博物館が外部と連携しようとするとき、候補となる相手は一つではありません。他の博物館や文化施設、大学・研究機関、学校、行政・公共機関、地域団体やNPO、企業など、それぞれ異なる立場と機能を持つ主体が考えられます。しかし、連携先が多いことや、協定を数多く結んでいることだけで、その連携が自館にとって適切だったと判断することはできません。
連携を考えるときに陥りやすいのは、「大学と何かできないか」「企業と連携したい」と、最初から相手を決めてしまうことです。けれども、本来先に問うべきなのは相手ではなく、博物館として何を実現したいのかです。実現したい成果が明確になれば、そのために不足している資料、専門知、研究・教育能力、制度や権限、地域との関係性、資金や技術といった要素も見えやすくなります。そのうえで初めて、それを持つ相手を探すことができます。
したがって、連携相手を選ぶ基本的な順序は、「何を実現したいのか → そのために何が必要なのか → それを持っている相手は誰か」と整理できます。連携とは、外部との関係を増やすことそのものではなく、自館だけでは補いにくい能力や資源を見極め、使命や課題に照らして適切な相手を選ぶ経営判断だと考えることができます。
以下では、この考え方をもとに、他の博物館・文化施設、大学・研究機関・学校、行政・公共機関、地域社会・NPO、企業という相手ごとに、どのような目的や必要性があるときに連携候補となるのかを整理していきます。
連携相手を「組織名」ではなく「持っているもの」で考える
博物館が連携を考えるとき、「大学と何かできないか」「企業と連携したい」と、最初に組織名から発想することがあります。しかし、この考え方では、連携すること自体が先に決まり、その相手と何を実現したいのかが後回しになりやすくなります。連携相手を選ぶ際に見るべきなのは、相手の名称や属性そのものではなく、その組織が何を持ち、何を実現できるのかです。
異なる組織やセクターの協働は、情報、資源、活動、能力などを接続し、それぞれが単独では実現しにくい成果を共同で目指す関係として捉えることができます(Bryson, Crosby & Stone, 2015)。この考え方を博物館に当てはめるなら、連携とは単に外部組織と関係を結ぶことではなく、自館に不足しているものと、相手が持つものを結びつける経営上の選択だと整理できます。
本記事では、連携相手が持ち得るものを、概ね「資料・専門知」「研究・教育能力」「制度・権限」「地域知・関係性」「資金・技術・事業能力」の5つに整理します。これは既存研究に示された固定的な分類ではなく、博物館が連携相手を検討するための実務的な整理です。たとえば、他館であれば資料や学芸上の専門知、大学であれば研究能力、行政であれば制度や権限、地域団体であれば地域知や人的関係、企業であれば技術や事業能力といった特徴が考えられます。
ただし、これらを「大学=研究」「企業=資金」のように一対一で対応させることはできません。大学が地域とのネットワークや高度な技術を持つ場合もあれば、企業が専門研究や文化事業の経験を蓄積している場合もあります。同じ種類の組織でも、保有する能力や資源はそれぞれ異なります。したがって、組織のカテゴリーだけで相手を判断するのではなく、実現したい成果に照らして、その相手が実際に何を提供できるのかを確認する必要があります。
そもそも博物館に連携はなぜ必要なのかという問題と、誰を連携相手として選ぶべきかという問題は分けて考える必要があります。本記事では後者に焦点を置きます。次節以降では、この5つの視点を共通軸として、他の博物館・文化施設、大学・研究機関・学校、行政・公共機関、地域社会・NPO、企業が、それぞれどのような目的のときに連携候補となるのかを整理していきます。
他の博物館・文化施設――資料と専門知が必要なときの相手
他の博物館や文化施設は、自館だけでは保有できない資料や専門知に接続する必要があるとき、有力な連携候補になります。博物館のコレクションや学芸上の専門性は館ごとに異なるため、あるテーマについて展示や研究を深めようとすれば、自館の資料や職員の専門領域だけでは十分に対応できないことがあります。その場合に問うべきなのは、「どの館と連携するか」より先に、自館だけでは何が不足しているのかということです。
たとえば、展示で自館にない資料が必要であれば、その資料を所蔵する館が候補になります。研究対象を異なる専門領域から検討する必要があれば、その分野のコレクションや学芸上の専門知、研究上の知識を持つ館や文化・科学機関が候補になります。このように、相手の館名や知名度から連携を考えるのではなく、実現したい展示や研究に必要な資料・専門知を特定し、それを持つ相手を探すという順序で考えることができます。
こうした博物館間の協力は、国際的な博物館政策のなかにも位置づけられています。博物館と文化・科学機関との協力やパートナーシップには、専門職のネットワーク、国際的な展覧会や交流、コレクションの移動などが含まれています(UNESCO, 2015, para. 31)。また、博物館の研究は、単独で行われるものに限らず、他者との協働によって実施される場合があることも示されています(UNESCO, 2015, para. 9)。ここで重要なのは、こうした協力を行うこと自体を成果とみなすのではなく、資料や知識をどのように接続する必要があるのかを先に考えることです。
したがって、他館との連携は「他館と何かをする」ことから始めるのではありません。まず展示や研究などで実現したいことを定め、次に自館だけでは不足する資料、専門知、研究上の知識や専門職との接点を明らかにし、それを持つ相手を探します。目的から必要なものを特定し、そこから相手を選ぶという順序こそ、他館・文化施設を連携候補として検討する際の基本になります。
大学・研究機関・学校――研究と学習が必要なときの相手
大学・研究機関と学校は、いずれも教育や学習に関わる組織ですが、博物館が連携相手として選ぶ理由は同じではありません。大学・研究機関には研究者、専門知、研究能力があり、学校には児童生徒という学習者や教員、学校教育との接点があります。そのため、「教育機関と連携する」と一括りにするのではなく、研究を深めたいのか、学習機会を広げたいのかによって相手を分けて考える必要があります。
大学・研究機関が候補になるのは、たとえば自館の調査研究をさらに深めるために、館内にはない専門知や研究能力が必要な場合です。また、博物館が持つ資料やコレクションと大学側の研究を接続したり、研究成果を展示や教育活動などを通じて社会へ還元したり、研究者や学生との接点を形成したりすることも考えられます。科学研究を対象とした博物館と大学の連携では、両者の協働を研究と社会との接点をつくる基盤として捉える実践が報告されています(Bell et al., 2016)。ただし、これは科学・自然史系を中心とした文脈であり、すべての館種に同じ形が当てはまるわけではありません。
一方、学校を連携相手として考える場合には、研究能力よりも学校教育や学習者との接続が中心になります。博物館資料を学校教育のなかで活用したい、児童生徒に実物資料と出会う学習機会を提供したい、あるいは教員と博物館との接点をつくりたいといった目的があれば、学校が有力な候補になります。博物館の教育機能についても、適切な場合には学校を含む教育機関とのパートナーシップを形成することが国際的な指針で示されています(UNESCO, 2015, para. 12)。
したがって、最初から「大学と連携したい」「学校と事業をしたい」と考えるのではなく、研究を深めるためにどのような専門知や研究能力が必要なのか、学習につなげるためにどのような教育上の接点が必要なのかを先に明らかにすることが出発点になります。その結果として大学・研究機関や学校が候補になる、という順序です。実際の連携の設計や進め方については、大学と博物館の連携における教育・研究・地域連携の協働モデルとして別に整理し、本記事では「何のためにその相手を選ぶのか」という判断に焦点を置きます。
行政・公共機関――制度・権限・公共政策が必要なときの相手
行政・公共機関を連携相手として考えるとき、その特徴を「補助金や予算を持つ組織」とだけ捉えるのは十分ではありません。行政・公共機関は、制度や法的権限、公共政策、公共財源を担い、教育、福祉、観光、地域計画など他の公共サービスとも接続しています。博物館が取り組もうとする課題に、こうした制度・権限・政策との接続が必要になるとき、行政・公共機関が連携候補として浮かび上がります。
たとえば、博物館の活動を学校教育と広く接続しようとすれば、個々の学校との関係だけではなく、教育政策や教育行政との接点が必要になる場合があります。地域の文化資源を観光や地域計画と結びつける場合や、福祉など他の公共領域と接点を持つ場合にも、博物館だけで完結するのではなく、それぞれの政策や公共サービスを担う主体との関係が検討対象になります。ここで行政・公共機関を選ぶ理由は、行政だから連携すべきだからではなく、実現したい成果に制度、権限、公共政策との接続が含まれているからです。
異なる組織やセクターによる協働では、それぞれが持つ資源や権限、役割の違いを踏まえて関係を設計する必要があり、組織間の協働そのものにも調整上の課題が伴います(Bryson, Crosby & Stone, 2015)。この一般的な視点を博物館に当てはめれば、行政・公共機関との連携についても、単に「官民連携」や「行政との協働」と一括りにするのではなく、博物館側の課題に対して、どの制度や権限、政策との接続が必要なのかを具体的に見極めることが出発点になります。
同時に、博物館と行政との関係は一様ではありません。国や地域によって博物館制度は異なり、同じ国のなかでも設置主体や運営形態、財源、行政との制度的関係によって位置づけは変わります。したがって、特定の制度を博物館と行政の普遍的な関係モデルとして扱うことはできません。まず実現したい公共的な成果を定め、そのために必要な制度・権限・政策上の接点を確認し、それを担う行政・公共機関を特定する。この順序で考えることが、行政を連携相手として選ぶ際の基本となります。
地域社会・NPO――地域知と関係性が必要なときの相手
地域社会やNPOを連携相手として考える理由は、単に「地域とのつながりを増やす」ためではありません。地域住民や地域団体、NPOには、博物館の職員や資料だけでは十分に把握しにくい地域固有の知識、暮らしの経験、記憶、当事者としての視点、人的ネットワーク、地域課題への理解があります。博物館がこうした地域知や関係性を必要とするとき、その知識や経験を持つ主体が連携候補になります。
たとえば、ある地域の歴史や文化を扱う場合、博物館が所蔵する資料や既存の研究だけでは捉えきれない経験や記憶が存在することがあります。また、地域が抱える課題と博物館活動を接続したり、これまで博物館との接点が少なかった人びとへ活動を広げたりする場合には、地域で活動する団体やNPOが持つ知識や人的関係が意味を持つことがあります。美術館と都市地域との関係を扱った研究でも、地域組織、住民、アーティストなど多様な主体との関係が検討されており、博物館の外部に存在する知識や経験を考えるうえで重要な視点を提供しています(Taylor, 2020)。
ただし、「地域社会」を一つの均質な主体として考えることはできません。同じ地域に暮らしていても、年齢、職業、生活経験、文化的背景、地域との関わり方などによって、見えている課題や残したい記憶、博物館に期待することは異なります。したがって、「地域の声を聞く」という抽象的な発想ではなく、今回の目的に必要な知識や経験を誰が持っているのかを具体的に考える必要があります。NPOや地域団体についても、地域を代表する存在と自動的にみなすのではなく、その活動領域や接点を確認したうえで候補として位置づけるべきです。
つまり、地域連携も「地域と何かをする」ことから始めるのではありません。まず博物館として実現したいことを定め、そのために不足している地域知、当事者の視点、経験、人的関係を明らかにし、それを持つ主体を探すという順序で考えます。そのうえで実際にどのような関係を築き、共創や参加へつなげていくのかは、博物館が地域とつながるための共創・包摂・信頼のマネジメントとして別に検討すべき課題です。本記事では、その前段階にある「なぜ、その相手を選ぶのか」という判断を重視します。
企業――資金・技術・事業能力が必要なときの相手
企業を連携相手として考えるとき、最初に「協賛してくれる企業を探す」と発想する必要はありません。企業は資金だけでなく、技術、商品・サービスの開発能力、流通、広報・マーケティング、事業を実装する能力など、博物館とは異なる資源や能力を持つ場合があります。したがって企業が候補になるのは、博物館が実現したいことに対して、こうした外部の資源や能力が必要になったときです。
たとえば、新しい技術を活動に取り入れたい場合には、その技術について専門的な能力を持つ企業が候補になり得ます。博物館内部だけでは実装しにくいサービスや事業を形にする必要があれば、開発や事業化の能力を持つ企業との連携を検討する余地があります。資金、流通、広報・マーケティングについても同様です。ただし、これらは「企業」というカテゴリーに属する組織が一律に持つ能力ではありません。企業ごとに事業領域や強みは異なるため、まず博物館側で必要な資源や能力を特定し、それを実際に持つ企業があるかを確認するという順序で考える必要があります。
さらに、企業との連携では、相手が何を提供できるかだけで判断することはできません。企業スポンサーとの関係には、博物館と企業との適合性だけでなく、博物館のインテグリティや独立性を損なうリスクを検討する必要があることが指摘されています(Proteau, 2018)。そのため、資金や技術などの条件が魅力的であっても、博物館の使命や専門的独立性、社会的信頼との整合性に問題があれば、その企業を連携相手として選ばないという判断もあり得ます。
つまり企業連携では、「何を提供してもらえるか」と「その相手と組むことが博物館の使命と両立するか」を同時に見ることが求められます。「企業と何かしたい」から始めるのではなく、実現したい成果を定め、不足する資源や能力を明らかにし、それを持つ企業を候補として検討し、さらに使命や独立性との適合性を確認するという順序です。企業との具体的な関係の設計については、博物館と企業のパートナーシップと共創をめぐる経営戦略として別に検討し、本記事では企業を選ぶ前段階の判断に焦点を置きます。
誰と連携するかをどう選ぶのか――使命から相手を逆算する
ここまで見てきたように、他館、大学・研究機関、学校、行政・公共機関、地域社会・NPO、企業は、それぞれ異なる資料、専門知、能力、権限、資源、関係性を持っています。しかし、実務で問われるのは、これらのなかから「どの相手と連携すればよいのか」です。そこで本記事では、連携相手を選ぶための判断過程を、「使命・課題→成果→必要なもの→相手」という4段階で整理します。これは既存研究から借用したモデルではなく、本記事で各連携相手を比較してきた視点を、実務上の判断手順として整理したものです。
第1段階:自館の使命・課題を確認する
出発点は連携相手ではなく、自館の使命と現在の課題です。「大学と連携したい」「企業と何かしたい」と考える前に、まず自館が何を担う組織であり、いま何を解決しようとしているのかを確認します。同じ博物館でも、研究を深めたい館と、学校教育との接点を広げたい館とでは、必要になる相手は異なります。連携の目的を自館の使命や課題から切り離さないことが、相手を選ぶ最初の条件になります。
第2段階:実現したい成果を定める
次に、「連携する」という行為ではなく、連携を通じて何を実現したいのかを具体化します。たとえば「大学との連携を強化する」ではなく、「自館だけでは扱えない研究領域について専門的知見を得る」、「地域と連携する」ではなく、「展示テーマに関する地域住民の経験や記憶を把握する」と考えます。相手の名前を外しても説明できる成果を定めることで、連携そのものが目的になることを避けられます。
第3段階:必要な能力・権限・資源・関係性を特定する
成果が明確になったら、それを実現するために自館だけでは不足しているものを特定します。必要なのは資料なのか、専門知なのか、研究能力なのか、制度上の権限なのか、地域との関係性なのか、あるいは資金や技術、事業を実装する能力なのか。この段階ではまだ相手を決めません。「誰と組むか」ではなく「何が足りないか」を先に考えることが、候補を適切に比較するための基準になります。
第4段階:それを持つ相手を選ぶ
最後に、必要なものを実際に持つ相手を探します。判断の基本形は、次のように整理できます。
| 実現したいこと | 必要なもの | 主な連携候補 |
|---|---|---|
| 展示・研究の幅を広げる | 資料・専門知 | 他館・文化施設 |
| 研究を深める | 学術知・研究能力 | 大学・研究機関 |
| 学校教育につなげる | 教育制度・学習者との接点 | 学校 |
| 公共政策につなげる | 制度・権限 | 行政・公共機関 |
| 地域の知識を活動へ取り込む | 地域知・関係性 | 地域社会・NPO |
| 技術や事業能力を補う | 技術・資金・実装能力 | 企業 |
ただし、この表は連携相手を機械的に決める対応表ではありません。一つの課題に複数の能力が必要であれば、複数の相手との連携が必要になることがあります。反対に、一つの組織が研究能力と技術、地域との関係性など複数の強みを持っている場合もあります。組織の種類ではなく、実際に必要なものを持っているかによって判断することが基本です。
さらに、4段階をたどった結果、「外部と連携しない」ことが適切な結論になる場合もあります。自館に必要な能力や資源がすでにあり、単独で成果を実現できるのであれば、連携先を増やすこと自体に経営上の意味があるとは限りません。組織間の協働には、異なる目的や利害の調整、意思決定、関係の維持などの複雑性が伴います(Bryson, Crosby & Stone, 2015)。連携によって得られるものだけでなく、連携することで生じる調整も考慮する必要があります。
したがって、連携の成果を協定数や連携団体数だけで評価するのではなく、「なぜこの相手なのか」を自館の使命と課題から説明できるかを問うことが重要です。使命から成果を定め、必要な能力・権限・資源・関係性を明らかにし、それを持つ相手を選ぶ。この順序を守ることで、連携は外部との関係を増やす活動ではなく、自館の使命を実現するための経営判断として位置づけることができます。
連携とは、相手を増やすことではなく、使命に必要な関係を選ぶことである
他の博物館・文化施設、大学・研究機関・学校、行政・公共機関、地域社会・NPO、企業は、博物館が必ず連携しなければならない相手の一覧ではありません。それぞれ、資料や専門知、研究・教育能力、制度や権限、地域知や関係性、資金・技術・事業能力など、異なるものを持ち得る連携先の選択肢です。だからこそ、相手の種類から連携を考えるのではなく、自館が何を実現しようとしているのかから判断を始める必要があります。
その判断は、「使命・課題を確認する → 実現したい成果を定める → 必要な能力・権限・資源・関係性を特定する → それを持つ相手を選ぶ」という順序で整理できます。この順序を逆にして、「大学と何かしたい」「企業と連携したい」と相手から出発すると、連携そのものが目的になりかねません。
したがって、連携先の数や協定の数が多いことだけを成果とみなすことはできません。問うべきなのは、その関係によって自館の使命や課題に必要なものが補われ、実現したい成果へ近づくことができるのかという点です。反対に、自館だけで十分に目的を達成できるのであれば、あえて外部との関係を増やさないという判断も成り立ちます。
この記事で整理してきたのは、「どのように連携を進めるか」より前にある、「誰を、何のために選ぶのか」という問いです。連携とは組織の外側へ関係を広げること自体ではありません。自館の使命から必要なものを見極め、その実現に必要な相手との関係を選び取ることこそ、博物館における連携の経営的な意味なのです。

