博物館はどう持続可能性を実現するのか ― 環境・社会・経済の視点から考えるミュージアム経営モデル

博物館の持続可能性とは、博物館固有の価値を守りながら変化に適応し、将来にわたって価値を生み出し続けられることです。

「持続可能性」という言葉から、省エネルギーや廃棄物削減といった環境対策、あるいはSDGsを連想することは少なくありません。しかし、博物館経営における持続可能性は、それだけでは捉えきれません。博物館の持続可能性を考える研究では、文化的、社会的、環境的、経済的な側面を含む多面的な視点から、組織が長期的に活動を継続するための条件が検討されています(Pop & Borza, 2016)。とりわけ博物館や図書館のように文化遺産を扱う組織では、文化そのものを将来へ継承するという観点を持続可能性の議論に位置づける必要性も指摘されています(Loach et al., 2017)。

ここで重要なのは、「博物館が残ること」と「博物館が持続可能であること」を区別することです。建物や組織が存続していても、それだけで持続可能性が実現しているとは限りません。組織の持続可能性には、単なる制度的な存続を超えて、長期にわたりその目的を果たしていくという世代間の視点が必要になります(Moldavanova, 2016)。博物館であれば、文化遺産を収集・保存・研究し、現在と将来の世代がその価値に接することのできる条件を維持していくことが、持続可能性を考えるうえで重要になります(Pop et al., 2019)。

したがって、持続可能性は「現在の博物館をそのまま残す」という現状維持の問題でもありません。将来へ引き継ぐべき価値を見定める一方で、それを実現する方法については、変化する環境に応じて見直す必要があります。何を守るのか。そして、守るために何を変えるのか。この二つを同時に考えることによって、持続可能性は抽象的な理念ではなく、博物館の長期的な経営を考えるための問いになります。

では、建物や組織として博物館が残り続けていれば、それだけで持続可能だと言えるのでしょうか。まずは、「博物館が残ること」と「博物館が持続可能であること」の違いから考える必要があります。

目次

博物館が残ることと、持続可能であることは同じではない

博物館の持続可能性を考えるとき、最初に区別しておく必要があるのが、「組織として存続すること」と「長期にわたって存在理由を実現し続けること」です。組織が制度的に存続することは重要ですが、それだけでは持続可能性を十分に説明できません。組織の持続可能性には、制度や組織そのものが存続するという側面に加えて、世代を超えてその目的を果たしていくという長期的な側面があると整理されています(Moldavanova, 2016)。

この違いは、博物館を考えるうえでも重要です。建物が維持され、組織が存続し、同じ名称で活動を続けていたとしても、それだけをもって持続可能な博物館とは言えません。問われるのは、組織が残っているかだけではなく、なぜその博物館が存在するのかという固有の目的を、長期にわたって実現できているかという点です。組織が長期的に持続するためには、その組織らしさや固有の存在理由を維持することが重要な要素になります(Moldavanova, 2016)。

しかし、固有性を守ることは、現在の組織や活動のあり方をそのまま固定することを意味しません。長期的な持続可能性には、変化する環境のなかでも組織が機能し続けられる適応力も必要です。組織固有の特徴を維持しようとする方向と、環境の変化に応じて組織を適応させようとする方向は、ともに持続可能性を支える一方で、両者の間には緊張が生じることがあります(Moldavanova, 2016)。

この緊張関係は、「何も変えないこと」と「何でも変えること」のどちらかを選べば解決するものではありません。変化を拒み続ければ、環境に適応する力を失う可能性があります。一方で、適応することだけを優先すれば、その組織を他の組織から区別してきた固有性が弱まる可能性があります。長期的な持続可能性には、この二つをどのように両立させるかという継続的な判断が含まれます(Moldavanova, 2016)。

したがって、博物館の持続可能性を、法人、建物、名称といった外形的な存続だけで判断することはできません。重要なのは、変化する条件に適応しながらも、その博物館が存在する理由を失わず、長期にわたって実現し続けられるかということです。持続可能性とは、組織が残ることではなく、その存在理由を長期的に実現できることなのです。

何を守るのか:博物館の文化的使命を考える

博物館の持続可能性を考えるには、まず「何を持続させるのか」を明確にする必要があります。組織や建物が長く残ること自体を目的とするのではなく、博物館だからこそ将来へ継承すべき価値は何かを問わなければなりません。その手がかりとなるのが、文化そのものの継承を持続可能性の重要な課題として捉える「文化的持続可能性」という考え方です。

持続可能性は、経済・社会・環境という側面を中心に論じられてきましたが、文化をそれらと並ぶ重要な側面として位置づける議論も展開されています。とりわけ博物館や図書館のような文化機関では、文化遺産を保存し、将来へ継承すること自体が組織の重要な役割であるため、文化的側面を抜きに持続可能性を考えることには限界があります(Loach et al., 2017)。ただし、文化を「第四の柱」と位置づける考え方は、持続可能性についての唯一の確定した枠組みではなく、その概念を文化機関へ適用するための重要な研究上の視点として捉える必要があります。

博物館における文化的持続可能性をより具体的に考えると、その中心には、文化遺産を収集し、保存・保全し、調査研究を行い、そこから得られた文化的知識とともに将来へ継承するという役割があります。文化的持続可能性を狭義に捉える場合にも、有形・無形の文化遺産を収集、保存・保全、研究し、現在と将来の世代がそれらへアクセスできる状態を確保することが重要な要素として位置づけられています(Pop et al., 2019)。

したがって、博物館が守るべきものは、収蔵品という物理的な対象だけではありません。資料について調査研究し、その意味や価値を明らかにし、文化的知識として蓄積しながら、現在だけでなく将来の人々も文化遺産に接することのできる条件を維持することまで含まれます。同時に、博物館の持続可能性は館内だけで完結するものではなく、文化政策や地域、行政を含む多様な関係主体との関係のなかで形成されることも指摘されています(Stylianou-Lambert et al., 2014)。

ここで区別すべきなのは、「博物館という組織を残すこと」と「博物館だからこそ担う文化的価値を残すこと」です。前者だけを目的にすれば、組織の存続そのものが目標になりかねません。持続可能性を考える第一歩は、将来も組織を残せるかを問うことだけではなく、その博物館が将来へ残すべき文化的価値とは何かを明確にすることなのです。

何を変えるのか:持続するための適応とは何か

守るべき文化的価値を明確にしたとしても、それを将来へ引き継ぐ方法まで固定する必要はありません。むしろ、持続可能性を現在の状態の維持と捉えてしまうと、博物館を取り巻く条件が変化したときに、本来守るべき価値そのものを維持できなくなる可能性があります。長期的な持続可能性には、組織としての固有性を保つことと、変化する環境に適応することの両方が求められます(Moldavanova, 2016)。

博物館は、社会的、経済的、制度的、技術的な条件から切り離されて存在しているわけではありません。こうした外部条件が変化すれば、文化的使命を実現するための方法についても見直しが必要になることがあります。ここで重要なのは、変える対象を「博物館が何のために存在するのか」という根本的な目的と、「その目的をどのような方法で実現するのか」という手段に分けて考えることです。使命を守ることと、現在の方法を守ることは同じではありません。

組織の持続可能性を考えるうえでは、環境の変化に対応しながら存続する適応力と、その組織を他の組織から区別する固有性という二つの方向が重要になります。この二つは必ずしも自然に一致するわけではなく、ときには相反する可能性があります。環境への適応を優先するほど従来の固有性が変化することがあり、反対に固有性を維持することを優先するほど環境への適応が難しくなる場合があります(Moldavanova, 2016)。

したがって、持続可能性は単純な「変化の推奨」を意味するものでもありません。変化すること自体を目的にすれば、長期的に守るべき組織の存在理由まで曖昧になるおそれがあります。反対に、過去から続いてきたという理由だけですべての方法を固定すれば、変化した環境のなかで目的を実現する力を失う可能性があります。問うべきなのは、変えるか変えないかではなく、「何を守るために、何を変える必要があるのか」です。

この視点に立てば、博物館に必要な適応とは、文化的使命を手放すことではなく、それを長期的に実現するための方法を必要に応じて見直すことだと整理できます。固有性と適応力のどちらか一方を選ぶのではなく、両者の緊張関係を継続的に調整することが、長期的な持続可能性につながります(Moldavanova, 2016)。持続可能な博物館とは、変わらない博物館ではなく、守るべき価値のために変われる博物館なのです。

博物館の持続可能性を支える4つの側面

博物館が固有の文化的価値を守り、変化に適応しながら活動を続けるためには、それを支える条件にも目を向ける必要があります。博物館の持続可能性を、文化・社会・環境・経済という4つの側面から捉え、それぞれの状態を総合的に評価しようとする研究枠組みがあります(Pop & Borza, 2016)。これは、4つの側面が唯一の確定したモデルであることを意味するものではありません。むしろ、博物館の持続可能性を単一の成果だけで判断しないための分析枠組みとして理解することが重要です。

文化的側面:博物館固有の役割を継続できるか

文化的側面では、文化遺産を収集・保存し、調査研究を行い、その価値を現在と将来の世代へ伝えていくという博物館固有の役割が焦点になります。博物館や図書館の持続可能性を考えるうえでは、経済・社会・環境だけでなく、文化を重要な側面として位置づける必要性が論じられています(Loach et al., 2017)。また、文化遺産の収集、保存・保全、研究を通じて、現在と将来の世代による文化遺産へのアクセスを確保することは、博物館における文化的持続可能性の重要な要素として捉えられています(Pop et al., 2019)。

社会的側面:博物館を支える関係を維持できるか

社会的側面では、博物館と利用者や地域、その他のステークホルダーとの関係が問題になります。博物館は組織内部だけで活動を完結できる存在ではなく、外部の主体との関係のなかで活動しています。博物館の持続可能性を測定する枠組みにおいても、来館者や地域社会との関係など、社会的な条件が評価対象に含まれています(Pop & Borza, 2016)。ここでいう社会的側面は、博物館が社会全体の持続可能性を実現するという意味ではなく、博物館自身が長期的に活動を続けるために必要な関係を維持できているかという観点です。

環境的側面:活動と自然環境との関係を管理できるか

環境的側面では、博物館活動が自然環境へ与える影響と、資源利用のあり方を長期的な視点から捉えます。持続可能性の測定枠組みには、エネルギー、水、廃棄物などに関する指標が含まれており、博物館の運営と自然環境との関係も評価対象とされています(Pop & Borza, 2016)。ただし、環境への配慮だけで博物館全体の持続可能性を判断することはできません。環境的側面は、文化的使命を長期的に実現するために検討すべき条件の一つとして位置づける必要があります。

経済的側面:使命を支える資源を確保できるか

経済的側面では、博物館が活動を継続するために必要な財源や経済的基盤を維持できるかが問われます。ただし、持続可能性を収入額や来館者数だけに還元することは適切ではありません。博物館の持続可能性には、規模、館種、組織構造、経営やマーケティングのあり方など複数の要因が関係すると整理されており、経済的条件もその一部として捉えられています(Pop & Borza, 2016)。経済的な安定はそれ自体が最終目的なのではなく、博物館が文化的使命を継続するための基盤として考える必要があります。

こうした多面的な状態を把握するため、博物館の持続可能性について33の指標を用いた測定枠組みも提示されています(Pop & Borza, 2016)。重要なのは指標の数そのものではなく、持続可能性を一つの数字や成果だけで評価しないという考え方です。文化的価値を守れていても、それを支える社会的、環境的、経済的条件に大きな問題があれば、長期的な継続は難しくなります。反対に、経済的に安定していても、博物館固有の文化的役割を果たせなくなれば、それだけで持続可能とは言えません。博物館の持続可能性は一つの指標では判断できず、複数の条件を相互に関連づけながら総合的に捉える必要があるのです。

何を次世代へ引き継ぐのか:持続可能性を世代間で考える

博物館の持続可能性を考えるとき、時間の範囲を現在だけに限定することはできません。現在の活動を維持できているかだけでなく、今日の意思決定が将来世代にどのような価値と負担を残すのかを考える必要があります。組織の持続可能性には、現在の組織を存続させるだけではなく、世代を超えてその目的を実現していくという長期的な視点が含まれます(Moldavanova, 2016)。

この世代間の視点は、博物館が担う文化遺産の継承を考えるうえで特に重要です。博物館は、現在の利用者だけのためにコレクションを管理しているわけではありません。現在の世代が受け継いだ文化遺産を保存し、将来の人々が利用し、研究し、新たな意味を見いだすことのできる可能性を残していくことが求められます。そのため、現在の成果だけを基準として博物館の活動を評価するのではなく、長期的な時間軸から意思決定を捉える必要があります。

一方で、文化遺産を将来へ残すことは、単純にコレクションを増やし続けることと同じではありません。博物館が継続的に資料を収集すれば、収蔵する資料の総量は増加し、それらを記録し、保存し、管理していく責任も拡大します。コレクションが拡大する一方で処分が限定的であれば、増大する管理負担が将来世代へ引き継がれるという問題が生じます(Merriman, 2008)。現在の世代にとって価値ある収集であっても、その判断には将来にわたる管理責任が伴います。

ここから重要な問いが生まれます。現在の世代は、将来世代に「価値ある文化遺産」を残しているのか、それとも「管理し続けなければならない負担」を残しているのかという問いです。この二つは必ずしも明確に分離できません。文化遺産を保存するためには管理が必要であり、その責任を将来へ引き継ぐこと自体を否定することはできません。したがって、問題は単純に収集を続けるか、資料を処分するかという二者択一ではなく、現在の収集や保存に関する判断が将来にどのような責任を伴うのかを認識することにあります(Merriman, 2008)。

世代間の持続可能性という視点に立てば、博物館経営の判断基準も変わります。現在の活動を維持できるかだけではなく、その判断によって将来の人々が文化遺産に接する可能性を確保できるか、同時に過大な管理負担を引き継がせていないかを考えなければなりません。持続可能性とは、現在の成果だけでなく、今日の判断が将来世代へどのような価値と負担を残すかを考えることなのです。

持続可能性を損なうのはどのような状態か

博物館が開館を続け、組織として存続しているからといって、その状態が持続可能であるとは限りません。これまで見てきた持続可能性の考え方を逆方向から捉えると、博物館がどのような状態に陥ったときに持続可能性が損なわれるのかが見えてきます。重要なのは、特定の問題の有無だけではなく、博物館の存在理由、変化への適応、活動を支える条件、将来世代への責任を相互に関連づけて考えることです。

組織は残っているが使命を果たせない

第一に、組織として存続していても、その存在理由を長期的に実現できなくなっている状態です。組織の持続可能性は、制度的に存続することだけではなく、世代を超えてその目的を実現していくことを含みます(Moldavanova, 2016)。したがって、建物、名称、組織が維持されていても、博物館として守るべき価値を実現できなければ、外形的な存続だけで持続可能とは判断できません。

変化へ適応できない

第二に、固有性を守ろうとするあまり、変化する環境へ適応できなくなる状態です。長期的な持続可能性には、組織固有の特徴を維持することとともに、環境の変化に対応する適応力が必要になります(Moldavanova, 2016)。過去から続いてきた方法を維持すること自体が目的となれば、本来守るべき存在理由を実現するための手段を見直せなくなる可能性があります。

変化しすぎて固有の役割を失う

第三に、環境への適応を優先するあまり、組織固有の存在理由が弱まる状態です。適応力と固有性は、ともに持続可能性に関わる一方、その方向が一致するとは限らず、両者の間には緊張が生じることがあります(Moldavanova, 2016)。したがって、変化すること自体を持続可能性とみなすこともできません。何を変えるかという判断には、同時に何を守るのかという判断が必要です。

現在の負担を将来へ先送りする

第四に、現在の活動を維持することで生じる負担を、将来世代へ継続的に移していく状態です。コレクションを拡大し続ければ、それに伴って記録、保存、管理を継続する責任も増大します。収集が続く一方で処分が限定的であることによって、拡大したコレクションの管理負担が将来世代へ引き継がれる問題が指摘されています(Merriman, 2008)。現在の成果だけではなく、その判断が将来にどのような責任を残すのかまで考える必要があります。

一つの成果だけで持続可能性を判断する

第五に、特定の成果だけを見て博物館全体の持続可能性を判断する状態です。博物館の持続可能性については、文化・社会・環境・経済の複数の側面を対象とした測定枠組みが提示されており、33の指標によって多面的に状態を捉える方法も提案されています(Pop & Borza, 2016)。一つの指標が良好であることと、博物館全体が長期的に持続可能であることは区別して考えなければなりません。

このように、持続可能性を損なう状態は、単純な資金不足だけでは説明できません。組織が残っていても使命を果たせないこと、変化へ適応できないこと、反対に変化によって固有性を失うこと、現在の判断による負担を将来へ移すこと、そして一面的な成果だけで状態を判断することはいずれも、長期的な持続可能性を考えるうえで重要な問題になります。持続可能性を損なうのは、単なる資金不足ではなく、使命・適応・資源・世代間責任のバランスが崩れることなのです。

自館の持続可能性を考える4つの問い

持続可能性を博物館経営に生かすには、概念を理解するだけでなく、自館の意思決定を点検するための問いへ置き換える必要があります。ここまで検討してきた文化的持続可能性、組織の固有性と適応力、多面的な持続可能性、世代間の責任という観点は、「何を守るのか」「何を変えるのか」「何で支えるのか」「何を次世代へ引き継ぐのか」という4つの問いに整理できます。これは先行研究で確立された評価モデルではなく、持続可能性に関する研究を博物館の実務や教育で検討しやすい形に整理したものです。

1.何を守るのか

最初に問うべきなのは、その博物館が将来へ残すべき固有の価値です。組織が長期的に持続するためには、環境へ適応するだけでなく、その組織を特徴づける固有性を維持するという視点が重要になります(Moldavanova, 2016)。博物館の場合には、文化遺産の収集、保存・保全、調査研究、現在と将来の世代による文化遺産へのアクセスなど、博物館として継承すべき文化的価値を明確にすることが出発点になります(Pop et al., 2019)。

2.何を変えるのか

守るべき価値が明確になれば、次に、その価値を維持するために何を変える必要があるのかを考えます。長期的な持続可能性には、組織固有の特徴を維持することと、変化する環境へ適応することの両方が必要であり、その間には緊張が生じることがあります(Moldavanova, 2016)。現在の活動や方法を続けること自体を目的にせず、それらが守るべき価値の実現に現在も有効なのかを問い直すことが重要です。

3.何で支えるのか

文化的使命を明確にし、必要な変化を選択しても、それを支える条件が維持できなければ長期的な継続は困難です。博物館の持続可能性を文化・社会・環境・経済という複数の側面から評価する枠組みでは、33の指標を用いて多面的に状態を把握する方法が提示されています(Pop & Borza, 2016)。自館を考える際にも、文化的使命を果たせているかだけでなく、利用者やステークホルダーとの関係、自然環境との関係、経済的な基盤などに無理が生じていないかを併せて確認する必要があります。

4.何を次世代へ引き継ぐのか

最後に、現在の意思決定を将来世代の視点から問い直します。組織の持続可能性には、現在の存続だけでなく、世代を超えて目的を実現していくという視点が含まれます(Moldavanova, 2016)。博物館では、文化遺産を将来へ継承する一方、コレクションの拡大に伴う保存・管理の責任も将来へ引き継がれます。収集を継続することで増大するコレクションの管理負担を将来世代へ移転する可能性も指摘されています(Merriman, 2008)。現在の判断が将来に価値を残すのか、それとも過大な負担を残すのかという視点が必要です。

この4つの問いは、単独で答えを出すためのものではありません。「何を守るのか」を起点として、そのために「何を変えるのか」、それを「何で支えるのか」、そして現在の判断によって「何を次世代へ引き継ぐのか」を関連づけて考えることに意味があります。持続可能性は抽象的な理念ではなく、博物館の現在の状態と将来への意思決定を点検するための問いとして使うことができるのです。

持続可能性とは、残すべきもののために変わり続けることである

博物館の持続可能性は、現在の組織や活動をそのまま残すことではありません。建物や名称、組織が存続していても、博物館としての存在理由を長期的に実現できなければ、それだけで持続可能とは言えません。まず問うべきなのは、何を残すのかです。文化遺産を保存し、研究し、その価値を現在と将来の世代へつないでいくという文化的使命を明確にすることが、持続可能性を考える出発点になります。

しかし、守るべき価値があることは、その実現方法まで変えてはならないことを意味しません。博物館を取り巻く条件が変化する以上、文化的使命を実現し続けるためには、活動や方法を見直す必要があります。同時に、その変化を支える文化的、社会的、環境的、経済的な条件を多面的に捉えなければなりません。一つの成果が良好であることだけでは、博物館全体の持続可能性を判断することはできないのです。

さらに、持続可能性には世代間の視点が欠かせません。現在の経営判断によって何を将来へ残すのか、その価値を維持するためにどのような責任や負担も引き継がれるのかまで考える必要があります。現在にとって望ましい判断であっても、将来世代に過大な負担を残すのであれば、長期的な視点から改めて検討する必要があります。

つまり、博物館の持続可能性とは、文化的使命という守るべきものを明確にし、変化する環境へ適応しながら、それを支える条件を整え、その価値を将来世代へ引き継いでいくことです。持続可能性は現状維持ではありません。何を続けるのかだけでなく、何を変えなければ続けられないのかを問い続けることが、持続可能な博物館経営の出発点になるのです。

参考文献

  • Loach, K., Rowley, J., & Griffiths, J. (2017). Cultural sustainability as a strategy for the survival of museums and libraries. International Journal of Cultural Policy, 23(2), 186–198.
  • Merriman, N. (2008). Museum collections and sustainability. Cultural Trends, 17(1), 3–21.
  • Moldavanova, A. (2016). Two narratives of intergenerational sustainability: A framework for sustainable thinking. The American Review of Public Administration, 46(5), 526–545.
  • Pop, I. L., & Borza, A. (2016). Factors influencing museum sustainability and indicators for museum sustainability measurement. Sustainability, 8(1), 101.
  • Pop, I. L., Borza, A., Buiga, A., Ighian, D., & Toader, R. (2019). Achieving cultural sustainability in museums: A step toward sustainable development. Sustainability, 11(4), 970.
  • Stylianou-Lambert, T., Boukas, N., & Christodoulou-Yerali, M. (2014). Museums and cultural sustainability: Stakeholders, forces, and cultural policies. International Journal of Cultural Policy, 20(5), 566–587.

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国立文化施設にて運営・経営に関する業務に携わっています。
博物館経営、文化政策、ミュージアムDX、教育普及を中心に、実務と研究の両面から情報発信を行っています。

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