要はありません。重要なのは、現在の仕事がどのように分けられ、まとめられ、誰に権限と責任が置かれ、それぞれの仕事がどのようにつながっているのかを確認することです。組織設計では、仕事の専門化、部門への集約、権限の配分、調整の仕組みなどを組み合わせて考える必要があります(Mintzberg, 1980)。ここでは、こうした組織設計論を博物館の実務に引きつけ、自館の組織構造を読み解くための五つの問いとして整理します。

1.仕事をどう分けるか

第一の問いは、博物館が担う仕事をどのように分けるかです。収集、保存、調査研究、展示、教育、広報、施設管理などには、それぞれ異なる知識や技能が必要になります。仕事を専門化することで、特定分野の知識や経験を蓄積し、高度な業務を継続して担うことが可能になります。専門職の判断が重要な博物館では、こうした専門分化には大きな意味があります。

一方、すべての仕事を細かく分ければよいわけではありません。職員数が限られる館では、一人が複数の業務を担うこともあります。また、仕事を細分化しすぎれば、自分の担当以外の活動が見えにくくなることもあります。したがって問うべきなのは、「専門化されているか」ではなく、どの仕事に専門性を集中させ、どの仕事を兼務できるようにするのかです。

2.どの仕事をまとめるか

仕事を分けた後には、それをどの単位にまとめるかを考える必要があります。保存を独立した部門とするのか、資料管理と一体化するのか。教育と来館者サービスを同じ部門に置くのか、異なる部門とするのか。同じ博物館機能であっても、そのまとめ方によって日常的に連携しやすい相手や情報の流れは変わります。

組織のまとめ方には、専門機能ごとに部門をつくる方法だけでなく、対象となる事業や利用者、プロジェクトなどを軸に仕事を組み合わせる方法もあります。組織設計では、こうした単位への集約そのものが重要な設計事項になります(Mintzberg, 1980)。特定の部門構成を標準形と考えるのではなく、なぜその仕事を同じ単位にまとめるのかを説明できることが重要です。

3.誰が誰に報告するか

第三の問いは、公式な報告関係です。担当者が誰に業務を報告し、どの段階で承認を受け、問題が生じたときに誰へ判断を求めるのか。この関係は、組織図から比較的読み取りやすい部分です。

報告経路は単なる上下関係ではなく、情報がどこに集まり、どの段階を経て意思決定されるのかにも関係します。階層が複数ある組織では、確認や承認の経路を明確にできる一方、その経路が実際の仕事にどのような影響を与えているのかを見る必要があります。博物館では専門職性や組織内での位置、説明責任などが活動に影響し得るため、形式的な階層だけで組織の働きを判断することはできません(Gray, 2017)。

4.誰が決め、誰が責任を負うか

報告関係と区別して確認したいのが、意思決定権と責任の配置です。誰に報告するかが分かっても、誰が実際に決定できるのかまで明確になるとは限りません。例えば、企画を提案する権限、予算を承認する権限、専門的な判断を行う権限、事業そのものを最終決定する権限は、同じ人物に置かれているとは限りません。

そのため、館長、部長、課長といった役職名を見るだけでなく、何を、どこまで決めることができ、その結果について誰が責任を負うのかを見る必要があります。組織設計では、意思決定権を上位に集中させるのか、現場や専門職へ配分するのかも重要な論点になります(Mintzberg, 1980)。ただし、集権と分権のどちらが優れているかを一律に決めることはできません。

5.分かれた仕事をどうつなぐか

最後の問いは、分けた仕事をどのように再びつなぐかです。専門化や部門化によって仕事を分けるほど、部門を越えた調整が必要になります。展覧会であれば、学芸、保存、教育、広報、施設、財務などがそれぞれの仕事を遂行するだけでは足りません。相互に情報を共有し、判断の時期を合わせ、全体として一つの事業を成立させる必要があります。

そのための仕組みには、日常的な連絡だけでなく、会議、プロジェクトチーム、部門横断の担当者など、異なる仕事を結びつける方法があります。組織設計論でも、専門化された単位を調整するための連絡・統合の仕組みは重要な設計要素として位置づけられています(Mintzberg, 1980)。組織図に同じ部門が並んでいても、こうした調整経路がどのように設けられているかによって、実際の組織の動き方は異なります。

以上の五つは、特定の理論に示された「五つの成功条件」ではありません。組織設計に関する議論をもとに、博物館の組織構造を読み解くための問いとして整理したものです。したがって、五項目を満たしているかを採点するのではなく、仕事の分け方、まとめ方、報告関係、意思決定権と責任、調整の仕組みが、自館の活動をどのように支えているのかを考えるために用いることが重要です。

なぜ博物館の組織構造に唯一の正解はないのか――組織と条件の「適合」を考える

組織構造を考えるとき、他館の組織図は参考になります。しかし、そこで採用されている部門構成や権限関係をそのまま取り入れても、自館で同じように機能するとは限りません。組織構造は、それ自体で優劣が決まるものではなく、組織の規模や仕事、置かれている環境などの条件との組み合わせによって機能の仕方が変わるからです。組織設計では、組織の構造と規模、環境、技術、権力関係などの条件との適合が重要な論点となります(Mintzberg, 1980)。

博物館で最初に確認すべきなのは、使命と戦略との適合です。何を収集し、保存し、研究し、どのような形で社会へ開いていくのかによって、必要な仕事とその優先順位は異なります。2026年に改正された「博物館の設置及び運営上の望ましい基準」でも、博物館は目的と使命を明確にした基本的運営方針を定め、それに基づいて必要な資源を適切に配分することとされています(文部科学省, 2026)。組織構造は使命とは別に存在するものではなく、それを具体的な仕事として実行するための仕組みとして考える必要があります。

規模も組織構造を左右します。多数の職員を抱える館であれば、仕事を専門化し、複数の部門や管理階層に分けることができます。一方、少人数で運営する館では、一人の職員が複数の機能を担うこともあります。ただし、ここから「小規模館には単純な組織、大規模館には細分化された組織が適している」と一律に決めることはできません。重要なのは、実際の仕事量や専門性、意思決定の必要性に対して、分担と調整の仕組みが合っているかどうかです。

館種やコレクションの性質によっても必要な構造は変わります。美術、歴史、自然史、科学などでは、扱う資料や活動に必要な専門性が異なります。とりわけ博物館には、コレクションを現在利用するだけでなく、長期的に保存し、将来へ継承する責任があります。そのため、短期的な事業運営の効率だけではなく、保存や研究に必要な専門的判断を組織のどこに位置づけるのかも考えなければなりません。

利用できる資源も重要な条件です。博物館の経営資源には、人材、財源、施設、情報などがあり、その量や性質は館によって異なります。組織構造はこれらの資源そのものではありませんが、利用できる人材や予算が異なれば、専門職をどこまで専任で配置できるか、どの仕事を兼務するか、どのような部門を設けられるかといった選択肢も変わります。限られた資源のなかで使命を実現するには、組織構造と資源配分を切り離して考えることはできません。

さらに、設置・運営形態も無視できません。博物館は単独で完結した組織とは限らず、設置者や行政組織、運営主体との関係のなかで意思決定が行われます。館内で決定できる事項と、館外の承認や調整を必要とする事項が異なれば、同じような館内組織図を持っていても、実際の権限配置や意思決定の過程は異なります。組織内部の階層だけでなく、博物館がより大きな制度や組織のどこに位置しているのかを見る必要があります。

博物館では、専門職性と公共的な説明責任をどう組み合わせるかも重要です。資料の保存、研究、解釈などには専門的な知識と判断が必要である一方、博物館は予算や活動について組織内外への説明責任を負います。博物館の活動は、組織内の階層や専門職としての位置、説明責任など複数の条件から影響を受けます(Gray, 2017)。したがって、専門職へ裁量を与えるか、管理を強めるかという単純な二者択一ではなく、専門的判断を尊重しながら、組織として責任を負える関係を設計することが課題になります。

組織の外側に目を向ければ、来館者、地域社会、学校、研究機関、支援者、行政など、多様なステークホルダーとの関係もあります。社会から博物館に期待される役割が変われば、新しい仕事が生まれ、従来の部門だけでは対応しにくくなることもあります。外部環境の変化は、組織内部の仕事の分け方や調整方法を見直す契機になり得ます。

このように考えると、大規模館や海外の著名な博物館の組織図を模倣するだけでは、自館に適した組織構造にはなりません。問うべきなのは、どの組織図が新しいか、どの形が優れているかではなく、この館の使命、仕事、資源、制度、専門性、外部環境に対して、現在の組織構造が適合しているかということです。唯一の正解がないとは、どのような構造でもよいという意味ではありません。自館が置かれた条件との関係から、なぜこの仕事の分け方、権限配置、調整の仕組みを採るのかを説明できることが、組織構造を考える基準になります。

階層型かフラット型かでは決まらない――組織設計のトレードオフ

博物館の組織改革を考えるとき、「階層を減らす」「部門の壁をなくす」「現場に権限を移す」といった方向が望ましいように語られることがあります。しかし、階層型からフラット型へ移行すれば、それだけで組織が改善されるわけではありません。組織設計では、仕事の専門化、権限の配分、標準化、部門間の調整など、複数の要素を組み合わせる必要があります。その組み合わせは、組織の規模や環境などによっても変わります(Mintzberg, 1980)。重要なのは組織の形を新しくすることではなく、博物館が直面する複数の要求をどのように両立させるかです。

専門分化と横断協働――専門性を高めながら、どうつなぐか

博物館では、資料の保存、調査研究、展示、教育など、それぞれに異なる専門性が求められます。仕事を専門分化することで、知識や経験を蓄積し、継続的に高度な判断を行いやすくなります。とりわけコレクションを長期的に保存し、研究する仕事では、専門性を組織のなかに確保することが重要です。

一方、専門分化が進むほど、部門ごとに仕事や情報が閉じる可能性があります。展覧会を学芸部門だけで企画し、教育や広報、保存、施設などが後から関与する構造では、部門間の調整が難しくなることもあります。そのため横断的なチームやプロジェクトによって異なる専門性を結びつける方法が考えられますが、横断協働にも調整のための時間や負担が必要です。複数部門が関与することで、誰が最終的な責任を負うのかが曖昧になる場合もあります。したがって、専門分化か横断協働かを選ぶのではなく、どこで専門性を蓄積し、どの仕事では部門を越えて協働する必要があるのかを設計することが課題になります。

集権と分権――どこまで現場で決められるようにするか

意思決定を館長や管理職などに集めれば、組織全体として判断を統一しやすくなり、最終的な責任の所在も明確にしやすくなります。限られた予算の配分や組織全体に影響する判断では、一定の集権性が必要になることがあります。一方、あらゆる判断に上位者の承認が必要になれば、意思決定に時間がかかり、専門職や現場の知識を十分に生かせない可能性があります。

現場や専門職へ権限を配分すれば、担当者が持つ知識を判断に反映しやすくなり、状況への迅速な対応も可能になります。しかし、分権化を進めるほど、部門ごとの判断が組織全体の方針とずれないようにする仕組みや、結果について誰が責任を負うのかを明確にする必要があります。組織設計では権限をどこまで分散させるかが重要な設計事項であり、集権と分権のどちらか一方を理想形とすることはできません(Mintzberg, 1980)。

標準化と柔軟性――安定した運営と変化への対応をどう両立するか

博物館の仕事には、一定の手続きや基準を共有することで安定するものがあります。資料管理、契約、予算執行、安全管理などでは、担当者によって対応が大きく変わらない仕組みを整えることが、継続性や説明可能性を支えます。仕事の進め方や必要な技能などを標準化することも、組織を調整する方法の一つです(Mintzberg, 1980)。

しかし、すべての仕事を詳細な手続きで統一すればよいわけではありません。新しい展示企画、地域との協働、予期しない課題への対応などでは、状況に応じた判断が必要になります。標準化を強めすぎれば、こうした柔軟な対応を難しくする可能性があります。反対に、個別判断に委ねすぎれば、仕事の進め方が担当者によって異なり、組織としての継続性を確保しにくくなります。何を共通化し、どこに裁量を残すのかを区別することが必要です。

明確な責任と専門職の自律性――誰が説明し、誰が判断するのか

博物館では、組織としての説明責任と専門職による判断の双方が求められます。予算を使い、資料を管理し、社会に向けて活動する以上、誰が意思決定し、その結果について誰が責任を負うのかを明確にする必要があります。一方、資料の保存、研究、解釈などには専門的な知識に基づく判断が不可欠であり、管理上の統制だけで決めることが適切とは限りません。

博物館の活動には、組織内での階層的位置だけでなく、専門職性や説明責任などが関係しています(Gray, 2017)。したがって、責任を明確にするために専門職の裁量を小さくすればよいわけでも、専門性を尊重するために組織としての責任を曖昧にしてよいわけでもありません。どの判断を専門職に委ね、どの判断を組織として承認し、最終的な責任をどこに置くのかを設計する必要があります。

これらのトレードオフに、すべての博物館に共通する最適点があるわけではありません。必要な専門性、職員数、事業の性質、意思決定の頻度、公共的な責任、外部環境が異なれば、求められるバランスも変わります。組織設計とは、階層型かフラット型かという理想的な形を選ぶことではなく、自館の使命と仕事を実行するために、複数の要求の間にどこでバランスを置くのかを決めることなのです。

組織を変えるとは何か――OMCAとGlenbowから考える

組織改革というと、組織図を新しく描き直すことが注目されがちです。しかし、実際に問うべきなのは、仕事の分け方や部門の関係、意思決定権、責任、調整の仕組みのうち何を変え、何を残したのかです。また、ある時点で設計した構造が、その後も適切であり続けるとは限りません。Oakland Museum of California(OMCA)とGlenbowの経験は、組織構造を完成形としてではなく、使命や経営条件との関係から読み解く必要があることを示しています。

OMCA――同じ博物館でも、組織を見直す理由は変わる

OMCAでは、2010年代初頭に大規模な組織再編が行われました。その背景には、カリフォルニアの美術、歴史、自然科学という三つの博物館を統合して成立した歴史や、市と財団の職員が併存する組織構造がありました。さらに、市との関係が再編され、施設とコレクションは市が所有しながら、博物館全体の運営をOMCA Foundationが担う体制へ移行することになりました。この変化を契機として、従来の組織構造をそのまま引き継ぐのではなく、来館者経験とコミュニティ参加を重視する方向へ仕事の組み方そのものが見直されました(Fogarty, 2013)。

そこで導入されたのが、「flower」と呼ばれた組織構造です。従来の専門分野や職能だけを軸に部門を分けるのではなく、異なる専門性を横断する六つの「center」を設け、協働を組織構造のなかに組み込みました。組織図を描き替えただけではなく、職務記述も全面的に書き直されています(Fogarty, 2013)。ここで重要なのは、単に階層を減らしたことではありません。来館者やコミュニティとの関係を重視するという方向に合わせて、どの仕事をまとめ、異なる専門性をどのようにつなぐかを再設計した点にあります。

しかし、OMCAの組織改革はそこで完了したわけではありません。2020年からのCOVID-19による長期休館は、博物館の財務状況と組織運営に新たな条件をもたらしました。同時期には、50人を超える職員が自主的なAnti-Racist Design Teamsに参加し、組織文化、構造、事業、コミュニティとの関係を検討しました。2021年には、こうした検討と財務上の制約を背景として、2010年代の「flower」とは別の組織再設計が実施されました。OMCAは年間運営予算を約1,660万ドルから1,400万ドルへ縮小し、約126人分の常勤換算職員数を106人へ減らす一方、新たな職員構造、報酬の考え方、内部プロセスを導入すると説明しています(Oakland Museum of California, 2021)。

したがって、2010年代の改革と2020~21年の改革を一つの「フラット化」の物語として理解することはできません。前者では、市との運営関係の変化を契機として、使命や来館者・コミュニティ志向に合わせた横断的な仕事の編成が模索されました。後者では、パンデミックによる財務制約と反人種差別・公平性への組織的な取り組みという異なる条件のもとで、再び人員、役割、報酬、仕事の進め方が見直されています。OMCAの事例から読み取れるのは、特定の組織形態の優位性ではなく、使命、社会環境、財務条件が変われば、それまで機能していた構造も再検討の対象になるということです。

Glenbow――組織図の形と権限構造は同じではない

組織図の形そのものを大きく変えた例として、カナダのGlenbowがあります。1990年代のGlenbowでは、Robert R. Janesのもとで組織改革が進められ、従来の上から下へ連なる組織図とは異なる円環型のモデルが採用されました。教育と学芸に関わる機能をProgram and Exhibition Developmentとしてまとめるなど、従来の部門境界を組み替え、チームワークや部門間の統合を重視する方向が模索されました(Janes, 2013)。

ただし、円形の組織図になったことを「階層や権限がなくなった」と理解するのは適切ではありません。1995年時点の組織図では、Executive Directorも構造の一部として存在し、Senior Management、Board of Governors、Strategy Groupなどが中心に位置づけられていました。後年このモデルを検討したTangaも、Glenbowの構造には中心的な権限が残っていた点を指摘しています(Tanga, 2021)。つまり、報告関係を上から下へ描くのではなく、中心から外側へ広がる形に変えたとしても、それだけで意思決定権や責任の所在が消えるわけではありません。

この点は、組織改革を評価するときに重要です。組織図が円形かピラミッド型かを見るだけでは、誰が予算を決め、誰が専門的判断を行い、誰が最終的な責任を負うのかは分かりません。部門間の調整方法を変えながら、経営上必要な権限や責任を残すこともあり得ます。反対に、組織図の形を変えなくても、権限の配分や横断的な調整方法を変えれば、実際の仕事の進め方は変わり得ます。

二つの事例から確認できるのは、組織改革が「古い組織図を新しい組織図へ交換すること」ではないという点です。仕事の分け方、部門の境界、権限と責任、調整の方法を、使命や経営条件との適合を考えながら組み直すことが組織改革です。そして、その設計にも永続的な完成形があるわけではありません。何を変えたのかだけでなく、なぜ変える必要が生じ、どの権限や専門性を残し、新しい条件のもとで仕事をどう再接続したのかを見ることで、組織改革の実質が見えてきます。

組織構造は、どう見直せばよいのか――経営診断への接続

組織構造は、一度決めればそのまま使い続けられるものではありません。博物館の使命や戦略が変われば、必要な仕事も変わります。新しい事業が増えたり、職員数が変化したり、デジタル対応や地域との連携など新たな役割が加わったりすれば、以前は合理的だった仕事の分担や権限関係が、現在の活動には合わなくなることがあります。組織図が長年変わっていないこと自体が問題なのではなく、組織を取り巻く条件が変わっているのに、その構造を問い直していないことが問題になります。

見直しの出発点は、組織図を描き直すことではありません。まず、現在の仕事と組織構造との関係を見る必要があります。いま博物館に必要な仕事は明確になっているか。その仕事の分担は現在の業務に合っているか。一人の職員や特定の部署へ仕事が集中しすぎていないか。こうした問いから、現在の構造が実際の仕事をどのように支えているのかを確認できます。

次に見るべきなのが、権限と責任の関係です。仕事について責任を負っているのに必要な意思決定権が与えられていない場合、その役割は十分に機能しません。反対に、重要な判断が一部の役職へ過度に集中していれば、承認に時間がかかり、現場や専門職が持つ知識を活用しにくくなる可能性があります。誰が何を決め、その結果について誰が責任を負うのか、さらに学芸、保存、研究などに必要な専門的判断を行う裁量が確保されているかを確認する必要があります。

仕事を分けた後の「つながり」も見直しの対象です。部門ごとの役割が明確であっても、展示、教育、広報、保存、施設、管理運営などを結ぶ調整経路が機能していなければ、組織全体として仕事を進めることは難しくなります。必要な情報が適切な時期に共有されているか、部門を越えて判断する場があるか、横断的な事業について誰が調整を担うのかといった点を見ることで、組織図だけでは分からない構造上の課題が見えてきます。

こうした問いは、組織を「良い」「悪い」と採点するためのものではありません。現在の使命や戦略に対して、この仕事の分け方が適切なのか、この権限配置が必要なのか、この調整方法で十分なのかを考えるための問いです。特に、事業内容や外部環境が変化しているにもかかわらず、過去の業務を前提とした部門構成や役割分担が残っている場合には、その構造が現在の経営条件に適合しているかを改めて確認する必要があります。

ただし、組織構造だけを見直せば、博物館全体の経営状態を把握できるわけではありません。組織構造は、経営状態を構成する一つの要素にすぎないからです。実際には、ガバナンス、計画、財務、人材、コレクション、施設、オーディエンス、デジタルなど、複数の領域をあわせて見る必要があります。

こうした広い視点から組織の状態を把握する方法の一つが、Museums Galleries ScotlandのOrganisational Health Checker(OHC)です。OHCは特定の組織構造を推奨するモデルではなく、博物館が自らの強み、弱み、機会や優先課題を把握するための診断ツールとして位置づけられています。組織構造の見直しを、より広い経営診断へ接続して考える方法については、博物館の経営診断とは何か――スコットランドのOrganisational Health Checkerから考えるMuseum Developmentで詳しく扱っています。

組織構造を見直すとは、新しい組織図をつくることから始めるのではありません。現在の使命、戦略、仕事、権限、責任、調整の関係をあらためて確認し、それらが現在の環境に適合しているかを問い直すことが出発点になります。

組織構造とは、戦略を実行可能にする設計である

博物館の組織構造を考えるとき、組織図は重要な出発点になります。しかし、組織図に示される部門や職位だけでは、組織が実際にどのように動いているのかは分かりません。どの仕事を誰が担い、誰に報告し、誰が意思決定し、その結果について誰が責任を負うのか。さらに、分かれた仕事をどのようにつなぎ、部門を越えて調整するのか。こうした関係まで含めて見ることで、はじめて組織構造の実態が見えてきます。

また、すべての博物館に当てはまる理想的な組織構造があるわけではありません。階層が少ないことや、横断的なチームが多いことだけで、優れた組織になるわけではないからです。使命や戦略、組織の規模、利用できる資源、必要な専門性、公共的な説明責任、外部環境が異なれば、適切な仕事の分け方や権限配置も変わります。問うべきなのは組織の形の新しさではなく、その構造が自館の条件に適合しているかどうかです。

そして、その適合は固定されたものではありません。博物館に求められる役割が変わり、事業が増減し、人員や財源が変化し、社会との関係が変われば、これまで機能していた組織構造も見直す必要があります。組織を変えるとは、単に組織図を描き直すことではなく、現在の使命と戦略に照らして、仕事、権限、責任、報告、調整の組み合わせを問い直すことです。

良い組織構造とは、「新しい形」の組織ではありません。その博物館が果たそうとする使命と戦略を、人と仕事と権限の配置を通じて、実際に実行可能にする組織です。

参考文献

  • Fogarty, L. (2013). “Flower Power: A Story of Organizational Re-Blossoming.” Center for the Future of Museums Blog, American Alliance of Museums, August 13, 2013.
  • Gray, C. (2017). “Structure, Agency and Museum Policies.” Museum and Society, 14(1), 116–130. https://doi.org/10.29311/mas.v14i1.629
  • Janes, R. R. (2013). Museums and the Paradox of Change (3rd ed.). Routledge.
  • Lord, G. D. (2024). The Manual of Museum Management: For Museums in Dynamic Change (3rd ed.). Rowman & Littlefield.
  • Mintzberg, H. (1980). “Structure in 5’s: A Synthesis of the Research on Organization Design.” Management Science, 26(3), 322–341. https://doi.org/10.1287/mnsc.26.3.322
  • Oakland Museum of California. (2021). “Oakland Museum of California Announces Organizational Transformation and Staff Reductions Due to Financial Challenges Caused by Impacts of Year-Long Closure.” Oakland Museum of California.
  • Tanga, M. (2021). “Let’s Imagine a New Museum Staff Structure.” Journal of Conservation and Museum Studies, 19(1), 1–16.
  • Museums Galleries Scotland. (n.d.). Museum Futures. Organisational Health Checker.
  • 文部科学省(2026)「博物館の設置及び運営上の望ましい基準」令和8年文部科学省告示第69号、2026年3月31日公布・施行。

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国立文化施設にて運営・経営に関する業務に携わっています。
博物館経営、文化政策、ミュージアムDX、教育普及を中心に、実務と研究の両面から情報発信を行っています。

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