ミュージアムのメンバーシップの加入者を増やす5つの方法

ミュージアムのメンバーシップ制度は、収益構造において重要な役割を果たしています。

例えば、英国の大英博物館では、メンバーシップ収入やスポンサー収入・寄付を集めるため、オーダーメイドの舞台裏ツアーや美術館のイベント利用など、さまざまな特典を提供しています。また、米国のメトロポリタン美術館では、ニューヨーク市からの助成が7%台と少ないため、小売、レストラン運営収入やメンバーシップ収入が重要な収入源となっています。1

  矢崎・長谷川(2011)によると、ミュージアムの取り巻く環境の変化に伴い、その使命や社会的役割を再考し、時代に即した経営手法を取り入れる必要性があると論じられています。その中で、メンバーシップ制度の導入や強化が、財務的な安定性を高める手段の一つとして重要視されています2

このようにミュージアムにとって重要であるメンバーシップをどのような得点を充実させていくことが加入者を増やしていくことにつながるかについてこの記事では紹介していきます。

目次

無料または割引入場とは、メンバーシップの加入者が特定の展覧会やイベントに無料または割引価格で参加できる特典を用意することです。

無料または割引入場が可能になることは、来館者にとって大きな魅力となっています。特に、頻繁に訪れる方や特別展を楽しみにしている方にとって、経済的なメリットは顕著です。

ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)では、年間£77のメンバーシップで無制限の入場やメンバー限定イベントへの参加が可能です。このような特典は、文化的な関心を持つ人々にとって大きな魅力となり、メンバーシップの価値を高めています3。 

無料また割引入場の特典は、加入者に経済的なメリットがある分とても魅力的な特典ではありますが次のような点については次のような点に注意が必要になります。

具体的には、特典内容が過度に寛大であると、ミュージアムの収益に悪影響を及ぼす可能性があります。

特に、特別展の入場料を無料にする場合、収入源の減少を招く恐れがあります。そのため、特典の設定にあたっては、ミュージアムの財務状況や運営コストを十分に考慮し、持続可能な範囲での特典提供を検討することが重要になります。

このような注意点を解決するためには特典の利用者状況のモニタリングを行うことが考えられます。

具体的には無料や割引入場の特典がどの程度利用されているかを定期的にモニタリングし、特典がミュージアムの収益や来館者数に与える影響を評価することにより、特典内容の見直しや改善を適切に行うことができます。

このようなモニタリングをしっかり行うことをセットに考えれば、会員制度の無料入場や割引入場はメンバーシップに加入する大きなメリットとなるでしょう。

メンバーシップ限定のイベントを開催して会員限定で招待することも無料入場よりもハードルは高くなりますが会員数を増やすには魅力的なコンテンツになり得ます。

具体的には会員だけが参加できる講演会やギャラリーツアー、ワークショップやガライベントなどが考えられます。

例えば、ニューヨーク近代美術館(MoMA)では、複数のメンバーシッププランを提供しており、上位のプラン(年間200ドル)ではキュレーターとの交流や、映画制作者とのイベントへの参加権など、特別な体験が含まれています。これにより、会員は美術館との深い関わりを持つことができ、継続的な支援を促進しています4

方法その③ ショップやカフェでの割引

こちらの特典は館内のミュージアムショップやカフェでの購入時に割引が適用されるものです。

ミュージアムショップやレストランの割引がもたらすメリットは加入者の購買意欲向上とリピート率の増加です。割引特典があることで来館者は「せっかくだから買おう」という心理になり、購買単価が上昇する傾向があります。

メンバーシップに加入する方はそのミュージアムに比較的多く通うことが想定されます。その来館者が訪れる度にミュージアムショップで買い物をしたり、カフェを利用したりすることは新規の来館者よりも多くの売上に貢献してくれる可能性があります。

ショップやカフェでの割引においての成功事例としてはメトロポリタン美術館(アメリカ)のメンバーシップがあります。メトロポリタン美術館のメンバーシップではミュージアムショップで10~15%割引やレストラン・カフェで割引適用を特典として受けることができます。

その成果としてメンバーシップ加入者のショップ利用率が高く、メンバーの年間平均購入額が一般客の2倍以上になったことがあります。また、割引を活用した購買行動が定着し、総収益の約15%がミュージアムショップ関連になったことがあります5

このような成功事例からも分かるようにメンバーシップの加入者の特典が加入者のメリットになるだけでなく、ミュージアムの収益を増加させるための重要な施策の一つになることもあるということがお分かりになるのではないでしょうか。

方法その④ ニュースレターや会報の発信

ニュースレターや会報の発信はメンバーシップの個人宛にEメールのニュースレターを送付したり、紙面で作成している会報を登録のある住所宛に郵送したりする方法です。

この方法を行うことでメンバーシップの加入者に対して定期的にミューアジムの情報を提供することができ、加入者のミュージアムのへの関心を高めることができます。

具体的には次のような内容をニュースレターや会報で発信することが考えられます。

  1. 展示会やイベントへの早期アクセス
  2. プログラムやワークショップへの優先登録
  3. 現在利用できる割引内容と特別オファー
  4. ミュージアムに関する舞台裏を紹介するコンテンツ
  5. デジタルおよびバーチャル コンテンツへのアクセス

優先予約とは、人気の高い展覧会やイベントのチケットを優先的に予約できる権利をメンバーシップ会員限定で

これらの特典は、来館者に特別な体験や利便性を提供し、メンバーシップへの加入意欲を高めます。特に、限定イベントへの招待や優先予約などは、一般の来館者には得られない特別感を提供するため、効果的です。

例えば、ニューヨークのメトロポリタン美術館(MET)では、会員向けに特別なアクセスを提供しています。具体的には、通常営業時間外の早朝や夜間に館内を利用できる権利や、企画展の会期前に特別に入場できる権利などがあります。このような特典は人気がある展覧会で混雑が予想される場合に混雑を避けて鑑賞したいと考えている来館者にとってはとても魅力的な特典になるでしょう6

優先予約はメンバーシップに加入者に対してメリットとなるだけでなく、より良いサービスを提供されている優越感を感じてもらうことができる特典でもあると考えられます。

まとめ

まとめると、ミュージアムのメンバーシップ制度は、収益の多様化と安定化に寄与し、来館者に特別な体験や利便性を提供することで、加入意欲を高めることができます。特典の内容や提供方法を工夫することで、メンバーシップの価値を高め、ミュージアムと来館者双方にとって有益な関係を築くことが可能です。

参考にすべきミュージアムの事例として、前述のニューヨーク近代美術館(MoMA)や大英博物館、メトロポリタン美術館などが挙げられます。これらの施設は、多彩なメンバーシップ特典やパートナーシップを活用し、収益の多様化と来館者満足度の向上を実現しています。

  1. 株式会社三井住友トラスト基礎研究所.“博物館・美術館経営における民間活用(上)〜収益構造にみる各施設の運営状況”.レポート・市場動向.https://www.smtri.jp/report_column/report/pdf/report_20200826.pdf?utm_source=chatgpt.com,(2025年2月6日閲覧).  ↩︎
  2. 矢崎陽子, and 長谷川直哉. “ミュージアムの社会的役割の変化と経営的課題に関する一考察.” 日本経営倫理学会誌 18 (2011): 253-267. ↩︎
  3. FINANCIAL TIMES.“Are arts memberships worth it?”.FINANCIAL TIMES.https://www.ft.com/content/d43986fa-1b70-41f1-8fdf-edb22a32bb39?utm_source=chatgpt.com,(2025年2月6日閲覧).  ↩︎
  4. MoMA members.“Discover more as a member”.MoMA.https://membership.moma.org,(2025年2月7日閲覧). ↩︎
  5. Kotler, Neil G., Philip Kotler, and Wendy I. Kotler. Museum marketing and strategy: designing missions, building audiences, generating revenue and resources. John Wiley & Sons, 2008. ↩︎
  6. 株式会社三井住友トラスト基礎研究所.“博物館・美術館経営における民間活用(上)〜収益構造にみる各施設の運営状況”.レポート・市場動向.https://www.smtri.jp/report_column/report/pdf/report_20200826.pdf?utm_source=chatgpt.com,(2025年2月6日閲覧).  ↩︎
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この記事を書いた人

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日々の業務経験をもとに、ミュージアムの楽しさや魅力を発信しています。このサイトは、博物館関係者や研究者だけでなく、ミュージアムに興味を持つ一般の方々にも有益な情報源となることを目指しています。

私は、博物館・美術館の魅力をより多くの人に伝えるために「Museum Studies JAPAN」を立ち上げました。博物館は単なる展示施設ではなく、文化や歴史を未来へつなぐ重要な役割を担っています。運営者として、ミュージアムがどのように進化し、より多くの人々に価値を提供できるのかを追求し続けています。

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