博物館展示とInstagram投稿はどのように結びついているのか
近年、博物館とInstagramの関係については、「インスタ映えする展示」「SNS集客に強い展示」といった言葉が先行しがちです。しかし、こうした議論の多くは、具体的な設計論や来館者行動の検証に基づくものというよりも、経験則や流行をもとに語られている場合が少なくありません。本記事では、そうしたノウハウ論とは距離を取り、研究成果に基づいて、博物館展示とInstagram投稿がどのように結びついているのかを整理します。
まず前提として確認しておきたいのは、来館者によるInstagram投稿は、博物館側が意図した広報行為とは必ずしも一致しないという点です。来館者は、展示を「宣伝」するために写真を撮っているわけではありません。むしろ、展示体験の中で印象に残った対象や場面を、自身の記憶として、あるいは他者と共有するために切り取っていると考えられます。その意味で、Instagram投稿は広報ツールというよりも、来館体験が外化された結果として現れる行為と捉える必要があります。
この視点に立つと、重要な問いが浮かび上がります。それは、来館者は展示のどの要素を「撮り」、何を「残そう」としているのか、という点です。作品そのものなのか、展示空間なのか、あるいは展示と自分自身との関係なのか。この問いに答えることは、博物館展示が来館者にどのように受け止められているのかを理解するうえで重要な手がかりとなります。
近年の博物館研究では、こうした問いに対し、Instagram投稿を分析対象とする実証研究が蓄積されつつあります。来館者の投稿は、展示体験における意味形成の痕跡として捉えることができるとされており、展示評価や来館者研究の新たな資料として注目されています(Budge, 2017)。本記事では、こうした研究成果を踏まえながら、Instagramに投稿されやすい展示設計の特徴を検討していきます。
Instagram投稿から分かる来館者行動の特徴
自撮りは本当に主流なのか
Instagramを用いた博物館利用について語られる際、「来館者は展示よりも自分自身を撮影しているのではないか」「自撮り文化が鑑賞を浅くしているのではないか」といった懸念がしばしば指摘されます。とりわけ若年層とSNSを結びつけて考える文脈では、Instagram投稿=セルフィーというイメージが前提とされがちです。
しかし、この理解は実証研究に基づくものとは言い難い側面があります。博物館来館者のInstagram投稿を体系的に分析した研究では、人物が写り込む写真そのものが限定的であることに加え、人物が写っている場合であっても、展示物や展示空間と一体となった構図が多いことが示されています。つまり、来館者は自分自身を主役として切り取るのではなく、展示との関係性の中で自らの体験を記録していると考えられます。
実際、博物館来館者のInstagram投稿において、自撮りは全体のごく一部に過ぎず、多くの投稿は展示物や展示空間そのものを写していることが示されています(Budge, 2017; Rhee et al., 2021)。この点は、「Instagram=自己顕示的な自撮り文化」という一般的理解を再考する必要性を示していると言えるでしょう。
投稿画像に現れるのは「感情」ではなく「行動」と「場」
次に注目すべき点は、Instagram投稿から何が読み取れるのかという問題です。SNS分析というと、ハッシュタグやキャプションを通じて、来館者の感情や満足度、理解度を把握しようとする試みが想起されがちです。しかし、博物館に関するInstagram投稿を対象とした研究では、こうしたテキスト情報には明確な限界があることが指摘されています。
ハッシュタグの多くは、博物館名、都市名、展覧会名といった位置情報や識別情報に集中しており、展示内容に対する感情や学びを具体的に表現するものは多くありません。そのため、ハッシュタグ分析のみから来館者の体験の質を評価することは難しいとされています。
一方で、投稿画像そのものに着目すると、異なる側面が見えてきます。画像分析を通じて、来館者がどの展示空間を撮影し、どの展示の前で立ち止まり、どのような構図で体験を切り取っているのかを把握することが可能になります。これは、来館者の感情を直接測定するものではありませんが、来館中の行動や空間体験の痕跡を捉える手法として有効です。
実際、Instagramのハッシュタグから来館者の感情や理解を直接把握することは難しい一方で、投稿画像を分析することで、来館者がどの空間に関心を向け、どこで立ち止まったのかといった行動の痕跡を読み取ることが可能であると指摘されています(Rhee et al., 2021)。本記事では、このような立場に立ち、Instagramを満足度評価の指標としてではなく、来館者行動と空間体験を理解するための補助的資料として位置づけます。
Instagramに投稿されやすい展示設計の条件
これまで見てきたように、Instagram投稿は来館者の感情や満足度を直接示す指標ではありませんが、来館中の行動や空間体験の痕跡として重要な情報を含んでいます。では、どのような展示設計が結果としてInstagramに投稿されやすくなるのでしょうか。本節では、先行研究の知見を手がかりに、展示設計の観点から整理していきます。ここで重視するのは、「映える」ことを目的化することではなく、来館者の体験のあり方がどのように設計されているかという点です。
展示物単体ではなく「関係性」が写り込む設計
Instagramに投稿される博物館の写真を見ると、展示物だけが切り取られているように見える場合でも、その多くは来館者の身体との関係性を前提とした構図になっています。展示物の大きさや形状が分かるように人が写り込んでいたり、展示物の前に立つことでスケール感が強調されたりする例が多く見られます。これは、来館者が展示物そのものよりも、「自分と展示物との関係」を含めて体験を記録していることを示しています。
とりわけ等身大展示や実物大模型は、来館者が自らの身体と比較しやすく、自然と写真に収められやすい傾向があります。展示物が極端に小さい、あるいはガラスケース越しで距離が強調される場合と比べ、来館者は展示物との距離感や大きさを実感しやすくなります。このような設計は、来館者が展示物を「見る対象」としてだけでなく、「自分と関係づける対象」として捉えることを促します。
また、複数の展示物を並置し、素材や形態、用途の違いを比較できる展示構成も、撮影行動を誘発しやすいと考えられます。来館者は単一の展示物を記録するだけでなく、並びや対比そのものを視覚的に残そうとするためです。この点について、来館者のInstagram投稿は、展示物単体よりも、その物質的特徴やディテールに注目した画像が多く、展示物との関係性が可視化されていると指摘されています(Budge, 2017)。展示設計においては、展示物を孤立させるのではなく、来館者が関係性を見いだしやすい配置やスケールを意識することが重要です。
展示空間全体が「場」として記録される設計
Instagram投稿においては、個別の作品よりも展示空間全体が撮影される傾向も確認されています。天井の高さ、壁面の色彩、照明の配置、展示物の反復的な並びなど、空間としての印象が強い展示は、来館者にとって「訪れた場所」として記憶されやすく、そのまま投稿画像にも反映されます。
特に美術館では、建築や展示室そのものが象徴的な被写体となる場合が多く、作品と空間が一体となった構図が多く見られます。一方、総合博物館や歴史系博物館では、展示空間よりも展示物そのものが中心になる傾向が見られますが、それでも展示室全体の構成や動線が分かる写真が一定数投稿されています。こうした違いは、展示内容だけでなく、空間設計の思想の違いを反映していると考えられます。
来館者は、展示室の一部を切り取ることで、その場に立った経験を視覚的に記録しようとします。このため、展示空間に明確な特徴やリズムがある場合、それが投稿されやすさにつながります。実証研究においても、来館者は作品単体よりも、作品が配置された展示空間全体を撮影する傾向があり、Instagram投稿は空間体験の記録として機能しているとされています(Rhee et al., 2021)。展示設計においては、個々の展示物の魅力だけでなく、空間全体としてどのような体験を提供しているのかを意識する必要があります。
来館者の身体行動を誘発する展示設計
近年の研究で特に注目されているのが、展示設計が来館者の身体行動そのものをどのように変化させるかという点です。従来の博物館展示は、「見る」ことを中心とした鑑賞行為を前提としてきました。しかし、撮影や共有を前提とした展示では、来館者は単に展示を見るだけでなく、展示に対して「振る舞う」ようになります。
具体的には、展示物のポーズを真似る、展示空間の中に入り込む、他者と一緒に演じるといった行動が見られます。これらは、展示が来館者に対して身体的な関与を促している結果であり、来館者が能動的に体験を構成していることを示しています。こうした行動は、必ずしも娯楽的なものに限らず、展示内容の理解や記憶と結びついている場合もあります。
通常の展示と、撮影・共有を前提に設計された展示を比較した研究では、来館者の行動に明確な違いが確認されています。撮影・共有を前提とした展示では、来館者の能動的な身体行動が顕著に増加し、これは来館者属性ではなく展示設計の違いによって生じていることが示されています(Rhee et al., 2022)。この結果は、Instagramに投稿されやすい展示が、偶然に生まれるものではなく、来館者の身体の使い方まで含めて設計された体験の結果であることを示唆しています。
以上のように、Instagramに投稿されやすい展示設計とは、写真映えを狙った装飾を施すことではなく、来館者が展示物や空間とどのような関係を結び、どのような行動を取るのかを丁寧に設計することに他なりません。展示体験の質を高めることが、結果としてSNS上での共有につながるという点を、展示設計の前提として捉える必要があります。
「インスタ映え展示」はなぜ誤解されやすいのか
Instagramに投稿されやすい展示について語られる際、「軽薄で商業的な展示」「若者受けだけを狙った内容」といった否定的な評価がなされることがあります。とりわけ「インスタ映え展示」という言葉は、展示の学術性や鑑賞の深さと対立するものとして扱われがちです。このような見方は、博物館が担ってきた教育的・公共的役割を重視する立場から生まれてきたものと言えるでしょう。
しかし、こうした批判の多くは、来館者が実際にどのように展示と関わっているのかを十分に検証したうえで形成されたものとは限りません。「写真を撮る行為=鑑賞の妨げ」「SNS利用=注意散漫」といった前提が暗黙のうちに共有されてきた結果、インスタ映え展示は内容の浅い展示であるというイメージが固定化されてきたと考えられます。
一方で、近年の実証研究が示しているのは、こうした理解とは異なる来館者像です。Instagram投稿を分析した研究では、来館者が展示を漫然と消費しているのではなく、展示物や展示空間と身体的に関わりながら体験を構成している様子が明らかにされています。写真を撮る行為は、鑑賞を中断するものではなく、展示体験の中に組み込まれた一つの行動として機能していると捉えることができます。
とくに注目すべき点は、撮影や共有を前提とした展示において、来館者の身体的関与が増加しているという知見です。展示物の前に立つ、ポーズを取る、展示の構造をなぞるといった行動は、展示を「見る」だけの鑑賞とは異なる関与の形を示しています。こうした行動は、展示に対する関心や没入の欠如を意味するものではなく、むしろ関与の様式が変化していることを示唆しています。
実際、Instagramを用いた来館者行動の分析は、鑑賞の質を損なうという懸念を支持するものではなく、むしろ展示との関与の形が変化していることを示しているとされています(Budge, 2017; Rhee et al., 2022)。この点を踏まえると、「インスタ映え展示」を一律に否定的に捉えるのではなく、来館者がどのような形で展示と関係を結んでいるのかを丁寧に検討する必要があると言えるでしょう。
インスタ映え展示が誤解されやすい背景には、展示体験の変化を評価する視点が十分に共有されてこなかったことがあります。重要なのは、SNSへの投稿そのものではなく、その背後で来館者の関与がどのように変化しているのかを見極めることです。
展示設計にSNSを組み込む際の注意点
これまで述べてきたように、Instagram投稿は来館者行動や空間体験を理解するうえで有用な手がかりを提供します。しかし、その一方で、展示設計にSNSの視点を取り入れる際には、いくつかの重要な注意点があります。とくに重要なのは、SNSへの投稿そのものを展示設計の目的としてしまわないことです。
展示がInstagramに投稿されやすいかどうかは、あくまで来館者の体験の結果として生じるものであり、目的化されるべきものではありません。投稿されやすさを優先するあまり、展示内容や構成が単純化されたり、学術的・教育的意義が後景化したりするのであれば、本末転倒と言えるでしょう。SNSは展示体験を補助的に可視化する手段であって、展示の価値そのものを決定づけるものではありません。
また、Instagram投稿を展示評価の指標として用いる場合、その限界を十分に理解しておく必要があります。前述の研究が示すように、Instagramは来館者の満足度や理解度を直接測定するツールには適していません。投稿の有無や数だけをもって展示の成否を判断すると、展示体験の質を過度に単純化してしまう危険があります。SNSデータは、来館者調査や観察調査など、他の評価手法と組み合わせて用いることが前提となります。
さらに、SNS投稿には投稿者の偏りが存在する点にも注意が必要です。Instagramに積極的に投稿する来館者は、年齢層やデジタルリテラシー、文化的関心において一定の傾向を持っている可能性があります。そのため、SNS上に現れる行動や反応が、来館者全体を代表していると解釈することはできません。投稿されていない体験や、言語化・視覚化されにくい体験が存在することを常に念頭に置く必要があります。
このような点を踏まえると、Instagram投稿は展示体験のすべてを映し出す鏡ではなく、あくまで部分的な痕跡に過ぎないことが分かります。実際、Instagram投稿は来館者体験のすべてを反映するものではなく、評価指標として用いる際には慎重な解釈が求められると指摘されています(Rhee et al., 2021)。展示設計にSNSの視点を取り入れる際には、その可能性と限界の両方を理解したうえで、博物館本来の目的とどのように両立させるかを検討することが重要です。
博物館展示論の視点から見たInstagram対応展示の意義
Instagramに投稿されやすい展示設計は、単なる広報戦略や集客施策として理解されがちですが、博物館展示論の視点から見ると、より広い意義を持っています。とりわけ重要なのは、若年層との新たな接点をどのように構築するかという点です。従来、博物館にとって若年層は「来館しにくい層」として語られることが多く、その要因は関心の欠如や敷居の高さに求められてきました。しかし、SNSを通じた展示体験の共有は、博物館を日常的な文化実践の延長として位置づける可能性を持っています。
来館者が展示体験をInstagramに投稿する行為は、その場限りの鑑賞にとどまらず、体験を振り返り、再構成する過程を伴います。写真を選び、構図を決め、キャプションを付けるという行為は、展示体験を記憶として定着させる働きを持ちます。この点で、SNS投稿は展示体験を消費的に終わらせるものではなく、むしろ記憶の保持や意味づけを補強する役割を果たしていると捉えることができます。
さらに、Instagram対応展示は、博物館側にとっても展示改善のための副次的な情報を提供します。投稿画像を分析することで、来館者がどの展示空間に関心を示し、どの構成要素を印象的だと感じているのかを把握することが可能になります。これは、満足度や理解度を直接測定するものではありませんが、展示設計を振り返る際の手がかりとして活用することができます。実際、来館者のSNS投稿は、展示体験を直接評価するものではないが、展示設計を見直すための補助的な情報源として活用することができると指摘されています(Rhee et al., 2021)。
このように、Instagram対応展示の意義は、SNS上での反応を得ること自体にあるのではなく、来館者との関係性をどのように構築し、展示体験をどのように持続的なものとして設計するかという点にあります。博物館展示論の立場からは、SNSを展示の外部要因として扱うのではなく、展示体験を取り巻く環境の一部として位置づける視点が求められます。
まとめ
本記事では、Instagram投稿を手がかりに、来館者行動と展示設計の関係を研究成果に基づいて整理してきました。重要なのは、Instagramに投稿されやすいかどうかを展示設計の目的としないことです。投稿はあくまで展示体験の結果として生じるものであり、目的化された瞬間に展示の本質から逸れてしまいます。
これまで見てきたように、来館者は展示物や展示空間と関係を結びながら体験を構成しており、その過程が結果としてSNS上に外化されています。展示体験の質が高まることで、記憶に残り、共有したいと感じる体験が生まれ、その延長線上に投稿行為が位置づけられます。
SNS時代の展示設計において問われているのは、写真映えの工夫ではなく、来館者がどのように展示と関与し、どのような行動や記憶を持ち帰るのかをどう設計するかという点です。Instagram対応展示とは、展示体験と来館者の関係性を改めて捉え直す契機であり、博物館展示論にとっても重要な検討課題であると言えるでしょう。
参考文献
- Budge, K. (2017). Objects in focus: Museum visitors and Instagram. Curator: The Museum Journal, 60(1), 67–85.
- Rhee, B.-A., Pianzola, F., & Choi, G.-T. (2021). Analyzing the museum experience through the lens of Instagram posts. Curator: The Museum Journal, 64(3), 529–547.
- Rhee, B.-A., Pianzola, F., & Choi, G.-T. (2022). Visual content analysis of visitors’ engagement with an instagrammable exhibition. Museum Management and Curatorship, 37(6), 641–660.

