美術館経営と博物館経営は何が違うのか――経営の重点を分ける5つの視点

目次

美術館経営と博物館経営は別のものなのか

一般には、美術館と博物館は異なる種類の文化施設として理解されることが少なくありません。美術館は絵画や彫刻などの美術作品を扱い、博物館は歴史資料、民俗資料、自然史標本、科学技術資料などを扱う施設として区別されます。この違いから、美術館経営と博物館経営も、それぞれ独立した経営分野であるように捉えられがちです。

しかし、美術館は博物館の一類型であり、収集、保存、調査研究、展示、教育といった基本的な機能を、ほかの博物館と共有しています。収蔵品を適切に管理し、専門的な調査研究を行い、その成果を社会に提供するという役割は、美術館にも歴史博物館や自然史博物館にも共通しています。その意味では、美術館経営を博物館経営から完全に切り離して考えることは適切ではありません。

一方、美術作品を主な対象とする美術館では、どの作品や作家を収集するのか、作品同士をどのような空間に配置するのか、作家、収集家、作品所有者、寄付者などとどのような関係を築くのかといった課題が、経営判断と密接に結びつきます。また、展覧会やコレクションの成果には、入館者数だけでは捉えにくい文化的・学術的価値も含まれます。

したがって、両者の違いは、経営目的そのものの違いとしてではなく、限られた人員、予算、空間、情報、関係者との協力を、どの領域へ重点的に配分するかという違いとして整理する必要があります。本記事では、収集、展示、ステークホルダー、財務、成果評価という五つの視点から、美術館経営とその他の博物館経営に共通する基盤と、それぞれに生じやすい経営上の重点を比較します。

美術館経営は博物館経営に含まれる

日常的な会話では、美術館と博物館は異なる種類の文化施設として理解されることが少なくありません。美術館は美術作品を鑑賞する場所、博物館は歴史や自然、科学などの資料を展示する場所というイメージが広く共有されているため、それぞれに求められる経営の考え方も別のものと捉えられがちです。しかし、経営論として考える場合には、このような区分だけでは十分とはいえません。

美術館は、資料や作品を収集し、保存し、調査研究を行い、その成果を展示や教育活動を通じて社会へ還元するという基本的な機能を備えた博物館の一類型です。そのため、美術館経営も、博物館経営が対象とする組織運営の枠組みの中で理解することができます。収蔵資料の管理、人材の育成と配置、財務運営、教育普及活動、来館者への対応、地域や関係機関との連携などは、美術館だけでなく、歴史博物館や自然史博物館、科学館などにも共通する経営課題です。

このような共通性を踏まえると、現代の博物館経営では、資料や作品を適切に収集・保存するという内部的な役割と、それらを社会が活用できるよう展示や教育、来館者対応を通じて提供する外部的な役割の双方を調整することが重要になります。Gilmore and Rentschler(2002)は、博物館経営が保管・保存を中心とした管理だけではなく、来館者や社会との関係にも目を向ける方向へ発展してきたことを指摘し、現代の博物館には両者を両立させる経営能力が求められると論じています(Gilmore & Rentschler, 2002)。

こうした課題は、美術館に限られたものではありません。一方で、同じ経営原理を共有していても、対象とする資料や作品の性質によって、重点を置くべき経営資源は変化します。美術館では作品や作家との関係、展示空間の設計、寄付者や収集家との協働などが重要になりやすく、歴史博物館や自然史博物館では異なる対象資料や社会的役割に応じた重点が生じます。したがって、美術館経営と博物館経営の違いは、経営目的の違いというよりも、共通する経営原理のもとで、どの経営資源へ重点的に取り組むかの違いとして理解することが適切です。次節以降では、この違いを「収集」「展示」「ステークホルダー」「財務」「成果評価」の五つの視点から順に検討します。

美術館経営は博物館経営に含まれる

日常的な会話では、美術館と博物館は異なる種類の文化施設として理解されることが少なくありません。美術館は美術作品を鑑賞する場所、博物館は歴史や自然、科学などの資料を展示する場所というイメージが広く共有されているため、それぞれに求められる経営の考え方も別のものと捉えられがちです。しかし、経営論として考える場合には、このような区分だけでは十分とはいえません。

美術館は、資料や作品を収集し、保存し、調査研究を行い、その成果を展示や教育活動を通じて社会へ還元するという基本的な機能を備えた博物館の一類型です。そのため、美術館経営も、博物館経営が対象とする組織運営の枠組みの中で理解することができます。収蔵資料の管理、人材の育成と配置、財務運営、教育普及活動、来館者への対応、地域や関係機関との連携などは、美術館だけでなく、歴史博物館や自然史博物館、科学館などにも共通する経営課題です。

このような共通性を踏まえると、現代の博物館経営では、資料や作品を適切に収集・保存するという内部的な役割と、それらを社会が活用できるよう展示や教育、来館者対応を通じて提供する外部的な役割の双方を調整することが重要になります。Gilmore and Rentschler(2002)は、博物館経営が保管・保存を中心とした管理だけではなく、来館者や社会との関係にも目を向ける方向へ発展してきたことを指摘し、現代の博物館には両者を両立させる経営能力が求められると論じています(Gilmore & Rentschler, 2002)。

こうした課題は、美術館に限られたものではありません。一方で、同じ経営原理を共有していても、対象とする資料や作品の性質によって、重点を置くべき経営資源は変化します。美術館では作品や作家との関係、展示空間の設計、寄付者や収集家との協働などが重要になりやすく、歴史博物館や自然史博物館では異なる対象資料や社会的役割に応じた重点が生じます。したがって、美術館経営と博物館経営の違いは、経営目的の違いというよりも、共通する経営原理のもとで、どの経営資源へ重点的に取り組むかの違いとして理解することが適切です。次節以降では、この違いを「収集」「展示」「ステークホルダー」「財務」「成果評価」の五つの視点から順に検討します。

視点① 何を収集し、展示するのか

博物館経営の出発点の一つは、限られた人員、予算、収蔵空間のなかで、何を収集し、何を収集しないかを決定することです。収集した資料や作品は、その後の保存、調査研究、展示、教育活動の基盤となるため、収集方針は博物館の使命そのものを具体化する重要な経営判断といえます。どれほど価値の高い資料であっても、すべてを収集できるわけではない以上、優先順位を定めることは避けられません。

歴史博物館や自然史博物館などでは、地域性や時代区分、資料種別、学術的価値、記録性、希少性などを踏まえて収集対象が選定されます。これは、美術館以外の博物館にも明確な収集方針が必要であることを意味しています。収集対象を明確にすることで、限られた資源をどこへ配分するかを判断できるだけでなく、資料の受け入れや収蔵の可否について社会へ説明する根拠も得られます。

美術館でも同様に収集方針は不可欠ですが、作品や作家の選択は、芸術的評価や芸術史上の位置づけだけでなく、既存コレクションとの連続性や展示構成との整合性とも密接に関わります。一点ごとの作品価値だけではなく、それを収蔵することでコレクション全体がどのような意味を持つのかという視点が、経営判断の重要な要素となります。そのため、美術館では作品そのものだけでなく、作品相互の関係性やコレクションの一貫性を長期的に育てることも経営上の課題となります。

この点について、イスラエル文化省の支援を受ける11の美術館を対象としたAldes and Katz-Gerro(2022)の研究は、美術館が形成する芸術的レパートリーは、芸術的評価だけで決まるものではなく、収入構造、立地条件、館長の選好などの組織的条件とも関係する可能性を示しています。つまり、作品や作家の選択は純粋に文化的な判断であると同時に、館を取り巻く経営環境とも切り離すことができない組織的な選択として理解する必要があります(Aldes & Katz-Gerro, 2022)。

もっとも、この知見は経営条件が作品の価値を決定することを意味するものではありません。価値ある作品のなかから、どの作品を優先して収集・展示するかという判断が、館の使命、財源、組織体制、地域との関係などの条件によって影響を受けると考えるべきです。したがって、作品選択を学芸員個人の専門的判断だけに還元することも、反対に経営上の条件だけで説明することも適切ではありません。両者を統合した視点によって初めて、持続可能なコレクション形成が可能になります。

このように、美術館経営の特徴は、美術作品を扱うこと自体ではなく、作品選択の文化的意味と組織的制約を同時に管理する点にあります。その基盤となるのが、館の使命に基づいて明文化された収集方針です。収集方針は、作品選択の一貫性や説明責任を支えるだけでなく、収蔵スペースや予算配分を適切に管理するための指針にもなります。収集方針の考え方については、博物館の収集方針はどのように策定すべきかで詳しく解説しています。

視点② 展示でどのような経験を設計するのか

博物館で収集・保存された資料や作品は、展示室に並べるだけで自動的に意味が伝わるわけではありません。展示では、何を見せるかという内容だけでなく、どの順序で提示するのか、来館者がどの位置から鑑賞するのか、資料同士をどのような関係で配置するのかといった空間設計が重要になります。展示は資料を公開する場であると同時に、来館者が資料や作品と出会う条件を設計する営みでもあります。

この課題は、美術館に限ったものではありません。歴史博物館では歴史的な流れや地域の変遷を理解できるよう資料を構成し、自然史博物館では標本や模型を組み合わせて自然現象を説明し、科学館では展示装置や映像、体験型展示を通じて理解を促します。いずれの場合も、展示は資料を配置する作業ではなく、来館者がどのような順序で情報を受け取り、展示全体を理解するかを考慮した設計が求められます。

一方、美術館では、作品そのものの鑑賞に加え、作品同士の対比や連続性、壁面の余白、鑑賞距離、視線の流れ、照明、展示室全体の空間構成が、作品の受け取られ方と密接に関わります。同じ作品であっても、隣接する作品や展示室の構成が変われば、来館者が作品に向ける注意や比較の仕方は変化する可能性があります。そのため、美術館では作品単体だけでなく、作品相互の関係性を含めて展示空間全体を設計することが重要な経営課題となります。

Tröndle et al.(2014)は、美術館において作品の配置や展示空間の構成を変更し、その違いが来館者の注意や移動、滞在行動にどのような影響を与えるかを実証的に検討しました。その結果、作品や空間の配置を変えることで、来館者の行動には一定の変化がみられることが示されました。この研究は、キュレーションが作品を選ぶだけではなく、作品間の位置関係や展示空間の構成を通じて来館者経験に影響を与えることを示唆しています(Tröndle et al., 2014)。

この知見から分かるのは、展示配置は学芸的・美的な判断であると同時に、来館者が作品とどのように向き合うかという経験を形成する経営資源の配分でもあるということです。ただし、来館者の移動や滞在時間などの行動データだけで展示の質を評価することはできません。作品の保存環境や学術的妥当性、展示意図の一貫性、アクセシビリティなど、多面的な観点をあわせて検討する必要があります。作品を直接鑑賞する意味については、本物の作品を見る価値をどう説明するかでも詳しく解説しています。

このように、美術館経営では作品そのものを管理するだけでなく、作品と来館者が出会う空間的・時間的条件を組織的に設計し続けることが求められます。展示は単なる発表の場ではなく、作品の保存、学芸的解釈、来館者経験を調和させる経営活動の一部であり、この点に美術館経営ならではの重点の置き方を見ることができます。

視点③ 誰との関係をマネジメントするのか

博物館経営は、館内の人員や予算を管理するだけでは成り立ちません。博物館の活動は、多様な人や組織との協力によって支えられています。こうした「博物館の活動に影響を与え、または影響を受ける関係者」は、一般にステークホルダーと呼ばれます。博物館が社会的使命を果たすためには、収蔵品や作品を管理するだけでなく、こうした関係者との信頼関係を築き、それぞれの役割を調整することも重要な経営課題となります。

すべての博物館に共通する関係者としては、行政機関、研究者、学校や大学、地域住民、来館者、資料や作品の提供者、ボランティア、支援団体などが挙げられます。これらの関係者は、資料の収集や調査研究、教育普及活動、地域連携、情報発信など、さまざまな場面で博物館の活動を支えています。そのため、どのような種類の博物館であっても、館外との継続的な協力関係を構築することは不可欠です。

一方で、博物館の種類によって、特に重要となる関係者には違いがあります。美術館では、作家、収集家、画廊、作品所有者、作家遺族、財団、寄付者、理事などとの関係が、作品の収集や借用、展覧会の開催、資金調達、さらには組織運営とも密接に結びつきやすい特徴があります。作品は一点ごとの来歴や所有権、貸与条件などが重要となるため、美術館では作品を媒介とした多様な関係を長期的に維持することが求められます。

こうした特徴について、イスラエル文化省の支援を受ける11の美術館を対象としたAldes and Katz-Gerro(2022)は、美術館が取り上げる作品や作家は、館内の専門的判断だけで決まるのではなく、館長の選好や立地条件、財源構造などの組織的条件とも関係することを示しています。これは、作品選択が学芸的判断であると同時に、美術館を取り巻く組織環境とも結び付いた意思決定であることを示唆しています(Aldes & Katz-Gerro, 2022)。

また、Yermack(2017)は、米国の主要美術館を対象とした分析を通じて、大口寄付者が理事会などの組織運営に関与する場合があり、その関係は資金調達だけでなくガバナンスとも関連していることを示しました。ただし、この知見を日本の美術館へそのまま当てはめることはできませんが、寄付者との関係を財務面だけではなく、組織統治の観点からも検討する必要性を考えるうえで重要な示唆を与えています(Yermack, 2017)。

もちろん、関係者との協力は博物館活動に欠かせません。しかし、その一方で、特定の支援者や関係者の意向が館の使命や学芸的な専門性を不当に左右しないよう、役割分担や権限、利益相反への対応、意思決定の透明性、説明責任を明確にしておくことも重要です。美術館経営の特徴は、関係者の数が多いことではなく、作品の文化的価値、所有、資金、社会的評価が複雑に結び付く関係を適切に調整し、組織としての自律性と協働を両立させる点にあるといえるでしょう。

視点④ 財務構造と寄付者ガバナンスをどう管理するのか

博物館の財務管理は、単に収入を増やし支出を抑えることではありません。収集、保存、調査研究、展示、教育といった活動を将来にわたって継続し、館の使命を安定的に実現するために、どこから資金を調達し、その資金をどの目的へ配分し、どのような条件や制約のもとで運用するかを管理することが重要です。そのため、財務管理は予算編成だけではなく、組織の持続可能性を支える経営基盤として位置付けられます。

もっとも、博物館の財務構造は一様ではありません。公立館では公費が大きな割合を占めることが多く、私立館では入館料や事業収入、寄付、基金などの比重が高まる場合があります。大学博物館では大学からの運営資金に加え、研究費や共同研究資金が重要な役割を果たすこともあります。このように、収入源の構成が異なれば、長期的な経営計画やリスク管理の考え方も変わってきます。

美術館では、作品取得費に加え、保存修復費、保険料、輸送費、展示設備の整備などが財務上の重要な支出となりやすい特徴があります。ただし、これは美術館だけに限ったことではありません。自然史標本や考古資料、大型の科学資料などを扱う博物館でも、多額の収集・保存費用が必要となる場合があります。そのため、重要なのは施設の種類ではなく、収蔵資料の特性に応じて必要となる資源を長期的に確保できる財務構造を構築することです。

そのなかで寄付は、多くの博物館や美術館にとって重要な財源の一つとなります。しかし、寄付金には使途が限定されているものも少なくありません。特定の事業や施設整備、作品購入などに用途が指定されている場合、必要な資金を確保できる利点がある一方で、館が状況に応じて自由に資金を配分できる裁量は小さくなります。そのため、寄付は金額だけで評価するのではなく、使途や期間などの条件も含めて検討する必要があります。

Yermack(2017)は、米国の主要な美術館を対象として、大口寄付者が理事会に参加するなど、組織のガバナンスに関与する場合があり、その関係が財務管理や組織運営とも結び付いていることを示しました。ここでいうガバナンスとは、組織の意思決定や監督、権限、説明責任の仕組みを指します。この研究は米国の美術館を対象としており、日本の公立美術館へ直接一般化することはできませんが、寄付者との関係を資金調達だけではなく、組織統治の観点から考える必要性を示しています(Yermack, 2017)。

寄付者の関与には、資金だけでなく、専門的な知識や人的ネットワーク、組織に対する監督機能などをもたらす側面があります。一方で、館の使命や専門的判断、経営上の裁量との調和を図ることも欠かせません。そのため、寄付を受け入れる際には、使途や期間、報告義務、顕彰の方法、命名権の有無、利益相反への対応、意思決定権の範囲などを事前に明確にしておくことが重要です。寄付者との長期的な関係づくりについては、なぜ博物館の寄付では「返礼品」より「顕彰」が重要なのかで詳しく解説しています。

このように、美術館経営の特徴は、寄付を多く集めることそのものではありません。多様な支援を受けながらも、館の使命や専門性、自律的な意思決定を維持できるガバナンスを構築し、財務基盤と社会的信頼の双方を持続的に管理することにあります。

視点⑤ 何を成果として評価するのか

博物館経営では、限られた人員や予算、施設、時間をどの活動へ配分し、その結果として何が実現したのかを継続的に確認する必要があります。成果評価は、組織を順位づけたり査定したりするためだけではなく、館の使命がどの程度達成されているかを把握し、今後の改善や資源配分に生かすための重要な経営活動です。そのため、成果をどのような視点で捉えるかは、博物館経営そのものの方向性と深く関わっています。

入館者数や収入、展覧会の開催件数、メディア掲載数などは、活動状況を把握するうえで重要な指標です。しかし、それだけでは資料や作品の保存状態、調査研究の蓄積、教育普及活動の質、地域や関係機関との連携、人材育成といった博物館本来の役割を十分に評価することはできません。一方で、文化的価値は数値化が難しいからといって、成果をまったく確認しないことも適切ではありません。定量的な指標と定性的な評価を組み合わせ、多面的に成果を把握する姿勢が求められます。

Zorloni(2012)は、博物館の活動を評価するためには財務指標だけでは不十分であり、組織の使命や戦略と対応した複数の観点から成果を捉える枠組みが必要であると論じています。その一つとして、バランスト・スコアカードの考え方を博物館へ応用し、財務、来館者、内部業務、学習・成長といった複数の視点を組み合わせることを提案しています。ただし、重要なのは特定の評価手法を機械的に導入することではなく、それぞれの館が自らの使命や戦略目標に応じて評価指標を設計することです(Zorloni, 2012)。

この考え方に立てば、美術館では、作品の保存状態やコレクションの形成、展覧会の学術的・文化的意義、作品研究の進展、鑑賞環境の質、教育普及活動、さらには作家や作品に対する新たな理解の創出なども重要な成果となります。これらは単純に一つの数値へ置き換えることはできませんが、調査研究の成果や保存計画の達成状況、教育プログラムの実施内容などを通じて継続的に確認することは可能です。数値だけでは捉えられない価値を、適切な指標や記録によって可視化していくことが重要になります。

同様に、歴史博物館では地域資料の保存や歴史理解への貢献、自然史博物館では標本の蓄積や研究成果、科学館では科学理解や体験学習の充実など、それぞれの使命に応じた成果指標が必要になります。つまり、美術館とその他の博物館では、重視される成果の内容に違いはあるものの、評価の基本原理そのものが異なるわけではありません。共通する多面的な評価の枠組みを土台としながら、各館が自らの使命や収蔵資料の特性に応じて重点を調整することが、博物館経営における成果評価の基本的な考え方といえるでしょう。

美術館と博物館に共通する経営課題

ここまで、美術館とその他の博物館の違いを「収集」「展示」「ステークホルダー」「財務」「成果評価」という五つの視点から整理してきました。しかし、これらの視点は両者を別々の経営分野として切り分けるためのものではありません。むしろ、共通する博物館経営の原理の上に、館種や収蔵資料の特性に応じて重点の置き方が異なることを理解するための枠組みとして捉えることが重要です。

すべての博物館には、資料や作品を将来へ確実に継承する役割と、それらを現在の社会が利用し、学び、楽しめるように提供する役割があります。収集や保存だけ、あるいは展示や教育だけに偏ることはできません。Gilmore and Rentschler(2002)は、現代の博物館経営では、資料の保管・保存という内部的な役割と、来館者や社会への働きかけという外部的な役割の双方を調整することが重要な経営課題であると指摘しています(Gilmore & Rentschler, 2002)。

そのため、博物館経営では、限られた予算、人員、収蔵空間、時間といった資源を、収集、保存、調査研究、展示、教育普及などへ適切に配分しなければなりません。また、専門的な学芸活動の質を維持しながら、来館者、地域社会、行政、支援者などに対して活動の意義や意思決定を分かりやすく説明することも求められます。専門性と社会への開かれた姿勢は対立するものではなく、相互に支え合う関係として考える必要があります。

成果の確認についても同様です。入館者数や収入は重要な情報ですが、それだけでは博物館活動の全体像を把握することはできません。Zorloni(2012)は、財務、来館者、内部業務、組織能力など複数の観点を組み合わせ、博物館の使命や戦略と対応した成果評価を行う必要性を示しています(Zorloni, 2012)。評価は組織を採点するためではなく、活動を振り返り、資源配分を改善するための仕組みとして位置付けることが重要です。

このように、美術館とその他の博物館では重点を置く対象や経営資源の配分は異なりますが、使命に基づいて資源を配分し、その成果を多面的に検証しながら改善を重ねるという経営の基本構造は共通しています。この共通基盤を踏まえることで、館種ごとの違いも、より適切に理解することができるでしょう。

5つの視点から美術館経営と博物館経営を比較する

これまで見てきた五つの視点は、美術館とその他の博物館を固定的に区別するためのものではありません。実際には、館の使命や規模、設置主体、コレクションの内容、地域特性、財源構成などによって重点は変化します。以下の表は、両者を対立的に捉えるのではなく、それぞれで経営資源が配分されやすい典型的な重点を整理したものです。

視点美術館経営で重点となりやすい事項その他の博物館経営で重点となりやすい事項共通する経営課題
収集・展示対象作品、作家、芸術史上の位置づけ、コレクションの一貫性歴史資料、自然史標本、科学資料、地域資料など館の対象領域に応じた学術性・記録性使命と収集方針に基づき、限られた予算・空間のなかで収集対象を選択すること
展示経験作品間の関係、余白、照明、鑑賞距離、空間構成資料、解説、模型、映像、体験装置などを組み合わせた理解の設計展示内容と来館者経験を結び付けること
ステークホルダー作家、収集家、画廊、遺族、財団、作品所有者、寄付者など資料提供者、研究機関、学校、地域住民、関係団体など専門的自律性を維持しながら関係者と協働すること
財務・ガバナンス作品取得、保険、輸送、保存修復、寄付、基金、理事会など資料収集、保存設備、調査研究、教育事業、公的予算など使命を持続させる財源と説明責任を確保すること
成果評価コレクション形成、保存、研究、展覧会の意義、鑑賞経験など資料保存、研究成果、教育、地域貢献、科学理解など入館者数や収入だけに依存しない多面的評価を行うこと

美術館とその他の博物館では、それぞれに重点となる専門的課題は異なります。しかし、使命に基づいて限られた経営資源を配分し、その成果を検証しながら改善を重ねるという基本構造は共通しています。違いを理解する目的は、別々の経営論をつくることではなく、それぞれの館に必要な能力や資源を明確にし、より適切な経営判断につなげることにあります。

違いは経営目的ではなく経営資源の重点にある

本記事では、美術館経営とその他の博物館経営の違いを、「収集」「展示」「ステークホルダー」「財務」「成果評価」の五つの視点から整理してきました。その結果、美術館では作品選択や展示空間の構成、作家や収集家との関係、寄付者との協働、鑑賞経験の評価などに重点が置かれやすい一方、歴史博物館や自然史博物館、科学館などでは、それぞれが扱う資料や社会的使命に応じた重点が形成されることが分かります。

しかし、このような違いは、基本的使命そのものの違いを意味するものではありません。いずれの館も、資料や作品を収集・保存・調査研究し、その成果を展示や教育活動を通じて現在の社会へ提供するとともに、将来の世代が利用できる状態で継承するという共通の使命を担っています。そのため、美術館経営を博物館経営から切り離された独立分野として理解する必要はありません。

一方で、「美術館も博物館である」という制度上の整理だけでは、美術作品ならではの収集判断や展示空間の設計、作家や収集家との関係、寄付者ガバナンスなど、美術館で重点的に生じる経営課題を十分に説明することはできません。重要なのは、館種の名称だけから経営方法を決めるのではなく、それぞれの館の使命、資料や作品の性質、設置主体、地域、財源、関係者といった条件を踏まえ、どの経営資源へ重点的に配分すべきかを検討することです。

美術館とその他の博物館の違いを理解する目的は、両者を分断することではありません。それぞれの館に求められる専門性や組織体制、財源のあり方、成果評価の方法を明確にし、使命をより効果的に実現するための経営判断へ結び付けることにあります。博物館経営とは、共通する使命を基礎としながら、館ごとの対象と環境に応じて経営資源の重点を設計し、社会的価値を持続的に創出していく営みであるといえるでしょう。

参考文献

  • Aldes, L., & Katz-Gerro, T. (2022). Contextualizing the artistic repertoire in museums: The role of nonartistic factors. Museum Worlds: Advances in Research, 10(1), 93–111. https://doi.org/10.3167/armw.2022.100108
  • Gilmore, A., & Rentschler, R. (2002). Changes in museum management: A custodial or marketing emphasis? Journal of Management Development, 21(10), 745–760. https://doi.org/10.1108/02621710210448020
  • Tröndle, M., Greenwood, S., Bitterli, K., & van den Berg, K. (2014). The effects of curatorial arrangements. Museum Management and Curatorship, 29(2), 140–173. https://doi.org/10.1080/09647775.2014.888820
  • Yermack, D. (2017). Donor governance and financial management in prominent U.S. art museums. Journal of Cultural Economics, 41(3), 215–235. https://doi.org/10.1007/s10824-017-9290-4
  • Zorloni, A. (2012). Designing a strategic framework to assess museum activities. International Journal of Arts Management, 14(2), 31–47.

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この記事を書いた人

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国立文化施設にて博物館運営・経営に関する業務に携わっています。
博物館経営、文化政策、ミュージアムDX、教育普及を中心に、実務と研究の両面から情報発信を行っています。

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