博物館とArt security token ― 文化資産は金融商品になり得るのか、その可能性と限界

近年、NFTやトークン化といったデジタル技術が、金融分野にとどまらず文化分野にも広がりつつあります。美術作品や文化資産をデジタル上で扱う試みは、民間のアート市場だけでなく、博物館や美術館といった公共的な文化機関にも影響を及ぼし始めています。その中で注目されているのが、Art security token(以下、AST)と呼ばれる証券型トークンです。ASTは、美術作品の経済的価値に関わる権利をトークン化する仕組みであり、一般には投資や資産運用の文脈で語られることが多い概念です。しかし、この動きは単なる新しい投資手法にとどまらず、博物館の役割や経営のあり方にも無関係ではありません。

博物館は、文化資産を長期的に保存し、公共的に活用することを使命としており、市場での価格変動や収益性を直接の判断基準としてきた組織ではありません。一方で、社会全体で文化資産の金融化や流動化が進む中、博物館がその議論から距離を置き続けることも難しくなっています。ASTの登場は、博物館に対して「関与すべきか否か」という二択を迫るものではなく、「どのような距離を保つべきか」を問い直す契機だといえます。

本記事では、ASTを投資商品として解説することを目的とするのではなく、博物館経営論の視点から、その仕組みと背景を整理します。文化資産と金融の接点において、博物館がどのような立場を取るべきなのかを考えるための出発点として、ASTを位置づけていきます。

目次

Art security tokenとは何か

Art security tokenの定義

Art security token(以下、AST)とは、美術作品を裏付け資産とし、その経済的価値に関わる権利を証券としてトークン化した仕組みを指します。ここで重要なのは、ASTが扱う対象は美術作品そのものではなく、「将来の売却益」や「価値上昇によって生じる経済的利益への請求権」である点です。つまり、ASTは文化財や作品の所有権を分割するものではなく、あくまで経済的価値に関する権利を金融商品として切り出す仕組みだと整理できます。

ASTは一般に、証券型トークン(security token)として位置づけられます。これは、株式や社債などと同様に、投資契約上の権利を表象するものであり、各国の金融規制や投資家保護の枠組みの対象となる点に特徴があります。そのため、発行主体には情報開示やリスク説明といった義務が課され、購入者もまた投資判断の主体として位置づけられます。

実務的には、実物の美術作品は特別目的会社(SPV)などの法人が保有し、その法人が発行する権利をトークンとして分割・流通させる構造が想定されます。作品自体は安全な保管環境で管理され、展示や貸出の判断も原則として従来の枠組みで行われます。一方、トークンの保有者は、作品が将来売却された場合などに、あらかじめ定められた条件に基づいて経済的利益を受け取る可能性を持つことになります。このように、実物作品、SPV、トークンは明確に役割が分けられており、ASTは文化資産を金融契約の対象として再構成する仕組みだといえます。

NFTとの違いから見えるArt security tokenの本質

ASTはしばしばNFTと混同されますが、両者の本質は大きく異なります。NFTが主にデジタルデータの唯一性や真正性を示す「象徴的所有」を扱うのに対し、ASTは明確に「金融商品」として設計されています。NFTを購入する行為が、作品や博物館との関係性への参加や記念的意味合いを持つのに対し、ASTの購入は、将来の経済的リターンを期待する投資行為として位置づけられます。

この違いは、規制や説明責任の重さにも表れます。NFTは多くの場合、金融商品としての規制対象外に置かれており、価格変動や価値下落のリスクは購入者の自己責任として扱われます。一方、ASTは証券として扱われるため、発行者にはリスクの開示や適切な勧誘が求められ、購入者保護の枠組みが制度的に組み込まれます。これは、ASTが文化的な体験の提供ではなく、経済的価値の分配を目的とした仕組みであることを示しています。

こうした性格の違いから、博物館がASTに対して慎重な姿勢を取らざるを得ない理由も見えてきます。博物館の所蔵品は、寄贈者の意思や公共的信託に基づいて管理されており、価格変動や将来の売却を前提とする金融契約と親和的ではありません。ASTは文化資産を市場に接続する有効な技術である一方で、博物館の意思決定を市場論理に引き寄せる可能性も孕んでいます。そのため、博物館にとってASTは導入すべき技術というよりも、文化と金融の境界線を再確認させる存在として理解される必要があります。

NFTとArt security tokenの違いが分かる比較表

比較項目NFTArt security token(AST)
本質デジタルデータの唯一性・真正性を示す仕組み経済的価値に関する権利を証券としてトークン化する仕組み
対象デジタル作品、作品画像、デジタル証明など美術作品の経済的価値(売却益・価値上昇など)に関わる請求権
得られる権利象徴的所有、記念性、コミュニティ参加など(契約内容次第)投資契約上の権利(収益分配・持分権など。設計により異なる)
購入者の位置づけファン/支援者/購入者(必ずしも投資家ではない)投資家(投資判断とリスク負担が前提)
規制・法的位置づけ多くの場合、金融商品としては扱われない証券型トークンとして金融規制・投資家保護の対象になり得る
価値の源泉希少性、物語性、コミュニティ、二次流通の人気基礎資産(作品)の価格形成と契約条件(分配ルール)
想定されるリスク価格変動、真贋・権利関係の誤認、プラットフォーム依存価格下落、売却不能(流動性リスク)、法規制・開示不備リスク
博物館との相性記念性・参加設計として活用しやすい(金融化を避けやすい)市場論理の影響を受けやすく、公共性・信託責任との緊張が生じやすい

なぜ今、Art security tokenが求められているのか

美術市場が抱える構造的課題

Art security token(AST)が注目される背景には、美術市場そのものが抱えてきた構造的な課題があります。第一に挙げられるのが、作品価格の高額化と購入者の限定です。国際的なオークション市場では、一部の著名作家の作品価格が高騰を続けており、実質的に購入可能なのはごく限られた富裕層や機関投資家に絞られています。その結果、優れた作品であっても、売買の機会が極端に狭められる状況が生まれています。

第二に、美術作品は流動性が低い資産であるという問題があります。株式や債券のように市場で日常的に取引されるものではなく、売却には時間とコストがかかります。適切な買い手が見つからなければ、価値があっても現金化できない状態が長く続くことになります。第三に、相続や資産分割の難しさも無視できません。美術作品は物理的に分割できず、相続時には評価や分配をめぐって問題が生じやすい資産です。

こうした要素が重なり、美術作品は「価値は高いが、容易には動かせない資産」として位置づけられてきました。ASTは、この固定化された状況を変え、経済的価値の一部だけを切り出して流通させようとする試みとして登場しています。

金融市場側の要請

一方で、金融市場側にもASTを求める要因があります。近年、株式や債券といった伝統的な金融商品だけでは、十分な分散投資効果を得にくくなっており、代替資産への関心が高まっています。不動産やコモディティと並び、美術作品もまた、金融市場とは異なる価格形成メカニズムを持つ資産として注目されてきました。

特にアートは、株式市場の変動と必ずしも連動しない「非相関資産」として語られることが多く、ポートフォリオ分散の観点から関心を集めています。加えて、作品の背景や作家の評価といった物語性を伴う点も、数値だけで評価される金融商品とは異なる魅力として捉えられています。ASTは、こうしたアートの特性を活かしながら、金融市場に接続するための仕組みとして位置づけられています。

技術成熟がもたらした可能性

こうした市場双方の要請が存在しても、技術的な裏付けがなければASTは成立しませんでした。近年のブロックチェーン技術の成熟によって、初めて現実的な選択肢となった点が重要です。ASTでは、経済的権利を小口化し、多数の参加者に分配することが可能になります。これにより、従来は一部の主体しか関与できなかった高額作品にも、間接的に参加する道が開かれました。

また、取引履歴を改ざん困難な形で記録できる点は、権利関係の透明性を高めます。誰がどの権利を保有しているのかを明確に管理できることは、金融商品として扱ううえで不可欠な条件です。さらに、分配処理をスマートコントラクトによって自動化できるようになったことで、将来の売却益や収益配分をあらかじめ定めたルールに従って実行することも可能になりました。

このように、ASTは技術が先行して生まれた概念ではなく、美術市場と金融市場の双方が抱えてきた課題に対して、技術がようやく「意味を持つ段階」に到達した結果として登場した仕組みだと理解することができます。

Art security tokenの特徴と限界

経済的価値と文化的価値を分離する仕組み

Art security token(AST)の最も大きな特徴は、美術作品が持つ「経済的価値」と「文化的価値」を意図的に切り分ける点にあります。ASTの設計において、実物の作品そのものは原則として動かされません。作品は従来どおり、収蔵庫や展示空間で保管・管理され、展示や保存の判断も既存の枠組みの中で行われます。トークン化の対象となるのは、あくまでその作品が将来生み出す可能性のある経済的利益に関する権利です。

この仕組みでは、作品の所有権や管理権を分割するのではなく、売却益や価値上昇といった経済的成果への請求権のみが切り出されます。そのため、展示の可否や保存方針がトークン保有者によって左右されることは想定されていません。ASTは、文化資産の扱い方を変えるというよりも、経済的価値の流通経路を別立てで設計する試みだといえます。

この分離は、博物館や美術館にとって一定の合理性を持ちます。展示や保存といった文化的判断と、経済的価値の変動を切り離すことで、学術的・公共的な意思決定が市場価格に直接影響されることを防ぐ狙いがあるからです。一方で、この構造には限界もあります。ASTは文化的価値そのものを守る仕組みではなく、あくまで経済的価値を扱う金融技術にすぎません。文化的意義や公共性は、トークンの仕組みの外側に置かれており、それ自体を保証するものではない点を明確に理解しておく必要があります。

収益性は本当にあるのか

ASTはしばしば「新しい収益機会」として語られますが、その収益性は慎重に評価する必要があります。理論上は、作品の将来的な売却益や価値上昇がトークン保有者に分配されることで、投資リターンが生まれる可能性があります。また、貸出や利用に伴う収益が組み込まれる場合も想定されています。しかし、これらはいずれも将来の不確実な出来事に依存しています。

美術市場における価格形成は予測が難しく、すべての作品が価値を維持・上昇させるわけではありません。市場環境や評価の変化によっては、期待されたリターンが得られない可能性も高くなります。加えて、ASTは理論上は流動性を高める仕組みとされていますが、実際の取引市場が十分に成熟していなければ、売却したくても買い手が見つからない状況が生じます。これは、流動性リスクとして投資家が負うことになります。

こうした点を踏まえると、ASTは安定した財源や確実な収益源として位置づけることはできません。短期的・中期的な市場動向に大きく左右される性格を持ち、博物館や文化機関の基盤的な運営費を支える仕組みとは本質的に異なります。ASTは収益性を完全に否定されるものではありませんが、その限界を正確に理解したうえで、過度な期待を抱かずに捉える必要があります。

事例|博物館におけるトークン活用の実際

アントワープ王立美術館(KMSKA)の取り組み

博物館がトークン技術に最も踏み込んだ事例として注目されているのが、アントワープ王立美術館(KMSKA)の「Become co-owner of a masterpiece」と題された取り組みです。このプロジェクトでは、特定の美術作品を対象に、来館者や支援者が「共同所有者(co-owner)」として関与できる仕組みが提示されています。公式サイト上では、作品の価値を多くの人と共有する新しい形として説明されており、従来の寄付とも単純な購入とも異なる枠組みが採用されています。

ここで重要なのは、「共同所有」という表現が用いられている点です。KMSKAの説明では、参加者は作品そのものを持ち帰ったり、展示や保存に関する決定権を持ったりするわけではありません。作品は引き続き博物館の管理下に置かれ、展示や保存の判断も従来どおり専門的な基準に基づいて行われます。一方で、プロジェクトへの参加は、作品の価値形成に関わる象徴的な立場を得ることを意味しています。

この取り組みは、Art security token(AST)の文脈に最も近い博物館事例と位置づけることができますが、同時に明確な留保も存在します。KMSKAは、金融商品としての性格を前面に押し出すことを避け、投資利益や収益分配を強調していません。博物館は、資金調達の手法として新しい参加の形を提示しつつも、所蔵品を本格的な金融商品として市場に委ねることには踏み込んでいないのです。この慎重な設計こそが、KMSKAの事例を博物館経営の観点から読み解くうえでの重要なポイントだといえます。

エルミタージュ美術館のNFT事例

ロシアのエルミタージュ美術館は、名画をNFTとして販売する試みを行い、大きな注目を集めました。このプロジェクトでは、モネやレオナルド・ダ・ヴィンチなどの作品をもとにしたデジタルNFTが制作され、オークション形式で販売されました。目的として明示されていたのは、博物館の新たな収益確保の可能性を探る実験的な取り組みであり、デジタル技術を用いた資金調達の一形態として位置づけられていました。

ただし、このNFT事例は金融商品ではありません。購入者が得るのは、公式に認証されたデジタルデータであり、作品の売却益や将来の経済的利益に対する請求権ではありません。価格の上昇や再販売の可能性は存在するものの、それは市場参加者の判断に委ねられており、博物館側が投資的価値を保証するものではありません。

この点で、エルミタージュのNFT事例はASTとの違いを際立たせる対照的なケースといえます。トークン技術を用いてはいるものの、扱っているのは象徴的所有や記念性であり、経済的権利を制度的に切り出すASTとは性格を異にしています。

ベルヴェデーレ宮殿のNFT事例

オーストリアのベルヴェデーレ宮殿では、グスタフ・クリムトの代表作《接吻》を題材に、分割NFTを提供するプロジェクトが実施されました。この取り組みでは、作品全体を細分化したデジタルNFTが多数発行され、それぞれが一部を象徴的に「所有」する形で販売されました。プロジェクト全体は、愛や参加、文化への関与といったテーマを前面に打ち出して設計されています。

ベルヴェデーレの事例においても、経済的請求権は付与されていません。NFTの購入は、作品の売却益や将来的な収益分配を意味するものではなく、あくまで文化的な関与の証として位置づけられています。この点は、金融商品化を意図的に回避するための重要な工夫だといえます。

ベルヴェデーレの設計思想は、トークン技術を活用しながらも、博物館が担う公共性や信託責任を損なわないことに重きを置いています。経済的価値の流通を目的とするASTとは異なり、文化的価値への参加を拡張するための手段としてトークンを用いている点が、この事例の特徴です。

博物館におけるトークン活用の3事例比較表(KMSKA/エルミタージュ/ベルヴェデーレ)

比較項目KMSKA(アントワープ王立美術館)エルミタージュ美術館ベルヴェデーレ宮殿
プロジェクトの呼び方・位置づけ「Become co-owner of a masterpiece」
共同所有(co-ownership)を掲げた参加スキーム
名画のNFT販売
新たな収益機会を探る実験的取り組み
《接吻》の分割NFT提供
愛・参加・文化への関与を強調したプロジェクト
トークンの種類共同所有の枠組み(AST文脈に近い)NFT(非証券型)NFT(非証券型)
購入者/参加者に付与されるもの作品に関与する象徴的立場(共同所有者としての関与)公式に認証されたデジタルNFT(記念性・象徴的所有)作品全体の一部を象徴的に保有する分割NFT(参加性)
経済的請求権(売却益・分配など)明確には前面に出さず、金融商品としての強調を避ける設計付与しない(金融商品ではない)付与しない(金融商品ではない)
博物館の関与の度合い資金調達と参加の仕組みとして館が前面に関与しつつ、統治権限は留保NFT発行主体として関与(作品管理・展示方針は従来枠組み)NFT提供主体として関与(文化参加の設計に重点)
金融商品化との距離3例の中で最も近いが、言語設計上は慎重(投資性の強調を回避)距離がある(象徴的所有の範囲にとどめる)距離がある(文化的参加を前面に出す)
博物館経営上の論点共同所有の意味、公共性と市場接続の線引き、説明責任収益確保と正統性の両立、デジタル活用の範囲設定参加拡張と公共性の維持、非金融型インセンティブ設計

博物館はArt security tokenとどう向き合うべきか

発行主体ではなく、説明主体としての立場

Art security token(AST)が登場したことで、博物館は「発行するか、しないか」という選択を迫られているように見えることがあります。しかし実際には、博物館にとって重要なのは発行主体になることではなく、説明主体としての立場を確立することです。ASTがどのような仕組みであり、どのような価値観や前提に基づいているのかを正確に理解し、それを社会に説明できることが、博物館に求められる第一の役割だといえます。

とりわけ重要なのは、「なぜ自館はASTを採用しないのか」を自分たちの言葉で語れることです。それは単なる消極姿勢や技術への無理解ではなく、博物館が担ってきた公共性や信託責任に基づく経営判断であることを明確に示す必要があります。所蔵品は市場での価格変動を前提とした資産ではなく、将来世代に引き継ぐべき文化資産であるという立場を説明できなければ、博物館は外部からの期待や誤解に振り回されることになります。

ASTを理解しつつ距離を取るという姿勢は、結果として博物館への社会的信頼を守る行為でもあります。文化資産を安易に金融商品化しない理由を丁寧に説明することは、寄贈者や来館者、社会全体に対して、博物館がどのような価値を優先している組織なのかを示すことにつながります。

線引きを制度として明文化する重要性

説明主体としての立場を確かなものにするためには、個々の判断に委ねるのではなく、制度として線引きを明文化することが不可欠です。その中核となるのが、コレクションポリシーや関連規程です。所蔵品をどのような原則で管理し、どのような行為を許容しないのかを文書として示すことで、ASTのような新しい技術や制度に対しても一貫した対応が可能になります。

また、ガバナンスの観点からも、「やらないこと」をあらかじめ決めておくことは重要です。財源確保や効率化を理由に、短期的な収益機会へと引き寄せられる圧力は、今後さらに強まることが予想されます。その際に、どこまでが許容範囲で、どこからが博物館の使命と矛盾するのかを明確にしておかなければ、判断は場当たり的になりかねません。

ASTは一過性の流行ではなく、文化資産と市場の関係をめぐる長期的な変化の一部と考えられます。だからこそ博物館には、将来の外圧に備え、自らの立場を制度として固定する準備が求められます。線引きを明文化することは、防御的な行為ではなく、博物館経営における主体的な選択として位置づけられるべきものです。

まとめ

Art security token(AST)は、美術作品や文化資産を保全するための制度ではなく、あくまで経済的価値を流通させるための金融の仕組みです。ASTが扱うのは、作品が持つ文化的意義や公共的役割ではなく、将来生じうる経済的利益への請求権であり、その前提には市場での価格変動や収益性があります。この点において、ASTは文化政策や博物館制度の延長線上にあるものではなく、金融市場の論理に基づいて設計された仕組みだと位置づける必要があります。

一方、博物館は文化資産を市場から切り離し、信託として管理する存在です。所蔵品は、現在の利用者だけでなく、将来世代に引き継ぐべき公共的資産として位置づけられており、価格の上下や換金可能性を判断軸としてきたわけではありません。展示や保存、調査研究といった活動は、経済的価値とは異なる基準に基づいて行われており、この非市場的な立場こそが博物館の社会的正統性を支えています。

したがって、博物館にとって本質的に問われているのは、ASTに参加するか否かという単純な選択ではありません。重要なのは、どの価値を金融化せずに守るのか、どの領域を市場論理から切り離して維持するのかという経営判断です。ASTの存在は、博物館に新たな収益手段を提示するものではなく、自らの使命や役割を改めて言語化し、社会に説明することを求める契機として捉えるべきでしょう。博物館経営においては、流行や技術に反応すること以上に、価値の境界線を主体的に定める姿勢が、今後ますます重要になっていきます。

参考文献

  • Royal Museum of Fine Arts Antwerp (KMSKA). (n.d.). Become co-owner of a masterpiece. https://kmska.be/en/become-co-owner-masterpiece
  • ARTnews. (2021). Hermitage Museum to sell Monet, van Gogh and Leonardo paintings as NFTs. ARTnews. https://www.artnews.com/art-news/news/hermitage-museum-nfts-monet-leonardo-1234600031/
  • Belvedere Museum Vienna. (2021). A digital declaration of love: NFTs of “The Kiss” by Gustav Klimt now available for Valentine’s Day. https://www.belvedere.at/en/press/digital-declaration-love
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この記事を書いた人

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日々の業務経験をもとに、ミュージアムの楽しさや魅力を発信しています。このサイトは、博物館関係者や研究者だけでなく、ミュージアムに興味を持つ一般の方々にも有益な情報源となることを目指しています。

私は、博物館・美術館の魅力をより多くの人に伝えるために「Museum Studies JAPAN」を立ち上げました。博物館は単なる展示施設ではなく、文化や歴史を未来へつなぐ重要な役割を担っています。運営者として、ミュージアムがどのように進化し、より多くの人々に価値を提供できるのかを追求し続けています。

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