博物館を運営するには、学芸員をはじめとする人材、収集・保存する資料、展示室や収蔵庫などの施設、そして日々の活動を支える予算が必要です。こうした経営資源は、一般に「ヒト・モノ・カネ・情報」と整理すると理解しやすくなります。しかし、博物館の実態を考えると、この四つだけでは見えにくくなるものがあります。
たとえば、収蔵されている文化財や美術作品と、それを保存する収蔵庫や設備は、どちらも「モノ」に含めることができます。しかし、前者は保存・研究・展示・教育など博物館活動の中核となるコレクションであり、後者はその活動を支える物的・技術的な基盤です。同じ分類にまとめてしまうと、それぞれが経営上果たす役割の違いを捉えにくくなります。
さらに、博物館を支えているのは目に見える資源だけではありません。職員が蓄積してきた専門知識や業務ノウハウ、資料についての研究成果、地域社会との信頼関係、大学や研究機関、他館とのネットワークなども、活動の可能性を左右します。予算や職員数、収蔵品数が多い大規模館だからといって、必ずしもすべての資源を十分に生かせるとは限りません。反対に、小規模館にも特定分野の専門性、地域との強い関係、特徴的なコレクションなど、固有の資源があります。
そこで本記事では、博物館の経営資源を「人的資源」「コレクション資源」「物的・技術的資源」「財務資源」「情報・知識資源」「関係資源」という六つの視点から捉え直します。これは既存研究で確立された唯一の分類ではなく、博物館が利用できる資源を理解するための分析上の整理です。
重要なのは、博物館の経営力を「何をどれだけ持っているか」だけで判断しないことです。館内の資源と外部から利用できる資源をどう組み合わせ、保存、研究、展示、教育などの活動へ変え、使命や公共的価値へ結びつけるのか。本記事では、この視点から博物館の経営資源を考えていきます。
経営資源とは何か――「所有」ではなく「利用できるもの」から考える
経営資源とは、組織が目的を実現するために利用するさまざまな要素を指します。分かりやすいものとしては、人材、建物や設備、予算などがあります。しかし、組織の活動を支えているのは、目に見えたり金額で把握できたりするものだけではありません。職員が蓄積してきた知識やノウハウ、組織に対する信頼や評判、外部の組織や専門家とのネットワークなども、活動の可能性を左右する無形の資源として考えることができます。
ただし、企業経営で使われる経営資源の考え方を、そのまま博物館へ当てはめることには注意が必要です。企業では、経営資源を利益や競争力へ結びつけて考えることがあります。一方、博物館の活動には、資料を将来へ保存すること、調査研究を進めること、その成果を展示や教育、情報提供を通じて社会へ還元することなどがあります。博物館経営を扱った研究でも、財務だけでなく、人材、戦略、リスク、組織運営などを含む複数の側面からマネジメントを考える必要性が示されています(Půček et al., 2021)。そのため、博物館では「その資源を使命の遂行にどう利用できるか」という視点が重要になります。
館内に「持っているもの」だけが経営資源ではない
ここで区別したいのが、博物館が自ら保有している資源と、必要に応じてアクセスできる資源です。たとえば、館内に保存科学の専門家や高度な分析装置がなくても、大学や研究機関、他の博物館との継続的な関係があれば、必要な専門知識や設備を利用できる場合があります。自館だけを見れば存在しない資源でも、組織間の関係まで視野を広げれば活動に利用できる可能性があります。
この考え方は、博物館の規模だけで経営資源の豊かさを判断しないためにも重要です。職員数や予算、設備の規模は無視できませんが、それだけでは実際に何ができるのかを十分に説明できません。少人数の組織でも、専門性の高い人材、地域について蓄積された知識、外部機関との強いネットワークなどを利用できる場合があります。
経営資源は増えたり、変化したりする
さらに、経営資源は一度決まれば変わらないものではありません。人材は経験や研修を通じて育成でき、個人の知識は記録や共有によって組織に蓄積できます。他機関とのネットワークも継続的な協働によって形成でき、寄付や助成などを含めて財源構成が変わることもあります。コレクションも同様で、新たな調査研究によって従来知られていなかった価値や利用可能性が見いだされることがあります。
したがって、経営資源は固定された「持ち物の一覧」として捉えるよりも、博物館が現在利用できるもの、将来育てられるもの、外部との関係を通じて利用できるものまで含めて考える必要があります。何を保有しているかを確認するだけでなく、それを使命の実現へどう生かせるのかを見ることが、博物館の経営資源を考える出発点になります。
博物館の経営資源を6つの視点から整理する
博物館が利用できる経営資源は多様であり、すべてを「ヒト・モノ・カネ・情報」だけに分けると、それぞれの役割が見えにくくなることがあります。そこで本記事では、博物館経営、知識管理、ネットワーク、資源ベース理論などの研究を踏まえ、経営資源を「人的資源」「コレクション資源」「物的・技術的資源」「財務資源」「情報・知識資源」「関係資源」という六つの視点から整理します。
ただし、これは一つの研究が提示した標準的な分類ではありません。また、博物館の経営資源を必ず六つに分類しなければならないという意味でもありません。博物館が利用できる有形・無形の資源を見落とさず、それぞれが活動にどう関係しているのかを考えやすくするための分析上の枠組みです。
| 経営資源 | 博物館での具体例 | 見るべきポイント |
|---|---|---|
| 人的資源 | 職員、専門性、経験、技能、判断力、ボランティア | 人数だけでなく、どのような専門性や能力を利用できるか |
| コレクション資源 | 美術作品、考古・歴史資料、自然史標本、アーカイブ、デジタル資料、来歴・研究情報 | 点数だけでなく、保存・研究・展示・教育などに活用できる状態にあるか |
| 物的・技術的資源 | 建物、展示室、収蔵庫、保存・展示設備、情報システム、デジタル基盤 | 保有しているだけでなく、維持・更新し、適切に運用できるか |
| 財務資源 | 公的資金、入館料、事業収入、寄付、助成金、基金 | 金額だけでなく、安定性、使途、財源構成、配分の柔軟性をどう確保するか |
| 情報・知識資源 | 収蔵品情報、研究成果、データ、データベース、業務記録、専門知、組織のノウハウ | 情報を蓄積するだけでなく、共有・継承し、必要なときに利用できるか |
| 関係資源 | 地域社会、大学、研究機関、学校、行政、他館、支援者、専門家、企業との関係、信頼や評判 | 館内にない知識や能力も含め、外部との関係を活動に生かせるか |
「モノ」を二つに分けると博物館の特徴が見えやすい
一般的な「モノ」という分類を、コレクション資源と物的・技術的資源に分けていることには理由があります。たとえば、一点の文化財と、それを保管する収蔵庫は、どちらも物理的な存在です。しかし、文化財は保存・研究・展示・教育などの対象となる一方、収蔵庫はその活動を可能にする基盤です。両者を分けることで、資料そのものの価値と、それを支える施設・設備の役割を区別して考えやすくなります。
六つの資源は重なり合っている
一方、この六分類を互いに独立した箱として考える必要はありません。学芸員が持つ専門知は人的資源であると同時に、情報・知識資源でもあります。地域の専門家との継続的な関係は関係資源ですが、それによって館内にはない知識へアクセスできる場合もあります。また、コレクションに関する研究情報をデータベース化するには、人材、知識、技術的基盤、財源が組み合わされます。
したがって、分類すること自体が目的ではありません。重要なのは、博物館がどのような資源を保有し、どのような資源へアクセスでき、それらをどのように組み合わせられるのかを把握することです。六つの視点は、経営資源の量を数えるためではなく、博物館の活動を支えている資源を幅広く見つけるための手がかりとして位置づけることができます。
人材と知識は、組織に残してこそ経営資源になる
博物館の人的資源を考えるとき、最初に目につきやすいのは職員数です。しかし、同じ人数の職員がいる二つの博物館でも、利用できる専門性や経験、技能が同じとは限りません。人的資源を見るためには、「何人いるか」だけでなく、どのような専門分野を持ち、どのような経験を蓄積し、状況に応じて判断したり、他の職員や外部の関係者と協働したりできるのかまで考える必要があります。
また、博物館を支える人材は学芸員だけではありません。資料の保存、教育普及、施設管理、財務、広報、情報システムなど、多様な職能が組み合わされて活動が成り立っています。博物館の組織と職能については、博物館を支える多様な職員と職能をあわせて考えると、人材をより広い視点から捉えることができます。
個人が知っていることと、組織が知っていることは違う
ここで人的資源と深く結びつくのが、情報・知識資源です。たとえば、ある資料の来歴、過去に保存処置を決めた理由、展示で問題になった点、外部専門家との調整方法などを、担当者だけが詳しく知っている場合があります。その知識は日常業務では有効でも、異動や退職によって担当者が離れれば、組織から失われる可能性があります。
そのため、個人の経験や専門知を、必要に応じて他の職員も利用できる状態へ変えていくことが重要です。調査記録、収蔵品データベース、業務記録、引継ぎ資料、マニュアル、研究成果、会議記録などは、そのための手段になります。ただし、文書やデータを保存するだけで十分とは限りません。どこに情報があるのかが分からなかったり、検索できなかったり、作成した背景が伝わらなかったりすれば、実際の判断には利用しにくいからです。
情報を「使える知識」に変える
重要なのは、情報を大量に持つことではなく、必要な人が必要なときに参照し、研究や保存、展示などの判断に利用できるようにすることです。たとえば博物館資料のデジタル化でも、画像やデータを作成すること自体と、それらを検索・研究・公開・利用できる状態に整えることは区別する必要があります。知識管理も同様に、単なるデジタル化ではなく、知識を蓄積し、共有し、継承できる仕組みとして考える必要があります。
米国の小・中規模博物館191館を対象とした研究では、知識管理を支える仕組みや組織の知識管理志向と、組織成果や公共的価値との関連が検討されています(Vakharia & Poole, 2023)。対象や制度環境が異なるため日本の博物館へそのまま一般化することはできませんが、知識を組織的に扱うことが博物館経営の課題になり得ることを考える手がかりになります。
つまり、人的資源の価値は優れた専門家が在籍していることだけで決まりません。個人が持つ経験や専門知を組織の中で共有し、次の活動や判断に利用できる形で残せるかも重要です。人材と知識を別々に管理するのではなく、両者を結びつけて考えることで、異動や世代交代があっても専門性を継承できる組織に近づきます。
人材と知識は、組織に残してこそ経営資源になる
博物館の人的資源を考えるとき、最初に目につきやすいのは職員数です。しかし、同じ人数の職員がいる二つの博物館でも、利用できる専門性や経験、技能が同じとは限りません。人的資源を見るためには、「何人いるか」だけでなく、どのような専門分野を持ち、どのような経験を蓄積し、状況に応じて判断したり、他の職員や外部の関係者と協働したりできるのかまで考える必要があります。
また、博物館を支える人材は学芸員だけではありません。資料の保存、教育普及、施設管理、財務、広報、情報システムなど、多様な職能が組み合わされて活動が成り立っています。博物館の組織と職能については、博物館を支える多様な職員と職能をあわせて考えると、人材をより広い視点から捉えることができます。
個人が知っていることと、組織が知っていることは違う
ここで人的資源と深く結びつくのが、情報・知識資源です。たとえば、ある資料の来歴、過去に保存処置を決めた理由、展示で問題になった点、外部専門家との調整方法などを、担当者だけが詳しく知っている場合があります。その知識は日常業務では有効でも、異動や退職によって担当者が離れれば、組織から失われる可能性があります。
そのため、個人の経験や専門知を、必要に応じて他の職員も利用できる状態へ変えていくことが重要です。調査記録、収蔵品データベース、業務記録、引継ぎ資料、マニュアル、研究成果、会議記録などは、そのための手段になります。ただし、文書やデータを保存するだけで十分とは限りません。どこに情報があるのかが分からなかったり、検索できなかったり、作成した背景が伝わらなかったりすれば、実際の判断には利用しにくいからです。
情報を「使える知識」に変える
重要なのは、情報を大量に持つことではなく、必要な人が必要なときに参照し、研究や保存、展示などの判断に利用できるようにすることです。たとえば博物館資料のデジタル化でも、画像やデータを作成すること自体と、それらを検索・研究・公開・利用できる状態に整えることは区別する必要があります。知識管理も同様に、単なるデジタル化ではなく、知識を蓄積し、共有し、継承できる仕組みとして考える必要があります。
米国の小・中規模博物館191館を対象とした研究では、知識管理を支える仕組みや組織の知識管理志向と、組織成果や公共的価値との関連が検討されています(Vakharia & Poole, 2023)。対象や制度環境が異なるため日本の博物館へそのまま一般化することはできませんが、知識を組織的に扱うことが博物館経営の課題になり得ることを考える手がかりになります。
つまり、人的資源の価値は優れた専門家が在籍していることだけで決まりません。個人が持つ経験や専門知を組織の中で共有し、次の活動や判断に利用できる形で残せるかも重要です。人材と知識を別々に管理するのではなく、両者を結びつけて考えることで、異動や世代交代があっても専門性を継承できる組織に近づきます。
館内にない資源も使える――関係資源とネットワーク
博物館の経営資源を考えるとき、自館が保有している人材や設備だけに目を向けると、実際に利用できる資源を過小評価してしまうことがあります。すべての専門人材、設備、知識を一つの博物館が内部に抱える必要はありません。大学や研究機関、他の博物館、行政、学校、地域団体、企業、専門家などとの関係を通じて、館内にはない資源へアクセスできる場合があるからです。
たとえば、館内に保存科学を専門とする職員や高度な分析設備がないとします。それだけを見れば、実施できる調査や保存処置には限界があります。しかし、大学や他館と継続的な協力関係があり、必要なときに専門家へ相談したり、設備の利用について協力を得たりできれば、自館で保有していない専門性を活動に生かせます。このように、経営資源は「内部に保有する資源」と「外部との関係を通じてアクセス可能な資源」をあわせて考えることが重要です。
関係資源は「知り合いが多い」ということではない
ここでいう関係資源は、単なる名刺や連絡先の一覧ではありません。一度会ったことがあるだけでは、必要なときに協働できるとは限らないからです。共同研究や展覧会、教育事業、資料調査などを通じて、情報交換を重ね、互いの専門性や組織の事情を理解し、共通の目的について調整してきた経験が、継続的な協力の基盤になります。
文化遺産領域では、大学や文化遺産機関、地域組織など複数の主体によるネットワークと、その協働によって生まれる活動能力や公共的価値との関係が研究されています(Courtney, 2018)。これは博物館の「関係資源」を直接定義した研究ではなく、制度や地域環境も日本とは異なりますが、一つの組織の内部だけを見ず、組織間のつながりから活動能力を考える視点を与えてくれます。
もちろん、ネットワークがあれば自動的に成果が生まれるわけではありません。協働には目的の調整、役割分担、情報共有などが必要であり、信頼関係の形成にも時間がかかります。だからこそ、単発の連携実績ではなく、必要なときに相談し、互いの強みを生かせる関係を継続して築くことに意味があります。行政、大学、地域団体、企業などとの具体的な関係については、博物館と他機関との連携として考えることができます。
小規模館にも固有の経営資源がある
この視点に立つと、小規模館を単純に「経営資源が少ない博物館」とみなすことも適切ではありません。職員数や予算、設備では大規模館との差があっても、地域について長年蓄積した知識、特定領域への専門性、地域住民との信頼、特徴的なコレクション、大学や他館との長期的な協力関係などを持っている場合があります。これらは規模だけでは測れない経営資源です。
したがって、博物館の経営資源を把握するときには、館内に「何があるか」だけでなく、「誰とつながり、その関係を通じて何を利用できるか」まで見る必要があります。内部保有資源とアクセス可能な外部資源の双方を捉えることで、それぞれの博物館が実際に持つ活動の可能性を、より適切に理解できるようになります。
資源を持っているだけでは成果にならない――組織能力とRBV
経営資源の量が似ている博物館でも、実際に行える活動や生み出される成果が同じになるとは限りません。たとえば、二つの博物館が同程度の職員数、予算、施設、収蔵点数を持っていたとしても、一方では調査研究の成果を継続的に展示や教育へ展開でき、もう一方では日常的な維持管理だけで多くの資源を使うこともあります。ここで区別する必要があるのが、組織が「持っているもの」と「できること」です。
経営資源を活動へ変える「組織能力」
人材、コレクション、設備、財源、知識などは、それだけで保存や展示といった活動になるわけではありません。専門人材と保存設備、資料情報、予算を組み合わせることで資料を適切に保存する能力が形成されます。同じように、学芸員の専門知、コレクション、研究時間、外部研究者との関係などを組み合わせることで、調査研究を継続し、その成果を展示や教育へ展開できるようになります。
こうした「資源を組み合わせて活動を遂行する力」を、ここでは組織能力として捉えます。博物館であれば、資料を保存する能力、調査研究を継続する能力、研究成果を展示や教育へ変換する能力、情報を整理・公開する能力などが考えられます。さらに、財源を調達・配分する能力、他組織と協働する能力、人材を育成する能力、個人の知識を組織へ継承する能力も含まれます。つまり、経営資源の保有量だけでなく、それらを組み合わせて何ができるのかを見る必要があります。
RBVは博物館を考える補助線になる
この違いを考える手がかりの一つが、resource-based view(RBV:資源ベース理論)です。RBVは、企業が保有・統制する資源の違いに着目し、それが持続的な競争優位とどのように関係するかを説明する経営理論として発展しました。代表的な基礎研究では、企業の資源を物的資本、人的資本、組織資本など広く捉え、その性質と競争優位との関係が論じられています(Barney, 1991)。
ただし、RBVは博物館を対象として構築された理論ではありません。企業で重視される競争優位を、そのまま博物館経営の最終目的に置き換えることは適切ではないでしょう。一方で、組織によって利用できる資源が異なること、資源には量だけでなく質的な違いがあること、知識やノウハウなどの無形資源も重要であること、そして資源をどう利用できるかを見るという視点は、博物館経営を考えるうえでも参考になります。
VRIN・VRIOを博物館の目的にしない
RBVでは、持続的競争優位に関わる資源の条件として、価値がある(valuable)、希少である(rare)、模倣が困難である(imperfectly imitable)、代替しにくい(non-substitutable)というVRINの考え方が示されました(Barney, 1991)。その後、Barneyの議論では、価値(value)、希少性(rarity)、模倣困難性(imitability)に加え、それらを活用できる組織(organization)を問うVRIOという枠組みへ整理されています。
博物館で重要なのは、希少なコレクションや専門知識を「他館が模倣できないから価値がある」と考えることではありません。むしろ、その固有性を保存、研究、展示、教育などの使命へどう結びつけるかを考える必要があります。競争相手より優位になることや、資源を囲い込むこと自体を目的にすれば、博物館の公共的役割とは緊張する場合があります。
一方、博物館分野でもRBVの視点を限定的に応用する試みがあります。知的財産権やデータベース、ノウハウなどを博物館活動に関わる無形資源として検討した研究では、それらを単なる法的権利ではなく、組織が利用する資源という観点から分析しています(Pluszyńska, 2026)。これはRBVによって博物館経営全体を説明できることを意味するものではありませんが、目に見えにくい資源の価値を検討する一例になります。
したがって、RBVは博物館の経営原理そのものではなく、「どのような資源を利用でき、それらを組み合わせて何ができるのか」を問い直すための補助的な視点として位置づけるのが適切です。博物館にとって重要なのは競争優位そのものではなく、経営資源と組織能力を保存、研究、展示、教育などの活動へ結びつけることです。
経営資源を使命と公共的価値へどう結びつけるか
ここまで見てきたように、博物館には人的資源、コレクション資源、物的・技術的資源、財務資源、情報・知識資源、関係資源があります。しかし、これらを保有しているだけでは、博物館の使命が実現されるわけではありません。重要なのは、複数の資源を組み合わせて組織としての能力をつくり、それを保存、研究、展示、教育などの活動へ結びつけることです。
この関係は、「経営資源→組織能力→博物館活動→使命の実現・公共的価値」という流れで整理できます。これは特定の研究からそのまま導いたモデルではなく、本記事で扱ってきた経営資源と組織能力の関係を理解するための分析上の整理です。また、資源を投入すれば必ず特定の成果が得られるという直線的な因果関係を意味するものでもありません。
資源を組み合わせることで活動の可能性が広がる
たとえば、専門性を持つ職員という人的資源に、コレクションと蓄積された研究情報を組み合わせることで、継続的な調査研究を行う条件が整います。その成果を展示、出版、教育へ展開できれば、新しい知識を生み出すだけでなく、それを社会と共有することにもつながります。コレクションを持つことと、その価値を調査し社会へ伝えられることは同じではありません。
デジタル化でも同様です。財務資源だけを投入してシステムを導入しても、それだけで資料へのアクセスが改善するとは限りません。デジタル基盤、専門人材、整理された資料情報などを組み合わせ、継続的に管理・公開できる能力が必要です。そのうえで資料をオンラインから利用できるようになれば、研究や教育での利用、来館が難しい人を含めたアクセス機会の拡大へつながる可能性があります。
関係資源も、他の資源と組み合わせることで意味を持ちます。地域との信頼関係に、職員の専門性やコレクションを組み合わせれば、地域住民と資料を調査したり、共同で展示や教育活動を企画したりする可能性が生まれます。その活動が地域に蓄積された記憶や文化を記録・継承する機会となり、社会参加につながる場合もあります。文化遺産領域の研究でも、複数の組織や主体からなるネットワークと活動能力、公共的価値との関係が検討されています(Courtney, 2018)。
成果は一つの数字だけでは測れない
こうした考え方に立つと、博物館の経営資源が有効に使われているかどうかを、一つの数字だけで判断することは難しくなります。入館者数や収益は運営を把握するうえで重要な指標ですが、それだけでは資料が適切に保存されているか、研究によって新しい知識が生まれているか、学習機会が提供されているかまでは分かりません。同様に、職員数、収蔵品数、デジタル化した資料の点数も、それ自体が最終的な成果を意味するわけではありません。
知識管理に関する米国の小・中規模博物館を対象とした研究では、知識管理を支える仕組みや組織の志向と、組織成果や公共的価値との関連が検討されています(Vakharia & Poole, 2023)。制度や規模の違いがあるため日本の博物館へそのまま一般化はできませんが、資源の量だけでなく、それを組織の活動へ生かす仕組みに目を向ける必要性を考える材料になります。
したがって、経営資源の活用を評価する際には、保存、研究、学習、知識共有、アクセシビリティ、文化継承、社会との関係など、複数の側面を見る必要があります。博物館にとっての公共的価値とは、単に多くの人を集めることではなく、利用できる資源を組み合わせ、それぞれの使命に沿った活動を通じて、どのような価値を社会へ生み出しているのかという問いから捉えることができます。
経営資源の価値は、持っている量だけでは決まらない
博物館の経営資源を「ヒト・モノ・カネ・情報」と整理する方法は、経営の全体像を理解する入口として有効です。しかし、現代の博物館では、コレクションと施設を同じ「モノ」として扱ったり、職員の専門知識や地域との信頼関係を見落としたりすると、実際に利用できる資源を十分に捉えられません。
そこで本記事では、経営資源を人的資源、コレクション資源、物的・技術的資源、財務資源、情報・知識資源、関係資源という六つの視点から整理しました。これは固定された標準分類ではなく、博物館が利用できる資源を幅広く捉えるための分析枠組みです。それぞれの資源は独立しているわけではなく、相互に重なり、組み合わせられることで活動を支えます。
また、自館が保有する資源だけでなく、大学や他館、地域社会などとの関係を通じてアクセスできる資源にも目を向ける必要があります。その視点に立てば、小規模館を単純に「資源不足の博物館」と評価することもできません。一方で、資源の量が運営条件を左右することも事実であり、重要なのは量だけで成果を判断しないことです。
経営資源と、それらを活動へ変換する組織能力を区別することも重要です。RBVは資源の質や無形資源に目を向ける補助的な視点になりますが、企業の競争優位を博物館の目的へそのまま置き換えることはできません。博物館で問われるのは、利用できる資源をどう組み合わせ、保存、研究、展示、教育、知識共有、文化継承、社会との関係といった使命や公共的価値を実現する活動へ変えていくかなのです。
参考文献
- Barney, J. (1991). Firm resources and sustained competitive advantage. Journal of Management, 17(1), 99–120.
- Courtney, R. A. (2018). Network governance in the heritage ecology. Journal of Management & Governance, 22, 689–705.
- Pluszyńska, A. (2026). The usefulness of intellectual property rights in selected areas of museum activity. Museum Management and Curatorship, 41(3), 388–400.
- Půček, M. J., Ochrana, F., & Plaček, M. (2021). Museum management: Opportunities and threats for successful museums. Springer.
- Vakharia, N., & Poole, A. H. (2023). Knowledge management in museums: Enhancing organizational performance and public value. Journal of Documentation, 79(5), 1071–1087.

