博物館の来館者数は、どのように決められているのか
博物館の新設・再整備に向けた基本構想や基本計画では、将来の年間来館者数が施設規模や来館者動線、駐車場、職員配置、収入見通しなどを検討する際の重要な前提となります。来館者数の予測が建築計画や運営の持続可能性に関わることは、実務資料でも重視されています(Silberberg & George, 2014)。
しかし、「多くの人に来館してもらいたい」という政策上の目標と、実際にどの程度の来館が見込まれるかという需要予測は、同じものではありません。予測値を施設計画の根拠とするには、どのようなデータを使い、どのような計算方法と前提条件から導いたのかを明らかにする必要があります。
本記事では、博物館の計画・経営支援を手がけるLord Cultural Resourcesが公開した需要予測方法を再現します。さらに、実際の博物館における予測と実績の比較や、査読研究による予測精度の検証を通じて、提示された来館者数の妥当性をどのように判断すべきかを考えます。
来館者数の予測には、どのようなデータが必要か
博物館の来館者数を予測する際には、まず「年間来館者数」が何を数えているのかを確認する必要があります。同じ博物館でも、常設展と特別展の入場者数を合算すると、一度の来館で複数の展示を見た人が重複して計上される場合があります。また、ショップやカフェだけを利用した人まで来館者として数える場合もあります。こうした集計方法の違いは、博物館間の比較を不正確にし、需要予測にも影響することが指摘されています(Silberberg & George, 2014)。
さらに、同じ人が年間に複数回来館した場合、それぞれの来館を数えるのか、一人として数えるのかによっても意味が異なります。無料入館者や館外での催しの参加者を含めるかどうかも確認が必要です。年間の延べ来館者数と、重複を除いた実人数を区別し、予測対象となる指標の定義を明確にしておくことが重要です。
需要予測では、来館実績に加え、施設の規模や地域市場に関する情報を使用します。主なデータと確認事項を表1に整理します。
表1 来館者数予測に必要なデータと確認事項
| データ | 主な用途 | 確認事項 |
|---|---|---|
| 既存館の年間来館者数 | 自館の過去実績に基づく予測 | 集計方法・対象年度 |
| 展示面積 | 面積当たり来館者数の算定 | 展示面積の定義・単位 |
| 類似館の来館者数 | 他館の実績との比較 | 集計方法・対象年度 |
| 地域人口 | 地域の人口規模に基づく推計 | 対象地域・統計年 |
| 宿泊観光客数 | 観光需要に基づく推計 | 集計単位・対象地域 |
| 入館料・開館条件 | 予測の前提条件の確認 | 料金・開館日数・開館時間 |
注:需要予測に関する実務資料(Silberberg & George, 2014)を踏まえ、本記事で用途と確認事項を整理したものです。
これらのデータを収集する際には、名称が似ていても、集計対象や単位が異なる場合があることに注意が必要です。例えば、展示面積は展示に使用する部分の面積であり、収蔵庫や事務室などを含む延床面積とは区別されます。地域人口についても、市町村の人口を使用する場合と、周辺地域を含む都市圏人口を使用する場合では、対象となる範囲が異なります。
観光統計でも、宿泊観光客数と延べ宿泊者数は必ずしも同じ指標ではありません。宿泊した人の数と、宿泊日数を反映した延べ人数では集計単位が異なるため、無条件に置き換えることはできません。
また、来館実績と人口・観光統計では、対象年度が一致しない場合もあります。異なる施設や地域のデータを比較する際には、集計単位、対象期間、地理的範囲を確認し、比較可能な条件をそろえることが必要です。需要予測の計算を始める前に、使用する数値が何を表しているのかを明確にしておくことが、分析の基本となります。
展示面積から来館者数をどう予測するか
既存の博物館を拡張する場合、現在の来館実績を基に、拡張後の年間来館者数を概算する方法があります。その一つが、展示面積当たり来館者数を用いる方法です。既存館の年間来館者数を展示面積で割り、単位面積当たりの来館者数を求め、その値を拡張後の展示面積に当てはめます。
基本となる計算式は、次のとおりです。
具体的な計算を確認します。Lord Cultural Resourcesが公開した発表資料では、年間10万人が来館する既存館について、展示面積を10,000平方フィートから15,000平方フィートへ拡張する例が示されています(Silberberg & George, 2014)。これは、約929平方メートルから約1,394平方メートルへの拡張に相当します。
まず、既存館の展示面積当たり来館者数を計算します。
展示面積1平方フィート当たり、年間10人の来館者数に相当します。この値を拡張後の展示面積に適用すると、次のようになります。
したがって、拡張後の予測来館者数は年間15万人となります。展示面積が1.5倍になると、予測来館者数も10万人から15万人へ増加する計算です。なお、これは予測方法を説明するための数値例であり、ユタ自然史博物館の実際の予測値ではありません。
ただし、この方法には重要な前提があります。既存館の展示面積当たり来館者数が、拡張後も維持されるという仮定です。展示面積が50%増加しても、地域の潜在的な来館需要が同じ割合で増加するとは限りません。展示内容や来館者にとっての魅力が変わらない場合もあれば、拡張によって新たな来館動機が生まれる場合もあります。
また、展示面積当たり来館者数は、年間の来館規模を面積で基準化した指標であり、展示室に同時に滞在できる人数を示すものではありません。面積と来館者数の比例関係を仮定した計算であって、面積の増加が来館者数の増加を引き起こすという因果関係を実証したものでもありません。
この方法は、既存館の増築や展示室の拡張について、現在の利用状況を基準に将来の需要を簡易的に推計する際に利用できます。一方、新設館には自館の過去実績が存在しません。その場合には、ほかの博物館の来館実績などを利用して予測する方法が必要になります。
類似館や観光客数から来館者数をどう予測するか
新設館には、自館の過去の来館実績がありません。そのため、別の地域にある博物館の実績を参照し、計画対象館に当てはめて予測する方法が考えられます。博物館の来館者数予測を扱った実務資料でも、他都市の類似館や同じ都市の博物館との比較が基本的な手法として示されています(Silberberg & George, 2014)。
ただし、単に来館者数の多い館を選んでも、適切な比較にはなりません。館種や展示内容が近いか、施設規模に大きな差がないかに加え、地域人口、観光地としての性格、入館料、交通アクセスなどを確認する必要があります。これらは比較可能性を検討するための実務上の観点であり、すべての条件が一致する館だけを選ぶという意味ではありません。むしろ、選定した理由と計画対象館との相違点を明らかにしておくことが重要です。
類似館の展示面積を利用する方法
具体例として、Lord Cultural Resourcesの2014年発表資料では、他都市の類似5館の実績から、年間来館者数20万人、展示面積15,000平方フィートという代表値を示しています。これは各指標について、5館の平均値と中央値の中間を取った数値です。計画対象館の展示面積を同じ15,000平方フィートとすれば、予測来館者数は次のように計算できます。
したがって、予測値は年間20万人となります。既存館の実績がない場合でも、他館から得た面積当たりの来館規模を計画対象館に適用することで、一つの推計値が得られます。
もっとも、公開資料には比較対象5館の名称や個別の数値は示されていません。代表値から20万人という結果を再計算することはできますが、元データに遡って代表値の算出過程を独立に再現することはできません。この区別は、公開された予測事例を参照する際に重要です。
宿泊観光客数を利用する方法
博物館の需要を地域の観光市場と関連づけて見積もる方法もあります。同じ資料では、類似5館の年間来館者数の代表値を20万人、その所在地の宿泊観光客数の代表値を850万人とし、計画対象地域の宿泊観光客数を700万人と仮定しています。
端数を丸めると、予測値は年間約16万5,000人となります。これは、類似館の「宿泊観光客数当たり来館者数」を計画対象地域の観光市場に当てはめる考え方です(Silberberg & George, 2014)。
ただし、この比率は「宿泊観光客が博物館を訪れる確率」ではありません。分子の年間来館者数には、地域住民や日帰り客も含まれ得るためです。観光客の訪問目的、主要な観光資源、滞在中の移動手段などが地域によって異なれば、同じ比率を適用できるとは限りません。あくまで、地域市場の規模を使った簡易的な推計として理解する必要があります。
地域人口を利用する方法
類似館が立地する都市圏の人口に対し、どの程度の年間来館者数があるかを求め、計画対象地域の人口に適用する方法も紹介されています。これは地域住民を含む市場規模に着目する考え方ですが、対象とする都市圏の範囲が異なれば、数値の意味も変わります。
なお、ここで紹介した20万人と約16万5,000人は、実際の新設館の実績値ではなく、拡張館を想定した発表資料の説明用数値です。新設館で類似館の実績を用いる場合にも、比較対象や市場の条件に即して計算する必要があります。
複数の予測結果をどう比較し、調整するか
来館者数を複数の方法で推計すると、必ずしも同じ結果にはなりません。前節までの説明用数値では、既存館の展示面積から15万人、類似館の展示面積から20万人、宿泊観光客数から約16万5,000人という予測値が得られました。これらの差は、それぞれの方法が異なる情報を基準にしていることから生じます。既存館による推計は自館の利用実績を、類似館による推計は他施設の利用規模を、観光市場による推計は地域の宿泊観光客数を重視しています。
推計値を平均すれば妥当な予測になるのか
Lord Cultural Resourcesの発表資料には、六つの方法による推計結果を単純平均し、年間約16万6,000人とする説明例が掲載されています(Silberberg & George, 2014)。ただし、この平均には、後述する人口比の計算に不整合がある推計値も含まれます。そのため、約16万6,000人は資料に掲載された数値の平均を再現した結果として扱い、妥当性を確認済みの予測値とは区別します。
また、平均を取ること自体が予測精度の高さを保証するわけではありません。例えば、二つの推計方法が同じ類似館の実績を基礎としていれば、見かけ上は異なる方法でも、共通するデータの偏りを受ける可能性があります。また、計画対象館との共通点が少ない比較対象から得た予測値を、ほかの予測値と同じ重みで扱うべきかどうかも検討が必要です。
ここで区別すべきなのは、複数の数値から平均を計算する作業と、その平均値を計画上の予測値として採用する判断です。前者は算術的な処理ですが、後者には使用データの妥当性や前提条件の評価が必要になります。なお、この発表資料は単純平均が他の方法より優れていることを実証した研究ではありません。
公開資料の計算結果も検算する
推計値の比較に先立ち、元の計算が正しいかを確かめることも欠かせません。同資料のスライド57には、類似館の年間来館者数の代表値を20万人、都市圏人口の代表値を125万人としたうえで、人口1,000人当たり来館者数を133.3人とする記載があります。しかし、記載された二つの数値から求めると、次のようになります。
計算結果は160人であり、資料中の133.3人とは一致しません。この比率を用いて算出された約16万7,000人という人口比による推計についても、掲載された入力値だけでは整合的に再現できません。ただし、どの入力値や記載内容に誤りがあるのかは特定できないため、比率だけを修正して正しい予測値を断定することはできません。一つの不整合を理由に、発表資料全体の予測方法が不適切だと判断することも避けるべきです。
計算式に含まれない条件をどう扱うか
来館者数には、立地や交通アクセス、展示内容、建物の魅力、入館料、近隣の競合施設なども関係します。発表資料でも、来館者体験や料金、運営条件など、計算式だけでは把握できない要素を考慮する必要性が示されています(Silberberg & George, 2014)。ただし、「交通アクセスがよいから10%上乗せする」といった調整を、裏付けなく行うべきではありません。調整に利用できる根拠がある場合はその内容を示し、数値化できない場合は評価上の留意事項として明記する方が、判断の過程を確認しやすくなります。
採用する予測値の根拠を残す
計画上の予測値を検討する際には、まず各推計方法の計算過程を再現できるか確認します。次に、比較対象館や地域市場の条件が計画対象館にどの程度適しているか、推計結果が異なる理由を説明できるかを検討します。そのうえで、数値の調整を行った場合は根拠を示し、採用しなかった推計結果についても理由を記録します。
これは本記事で整理した実務上の確認手順であり、特定の公的審査基準や、統計的に最適な予測値を決定する公式ではありません。重要なのは、一つの数値を示すことだけでなく、その数値を選んだ判断が後から確認できることです。
ユタ自然史博物館では、予測と実績にどのような差が生じたか
2011年11月、米国ユタ州のユタ自然史博物館は新館を開館しました。建設前に設定された来館者数の予測は、開館後の実際の利用状況とどの程度一致したのでしょうか。博物館の新館計画における予測と実績を比較できる事例として、2014年の実務発表資料には、開館初年度と2年目の数値が示されています(Silberberg & George, 2014)。
表2 ユタ自然史博物館の来館者数予測と実績
| 時点 | 予測値 | 実績値 | 予測値に対する差 |
|---|---|---|---|
| 開館1年目 | 265,000人 | 341,321人 | +28.8% |
| 開館2年目 | 210,000人 | 241,218人 | +14.9% |
出典:Silberberg and George(2014, PDF29–30、41–42頁)の予測値・実績値に基づき作成。割合は本記事で再計算しました。
表の差は、実績値が予測値を何%上回ったかを示したものです。算出には次の式を用います。
開館1年目は、予測26万5,000人に対して実績34万1,321人で、7万6,321人多く来館しました。予測値に対する差は約28.8%です。2年目も、予測21万人に対して実績24万1,218人となり、3万1,218人、約14.9%上回りました。原資料ではそれぞれ約29%、約15%と丸めて示されています。ここでいう割合は予測値を分母とする差であり、後節で扱う平均絶対パーセント誤差(MAPE)と同一視することはできません。
二つの年度で実績が予測を上回ったことは確認できますが、それだけで予測方法が不適切だったとは判断できません。また、来館者数が多いことを、施設の経営上の成功と直結させることもできません。来館の増加は入館料や物販の収入を押し上げる可能性がある一方、混雑への対応や職員配置などの負担にも関係するためです。ただし、こうした影響が同館で実際にどの程度生じたのかは、掲載資料の数値だけではわかりません。
さらに、新館開館直後は、開館を契機とする一時的な関心の高まりが来館を促す可能性があります。初年度の実績をそのまま安定期の年間需要とみなすことは避けるべきです。この事例が示すのは、計画段階の予測値を固定的な「正解」として扱わず、開館後に実績を確認し、年度ごとの違いを踏まえて解釈する必要があるということです。
来館者数予測の精度をどう検証するか
博物館の来館者数を予測する方法には、過去の実績をそのまま利用する単純な方法から、統計モデルを用いる方法まであります。しかし、複雑な計算を行えば、必ず正確な予測が得られるわけではありません。予測方法の性能を判断するには、実績データを用いて、予測値との誤差を比較する必要があります。
この問題を検証した研究として、ロンドンの5つの博物館を対象に、複数の予測モデルの精度を比較した査読論文があります(Volchek et al., 2019)。対象は、大英博物館、ナショナル・ギャラリー、自然史博物館、テート・モダン、科学博物館です。研究では、2012〜2016年のデータを初期の推定期間とし、2017年1〜6月を対象とする事後予測を評価しています。予測は1・2・3・6か月先について比較され、推定に使うデータを月ごとに追加しています。
比較した方法には、直前の実績を次期の予測値とする単純予測、前年同月の実績を利用する季節性を考慮した単純予測、過去の変動や季節性を統計的に捉えるSARMA、検索動向などの外部情報を組み込むSARMAX、人工ニューラルネットワーク(ANN)などがあります。Google Trendsによる検索情報を取り入れたモデルも検証している点が特徴です。
予測誤差をどのように測定するか
予測精度を評価する指標の一つに、平均絶対パーセント誤差(MAPE)があります。これは、各時点の予測値が実績値からどの程度離れているかを割合で求め、その絶対値を平均したものです。
計算式は次のとおりです。
ここで、Aₜは各時点の実績値、Fₜは予測値、nは評価対象となる時点数を表します。
例えば、MAPEが5%であれば、評価対象期間において、実績値に対する予測誤差の絶対値が平均5%だったことを意味します。予測値が実績値を上回った場合も下回った場合も、誤差の大きさとして評価します。
MAPEは割合で示されるため、来館者数の規模が異なる博物館の予測精度を比較しやすいという特徴があります。ただし、実績値がゼロの場合には計算できず、極端に小さい場合には誤差率が大きくなりやすいため、解釈には注意が必要です。
予測モデルによって精度はどの程度異なるか
実際の研究結果を確認します。表3は、5つの博物館に対する予測モデル別のMAPEを、1か月先と6か月先について比較したものです。
表3 予測モデル別MAPEの比較
| 予測方法 | 1か月先 | 6か月先 |
|---|---|---|
| 単純予測 | 9.67% | 15.58% |
| 季節性を考慮した単純予測 | 9.48% | 9.67% |
| SARMA | 6.55% | 8.15% |
| SARMAX | 6.44% | 6.24% |
| 人工ニューラルネットワーク(ANN) | 3.64% | 13.62% |
出典:Volchek et al.(2019)の著者公開稿、Table 6の6モデルのうち5モデルを抜粋。数値は対象5館のMAPEを幾何平均で集約したものです。
1か月先の予測では、人工ニューラルネットワークのMAPEが3.64%と、掲載した方法の中で最も小さくなっています。一方、6か月先ではSARMAXの6.24%が最も小さく、人工ニューラルネットワークでは13.62%まで増加しています。
この結果は、予測期間によって、誤差が小さいモデルが異なることを示しています。
また、検索情報を組み込んだSARMAXは、今回比較した両方の予測期間で、検索情報を組み込まないSARMAよりも小さい誤差を示しています。ただし、検索情報を追加すれば、あらゆる博物館や予測期間で精度が向上するとまでは結論づけられません。
論文でも、すべての博物館や予測期間において、常にほかの方法を上回るモデルは存在しないとされています(Volchek et al., 2019)。
新設館の需要予測にも適用できるのか
ここで注意すべきなのは、この研究が既存館の短期的な来館者数予測を対象としていることです。
過去の来館実績が蓄積された既存館では、季節変動や過去の推移を分析できます。しかし、新設館には自館の来館実績が存在しません。また、新館計画では、開館後の年間来館者数を数年先まで見通す必要があります。
したがって、この研究で短期予測の精度が高かったモデルを、そのまま新設館の年間需要予測に適用できるとはいえません。
来館者数予測の精度を検証する際には、どのモデルを使用したかだけでなく、どのような施設を対象に、どの期間の需要を予測したのかを確認することが重要です。
来館者数の予測結果を、施設計画の判断にどう用いるか
来館者数の需要予測は、博物館の新設・再整備における重要な判断材料です。しかし、予測された年間来館者数を、そのまま施設規模や運営体制の決定に使用できるわけではありません。自治体や博物館には、予測結果が施設計画のどのような判断を支え、何を判断するには追加の情報が必要なのかを見極めることが求められます。
年間来館者数だけで施設規模は決められない
年間来館者数は、展示室の規模や来館者動線、駐車場、職員配置などの検討に関係します(Silberberg & George, 2014)。しかし、同じ年間来館者数でも、来館が平日に分散する施設と、休日や観光シーズンに集中する施設では、必要な収容能力が異なります。
そのため、施設計画では、繁忙期や時間帯別の来館者数、平均滞在時間、団体利用の状況なども検討する必要があります。また、需要が見込まれることと、新館建設が必要であることは同義ではありません。施設整備の必要性そのものについては、博物館建築を始める前に考えるべきことで扱う経営上の判断も関係します。
単一の予測値に依存する問題
例えば、年間来館者数20万人を前提に施設計画を策定した場合を考えます。
実際の需要が予測を下回れば、想定した施設利用が実現せず、入館料や物販の収入見通しにも影響する可能性があります。反対に、予測を上回れば、展示室の混雑や受付業務の増加、職員配置の見直しが必要になる場合があります。
したがって、予測値を一つに固定して判断するのではなく、需要が想定から変化した場合の影響も検討することが重要です。来館者数と収入の関係については、博物館の収入構造は設計できるのか?で扱う財務分析につながります。
自治体は需要予測の何を確認すべきか
自治体が基本構想・基本計画の委託先から、年間来館者数20万人という予測を提示された場合、発注者として確認すべき事項は三つに整理できます。
第一に、予測の根拠が説明されているかという点です。 使用データや計算方法だけでなく、比較対象館の選定理由や推計値を調整した根拠が示されている必要があります。
第二に、予測の不確実性が検討されているかという点です。 入館料、展示内容、開館条件などが変化した場合、来館者数の見通しにどのような影響が考えられるかを確認します。
第三に、施設計画に必要な情報が十分かという点です。 年間来館者数の予測だけでは判断できない事項を特定し、繁忙期の利用状況や運営体制などについて追加分析が必要かを検討します。
これらは、本記事で紹介した需要予測方法を踏まえた実務上の確認事項であり、特定の法令や自治体が定める公式な審査基準ではありません。
需要予測を施設整備の判断に位置づける
需要予測は、将来の施設利用を見通すための情報ですが、それだけで施設の整備規模や事業実施の可否が決まるわけではありません。博物館の使命、展示・収蔵機能、運営体制、財政的制約などとあわせて検討する必要があります。
重要なのは、予測値を施設整備の結論として扱うのではなく、その根拠と限界を理解したうえで、計画上の意思決定に利用することです。
来館者数予測は、数値の根拠を検証することから始まる
博物館の来館者数は、既存館の実績や展示面積、類似館の利用状況、地域人口、観光需要などのデータを用いて予測できます。しかし、同じ施設を対象としても、使用するデータや推計方法が異なれば、得られる予測値は必ずしも一致しません。
そのため、予測値を施設計画の根拠とする際には、計算過程を再現できるか、比較対象は適切か、数値の調整には合理的な理由があるかを確認する必要があります。また、前提条件の変化による影響を把握し、開館後には実績との比較を通じて予測を検証することも重要です。
需要予測は、将来の来館者数を確実に言い当てるものではありません。重要なのは、何人が来館すると予測したかだけでなく、なぜその人数になると判断したのかを説明できることです。その根拠と不確実性を明らかにすることが、博物館の新設・再整備における合理的な意思決定につながります。
来館者数予測や博物館経営に関する内容は、学芸員課程や文化施設マネジメントにおける講義テーマとしても扱うことが可能です。大学での講義やゲスト講義に関するご相談については、以下のページよりご確認ください。
参考文献
Silberberg, T., & George, S. (2014, March 17). The importance of accurate attendance projections to the right sizing and sustainability of building projects [Presentation slides]. Building Museums Symposium. https://www.lord.ca/de/cache/resources_tools/36/f_Accurate-Audience-Projections-Building-Projects-LordCulturalResources.pdf
Volchek, K., Liu, A., Song, H., & Buhalis, D. (2019). Forecasting tourist arrivals at attractions: Search engine empowered methodologies. Tourism Economics, 25(3), 425–447. https://doi.org/10.1177/1354816618811558

