ミュージアムで展覧会を見た後には多くの人はミュージアムショップでの買い物を楽しみにしているんじゃないでしょうか。
ミュージアムショップでは展覧会に展示があった作品を上手く商品にしたものや最近では色々なメーカーとのコラボ商品など手に取るだけでも心がウキウキするようなものがたくさん並んでいます。
最近ではミュージアムショップで販売される商品を買いたいと思い展覧会に訪れる方もいらっしゃると思います。
この記事ではそんな魅力でいっぱいのミュージアムショップがなぜミュージアムにとって重要なのかについて紹介します。
役割① ミュージアムの財政的支援
歴史的に、多くのミュージアムショップは、専門的な小売戦略のない、ボランティアが運営する小さなスペースとして始まりました。しかし時が経つにつれて、ミュージアムショップは経済的機能と教育的機能の両方を果たす、ミュージアムの不可欠な要素へと進化しました1。
最近では、ミュージアム自体が収益を上げることが求められていることもあり、ミュージアムショップの売上は貴重な収益源の一つになっています。
歴史を紐解くと、ニューヨークにあるメトロポリタン美術館で1908 年に最初のミュージアムショップを設立し、他のミュージアムが追随する先例を作りました2。
ミュージアムショップは、第二次世界大戦後の経済におけるアメリカ人による博物館の入場者数と消費者支出の増加への対応として次々と作られていきました。しかし、ミュージアムへの公的支援と政府の資金援助が撤回された1980年代以降からミュージアムショップの売上はミュージアムの収入源として意識されるようになりました3。
役割② 鑑賞体験を拡張してくれる
ミュージアムに訪れる理由としては展示してある作品を鑑賞することが一番の目的の人がほとんどだと思います。
その展示室で色々な作品を見た経験はミュージアムで得られる変え難い経験になります。ただ、展示した作品だけを見てすぐに帰路に着くだけであれば、その日に感動した作品のことを振り返り、思い出して余韻に浸ることはないかもしれません。
それではせっかくのミュージアムでの体験できた貴重な鑑賞体験をすぐに忘れてしまうといった残念なことになってしまいます。
そこで、ミュージアムショップの出番です。
書籍、レプリカ、教育玩具などのアイテムは、訪問者が訪問後も学習を継続できるようにします。
展示に関連する書籍やグッズを販売することで、来館者は博物館で得た知識を自宅に持ち帰ることができます。これにより、記憶の定着が促進され、学習の継続が可能になります(Falk & Dierking, 2013)4。
ミュージアムショップでは展覧会で見た作品をモチーフにしたグッズがたくさん並んでいます。
それらのグッズのうちお気に入りのものを見つけるという時間は展示室とは別の鑑賞体験を提供してくれます。
また、その中でお気に入りのグッズを購入して持ち帰ることをすれば、家に帰ってからもそのグッズを見る度に作品の感動を思い出すことができます。
例えば、お気に入りの作品のマグネットを購入して家の冷蔵庫にでも貼っておけば、毎日、冷蔵庫を開け閉めする際に目にすることができます。
日常生活の中の無機質な空間を彩るだけでなく目にする度に感動を思い出す良い例かと思われます。
研究によると、ミュージアムショップはそれ自体がミュージアムの目的地として機能し、博物館の教育上の優先事項を補完する体験を生み出すことができるとされています。また、来館者に対して行ったインタビュー調査においてもこのようにミュージアムショップはグッズを手にすることで日常生活で鑑賞体験を思い出すことができる役割があるということが分かっています5。
役割③ ミュージアムと社会をつなぐ役割
ミュージアムショップの役割の2つはミュージアムと社会をつなぐことです。
展覧会に行く事が好きな人はミュージアムという存在が日常生活の一部になっていたりします。
ただ、世の中の多くの人はミュージアムに行くことは日常にないことがほとんどだと思います。
そのような人たちとミュージアムをつなぐ役割がミュージアムショップにはあります。
ミュージアムが身近にない人とミュージアムをつなぐ役割を果たしているミュージアムショップとして一番成功している事例は「MoMA Design store」だと思います。
MoMA Design storeはニューヨークになるニューヨーク近代美術館(通称:MoMA)が運営しているミュージアムショップにはなるのですが、現在では米国以外に日本と香港に進出しています。
MoMA Design storeのすごいところは通常、ミュージアムショップはミュージアムに併設している店舗だけのことがほとんどですが、ショップ自体がミュージアムから独立して店舗として運営できている点です。
このような運営がなぜ可能なのかというと次の公式の説明から分かります。
MoMAデザインストアはキュレーターが選定したアイテムをお客様にお届けし、日々の暮らしに高い品質性や創造性、そしてデザインの革新性をもたらします。1932年、MoMAはアートの美術館として初めてキュレーターが常駐する建築・デザイン部門を創設、20世紀半ばには「グッドデザイン」を定義しその価値を広めるという先導的な役割を担うようになりました。今後もMoMAデザインストアは「グッドデザイン」を提言してまいります。
お買い上げいただく収益が、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の独創的な展示や、幅広い教育プログラム、収蔵品の保全をサポートします。
MoMA Design Store とは
MoMAは世界で初めてデザインを収蔵品として集めたミュージアムでした。そのデザインの収蔵品にはアート作品だけでなく、世の中で優れたデザインを持った製品も含まれています。
そのようなデザイン性の高い製品を収集するだけでなく、実際に収蔵品を販売しているのがMoMA Design storeになります。
MoMA Design storeはミュージアムで作品を展示するだけでなく、実際に作品を販売できるという特性を活かした成功例だと思います。
実際にお店に訪れてみると既製品だけでなく、MoMAオリジナルのコラボグッズも扱っていたりします。
MoMA Design storeはミュージアムに行ったことはないけれどもデザイン性の高いおしゃれなグッズを通じてMoMAの伝えたいミュージアムの価値観を多くの人に伝えている良い例だと思います。
役割④ 持続可能性の取り組みを促進する
最近の研究では、ミュージアムショップが持続可能性を促進する役割を果たすことができると示唆されています6。
具体的には環境的および社会的価値を反映した製品を新しく開発し、商品として販売することにより、ミュージアムショップは持続可能性とコミュニティの関与に関連するより広範な組織目標の達成に貢献しているケースがあります。
例えば、プラスチック製品の商品の代わりに、その土地で伝統的に使用されている素材を活かした商品を開発したりすることで来館者にミュージアムショップを通じて持続可能性を考えるきっかけを与えることがあります。
また、ミュージアムグッズに採用された伝統的な技術や素材は、これまで関心を寄せなかった層に働きかけることで再度、注目を浴び、新しい活用のされ方を模索できる可能性もあります。
まとめ
以上のようにミュージアムショップはミュージアムに訪れた人が買い物を楽しむだけでなく、グッズを通じて学習体験を拡張したり、ミュージアムに普段訪れない人とミュージアムをつなぐ役割を果たしています。
ミュージアムショップを通じてミュージアムの魅力がより多くの人に伝わるといいなと思います。
参考文献
- Komarac, Tanja, Durdana Ozretic-Dosen, and Vatroslav Skare. “The Role of the Museum Shop: Eliciting the Opinions of Museum Professionals.” International Journal of Arts Management (2019): 28-41. ↩︎
- Ginsburgh, Victor A., and David Throsby, eds. Handbook of the Economics of Art and Culture. Vol. 1. Elsevier, 2006. ↩︎
- Kovach, Debra Singer. “Developing the museum experience: Retailing in American museums 1945–91.” Museum History Journal 7.1 (2014): 103-121. ↩︎
- Falk, John H., and Lynn D. Dierking. The Museum Experience Revisited. Routledge, 2016, https://doi.org/10.4324/9781315417851. ↩︎
- Goulding, Christina. “The museum environment and the visitor experience.” European Journal of marketing 34.3/4 (2000): 261-278. ↩︎
- Larkin, Jamie, Victor Oliveira, and Queen Allotey-Pappoe. “The role of the museum shop in sustainable futures.” Museum Management and Curatorship (2024): 1-20. ↩︎