博物館ネットワークとは何か―一対一の連携との違いと、ネットワークを選ぶ判断基準

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すべての連携をネットワークにする必要はない

博物館が自館だけでは対応しにくい課題に直面したとき、外部との連携は有力な選択肢になります。しかし、連携することと、ネットワークを形成することは同じではありません。課題によっては一館で対応できますし、特定の相手と協力すれば十分な場合もあります。複数の組織が継続的な関係をつくるネットワークは、その先にある選択肢の一つです。そもそも博物館になぜ連携が必要なのかについては、別の記事で詳しく整理しています。

たとえば、二つの博物館が一度だけ共同展示を行うために、恒常的なネットワークをつくる必要はないでしょう。一方、人材育成を継続的に行う、保存や防災を複数館で支える、共同の情報基盤を維持する、各館に不足する専門人材や知識を補い合うといった課題では、一回限りの協力だけでは十分に対応できないことがあります。

ただし、複数の組織を結びつければ、それだけで問題が解決するわけではありません。関係する組織が増えれば、目的の共有、役割分担、情報交換、意思決定など、新たな調整も必要になります。ネットワーク化そのものを目的とするのではなく、そのための負担を引き受けてでも継続的な関係をつくる意味があるのかを考えなければなりません。

では、博物館はどの段階で、一館での対応や特定の相手との連携から、継続的なネットワークへ進むべきなのでしょうか。まずは、そもそも「博物館ネットワーク」とは何を意味し、一対一の連携と何が違うのかを整理する必要があります。

博物館ネットワークとは何か――一対一の連携との違い

博物館同士が協力しているからといって、その関係をすべて「ネットワーク」と呼ぶ必要はありません。たとえば、二つの博物館が特定の展覧会のために資料を貸し借りしたり、共同研究を行ったりする場合、中心にあるのは「一緒に何をするか」という具体的な協働です。こうした博物館同士の連携によって何ができるのかについては、別の記事で詳しく扱っています。

これに対してネットワークで問題になるのは、個々の協働だけではなく、「複数の組織の関係全体をどう組織するか」です。組織間ネットワーク研究では、法的には独立した複数の組織が一定の境界をもつ関係を形成し、それぞれの活動だけではなく、ネットワーク全体として共有する目的に向けて活動する仕組みが分析されてきました(Provan & Kenis, 2008; van den Oord et al., 2023)。

この考え方を博物館経営に応用すれば、博物館ネットワークとは、複数の独立した博物館や関係組織が共通する目的のために継続的な関係をつくり、情報や資源、役割、意思決定を組織の境界を越えて調整する仕組みと捉えることができます。重要なのは参加組織の数そのものではありません。共通目的があり、そのための関係が一定期間継続し、組織間を調整する仕組みが存在するかどうかです。

したがって、協働が「一緒に何をするか」を考える問題だとすれば、ネットワークは「その協働を支える組織間の関係をどうつくるか」を考える問題だと整理できます。この違いを押さえることで、単発の連携で十分な課題と、継続的なネットワークを検討すべき課題を区別しやすくなります。

ネットワークを選ぶべきなのはどんなときか

複数の博物館が同じ課題を抱えているからといって、すぐにネットワークをつくる必要があるわけではありません。組織間ネットワーク研究では、独立した組織が共通の目的に取り組む仕組みが検討されてきましたが、どのような課題にもネットワークが有効だと確認されているわけではありません。博物館を含むネットワークには目的や規模、関係性、運営方法などによる違いがあり、それらを課題に合わせて考える必要があります(Bagdadli, 2003; van den Oord et al., 2023)。こうした研究を博物館実務の判断に引き寄せると、少なくとも次の5点を確認することができます。

1.同じ課題を複数館が継続的に抱えているか

まず確認したいのは、一館だけの問題ではなく、複数館に共通し、今後も続く課題なのかという点です。たとえば保存や防災、人材育成のように、複数館が継続的に対応する必要のある課題であれば、組織間の関係を持続させる意味が生まれます。

2.一館だけで必要な資源や専門性を維持できるか

専門人材、設備、知識などを各館がそれぞれ保有することが難しい場合には、相互に補完する仕組みが選択肢になります。反対に、一館で安定して対応できる課題まで共同化する必要はありません。

3.一度きりの協働で解決できるか

特定の事業を実施すれば目的を達成できるなら、期間を限定した協働で十分です。研修や情報共有などを繰り返し行う必要があり、単発の事業終了後も関係を維持する必要がある場合に、継続的なネットワークを検討する意味が強くなります。

4.複数館がそろうことで初めて達成できる目的か

広域的な防災体制や共同情報基盤のように、一館だけでは仕組みそのものを成立させにくい課題があります。この場合、ネットワークは単なる協力先の集合ではなく、共通目的を実現するための単位となります。

5.調整に必要なコストを負担する意味があるか

ネットワークを維持するには、会議、情報共有、意思決定、事務局業務、費用負担の調整などが必要です。参加組織が増えれば、関係者間の調整も複雑になり得ます。したがって、共同化によって得られる便益だけでなく、その関係を維持する負担まで含めて判断しなければなりません。

重要なのは、「ネットワークをつくれるか」ではなく、「この課題はネットワークでなければ解きにくいのか」と先に問うことです。一館で対応できるなら一館で行い、一度きりの協働で足りるならそこで止める。そのうえで、複数組織による継続的な関係にする意味があると判断したとき、初めてネットワークという選択肢が具体的になります。

誰とネットワークをつくるのか――membershipと境界を設計する

ネットワークをつくるとき、参加する組織は多いほどよいとは限りません。重要なのは、共通の目的を実現するために、どの組織が必要なのかを考えることです。組織間ネットワーク研究では、ネットワークは単なる組織の集合ではなく、一定の境界とメンバー構成をもち、ネットワーク全体としての目的に向けて活動する仕組みとして捉えられています(van den Oord et al., 2023)。つまり、誰をネットワークの内側に置き、誰を外部の協力相手とするのかという「境界」の設定自体が、ネットワークを設計する問題になります。

そのため、参加主体を考える出発点は「誰とつながりたいか」ではなく、「共通目的の達成に何が必要か」です。必要な専門性や資料、設備、人材などを確認し、それを担える組織を検討します。同時に、参加する側にも、どのような役割を担い、どの程度の時間や費用を負担し、何を得られるのかが見える必要があります。行政、大学、地域団体、企業など博物館がどのような相手と連携できるのかという整理と、誰を継続的なネットワークのメンバーとするのかという判断は、分けて考える必要があります。

ネットワークの規模も目的から切り離して決めることはできません。参加主体が増えれば、利用できる知識や資源が広がる可能性がある一方、目的の共有や意思決定、情報交換に必要な調整も複雑になります。反対に、少数に限定すれば必ず機能するわけでもありません。必要なのは、規模、目的についての合意、参加主体間の関係、運営の仕組みを互いに適合させることです。

FRAMEはなぜ誰でも参加できるネットワークではないのか

この境界設計を考える一例が、フランスと北米の美術館を結ぶFRench American Museum Exchange(FRAME)です。FRAMEでは、加盟は自由参加ではなく、Board of Directorsからの招待を起点として候補が推薦され、General Assemblyの投票を経る仕組みになっています。FRAME公式資料では、加盟館を対象とする年次会議や企画会議が設けられ、スタッフやBoardが年間を通じて加盟館と連絡を取り、共同研究、展覧会、教育活動などを支援しています。また、加盟館による共同プロジェクトを具体化するための助成制度も設けられています。

ここから「参加条件が厳しいからFRAMEが長く続いている」と結論づけることはできません。ただし、誰をメンバーとするかを組織的に決定し、参加後も継続的な交流と共同活動を支える仕組みを持つ点は、メンバー構成やネットワークの境界そのものを設計対象として捉える組織間ネットワーク研究と整合します。

そして、membershipは一度決めれば終わりではありません。目的の変化に応じて、新しい専門性を持つ組織を加える必要が生じることもあれば、参加する意味が薄れた組織が離脱することもあります。参加条件、役割、負担、ネットワークの規模を定期的に見直すことまで含めて、メンバー構成を考える必要があります。ネットワークを広げることと、ネットワークを強くすることは同じではないのです。

誰がネットワークを動かすのか――運営の仕組みを決める

ネットワークに参加する組織が決まっても、それだけで継続的な協働が動き始めるわけではありません。誰が会議を招集し、意見を取りまとめ、意思決定を支え、日常的な調整を担うのかを決める必要があります。これは、一つの博物館内部におけるガバナンスや意思決定の問題とは異なり、独立した複数の組織の間をどのように運営するかという問題です。

組織間ネットワーク研究では、その代表的な運営の仕組みを三つに整理しています(Provan & Kenis, 2008)。この枠組みは博物館専用に開発されたものではありませんが、博物館ネットワークの運営方法を考えるうえでも有用な視点になります。

参加館みんなで運営する

一つ目は、特定の中心組織を置かず、参加する組織自身が共同で意思決定や調整を担う方式です(shared participant governance)。各館が直接運営に関与できる一方、参加主体が増えれば、合意形成や日常的な調整にかかる負担も大きくなり得ます。

中心となる館がまとめる

二つ目は、参加組織の一つが中心となってネットワークを調整する方式です(lead organization governance)。中心館が会議や情報共有などを担うことで運営をまとめやすくなる一方、特定の館に業務や影響力が集中する可能性も考慮する必要があります。

ネットワーク専用の事務局を置く

三つ目は、個々の参加組織とは別に、ネットワーク全体の運営を担う組織や事務局を設ける方式です(network administrative organization: NAO)。継続的な調整に専門的な能力を確保しやすい反面、その運営自体に人員や財源が必要になります。博物館ネットワークについても、運営主体がネットワークを方向づける役割を担い得ることが指摘されています(Pencarelli & Splendiani, 2011)。

重要なのは、三つのうちどれが最も優れているかを決めることではありません。ネットワークの規模、共通目的、参加組織間の信頼関係、調整に必要な専門能力などによって、適した運営方法は異なります。参加館が対等に運営すること自体を目的とするのでも、中心館や事務局を置けば機能すると考えるのでもなく、ネットワークが取り組む課題に合わせて「誰が運営を担うのか」を設計することが重要です。

何を共有し、誰が負担するのか――資源・便益・コストを考える

博物館ネットワークには、一館だけでは確保しにくい資源を補い合える可能性があります。専門知識や人材、研修機会、資料・情報、保存設備、調査研究の成果などを組織の境界を越えて利用できれば、各館がすべてを単独で保有する必要はありません。博物館ネットワークを扱った研究でも、参加組織が持つ資源の補完や、共同の仕組みを通じた価値創出の可能性が論じられています(Bagdadli, 2003; Pencarelli & Splendiani, 2011)。

しかし、資源を共有すれば自動的に効率化するわけではありません。重要なのは、「誰が何をネットワークへ持ち込み、誰がどの便益を受け取るのか」を具体的に考えることです。たとえば、大規模館が専門人材や設備を提供し、小規模館がその便益を受ける関係では、ネットワーク全体には意味があっても、負担が特定の館に集中する可能性があります。反対に、資金や人員を負担しているにもかかわらず、自館にとって得られる便益が小さければ、参加を続ける動機は弱くなります。

さらに、共有そのものにもコストがかかります。研修を共同化するなら日程や内容を調整し、情報基盤を共有するなら更新や管理の担当を決め、共同事業を行うなら費用負担を調整しなければなりません。こうした調整コストは、ネットワークを維持するために必要な資源です。また、一部の参加館が十分な負担をせずに便益だけを受け取る、いわゆるフリーライドが生じれば、他の参加館の不満や負担を大きくする可能性もあります。

したがって、ネットワークの資源設計では、共有できるものを増やすだけでなく、提供する資源、受け取る便益、費用や業務の負担を参加館の間で確認する必要があります。すべての館が同じものを同じ量だけ提供する必要はありませんが、それぞれに参加する意味が見いだせる関係でなければ、継続的な協働は難しくなります。資源共有はネットワークの利点になり得る一方、それを成立させるための調整にもまた資源が必要なのです。

ネットワークが機能しているか、どう判断するのか

ネットワークをつくった後には、それが実際に機能しているかを確かめる必要があります。ただし、加盟館が増えた、会議を何回開催した、情報交換を何件行ったといった数字だけでは、ネットワークの成果を十分に判断できません。それらは活動の規模や量を示す指標にはなりますが、ネットワークをつくった目的が達成されたことを意味するとは限らないからです。

組織間ネットワークの有効性については、一つの尺度だけではなく、複数のレベルから評価する必要性が示されています(Provan & Milward, 2001)。この考え方は博物館を対象に実証された評価モデルではありませんが、博物館ネットワークを点検する際にも、少なくとも三つの視点を区別する手がかりになります。

各参加館に参加する意味があるか

第一は、それぞれの参加館にとっての成果です。必要な知識や支援を得られたか、自館だけでは難しい活動が可能になったかなど、参加に伴う負担に見合う便益があるかを確認します。

ネットワーク全体の目的を達成しているか

第二は、ネットワーク全体としての成果です。各館が個別に便益を得ていても、共同で設定した目的が達成されていなければ、ネットワークとして機能しているとは評価できません。反対に、全体では成果が生まれていても、一部の館だけに負担が集中している場合には、継続性に問題が生じる可能性があります。

社会や利用者に意味のある成果が生じているか

第三は、ネットワークの外側に生じる成果です。共同で取り組むことによって、利用者や社会に対して、各館が単独で活動する場合とは異なる価値を生み出せているかを確認します。

つまり、ネットワークの評価では「どれだけ活動したか」だけでなく、「各参加館」「ネットワーク全体」「その外側」という異なる視点から、当初の目的に照らして成果を確かめることが重要です。

ネットワークはいつ見直すべきか――続ける・変える・終える

ネットワークは、一度つくれば同じ形で維持し続けるものではありません。参加館を取り巻く環境や課題が変われば、ネットワークに求められる役割も変化します。組織間ネットワーク研究でも、適切な運営のあり方は、ネットワークの規模、目的についての合意、参加主体間の信頼関係、必要な能力などの条件と切り離して考えることはできません(Provan & Kenis, 2008; van den Oord et al., 2023)。

そのため、まず確認したいのは、設立時に共有していた目的が現在も存在するかという点です。目的が変わったのであれば、参加主体の構成も見直す必要があります。新たな専門性を持つ組織を加えるべき場合もあれば、役割を終えたメンバーが離脱する方が適切な場合もあります。参加館が増えた結果、ネットワークが必要以上に大きくなり、意思決定や情報共有の負担が重くなっていないかも点検すべきでしょう。

同時に、誰がネットワークを支えているのかを見る必要があります。一部のメンバーに事務作業や費用、専門的な支援が偏っていれば、参加を続ける動機が損なわれる可能性があります。また、設立時には参加館による共同運営が適していても、規模の拡大などによって調整が難しくなれば、中心となる組織や専用の事務局を置くなど、運営方法そのものを変える選択肢もあります。

こうした見直しの結果、現在の形を維持するだけでなく、参加範囲を縮小する、ネットワークを再編する、あるいは終了するという判断もあり得ます。長期間存続していることだけを成功の尺度とする必要はありません。この記事で整理してきた考え方から導けば、重要なのはネットワークを残すことではなく、目的に合わせて参加主体と運営方法を見直し、その仕組みが必要でなくなったときには終えることまで選択できることです。

ネットワークは「つながること」ではなく、課題に応じて設計する経営手段である

博物館にとって、ネットワークをつくること自体が目的になるわけではありません。まず問うべきなのは、自館が直面している課題を一館で解決できるのか、それとも特定の相手との一対一の連携が必要なのか、さらにその関係を継続させるネットワークまで必要なのかという順序です。一度きりの協働で解決できる課題に、恒常的なネットワークを設ければ、かえって調整や運営の負担を増やすことにもなります。

そのうえでネットワークが必要だと判断したなら、誰をメンバーとするのか、誰が運営を担うのか、何を共有し、誰が費用や業務を負担するのかを設計しなければなりません。さらに、各参加館、ネットワーク全体、社会や利用者にとって何を成果とするのかを確認し、目的や環境の変化に応じて参加主体や運営方法を見直す必要があります。場合によっては、ネットワークを縮小し、再編し、終えることも選択肢になります。

博物館ネットワークを経営するとは、つながりの数を増やすことではありません。課題に合わせて、誰と、どこまで、どのようにつながるのかを設計し、その関係が現在も必要なのかを問い続けることです。ネットワークは、その判断を経て初めて意味を持つ経営手段なのです。

参考文献

  • Bagdadli, S. (2003). “Museum and Theatre Networks in Italy: Determinants and Typology.” International Journal of Arts Management, 6(1), 19–29.
  • Pencarelli, T., & Splendiani, S. (2011). “Le reti museali come ‘sistemi’ capaci di generare valore: verso un approccio manageriale e di marketing [Museum Networks as ‘Systems’ Able to Create Value: Towards a Management and Marketing Approach].” Il Capitale Culturale. Studies on the Value of Cultural Heritage, 2, 227–252. https://doi.org/10.13138/2039-2362/103
  • Provan, K. G., & Kenis, P. (2008). “Modes of Network Governance: Structure, Management, and Effectiveness.” Journal of Public Administration Research and Theory, 18(2), 229–252. https://doi.org/10.1093/jopart/mum015
  • Provan, K. G., & Milward, H. B. (2001). “Do Networks Really Work? A Framework for Evaluating Public-Sector Organizational Networks.” Public Administration Review, 61(4), 414–423. https://doi.org/10.1111/0033-3352.00045
  • van den Oord, S., Kenis, P., Raab, J., & Cambré, B. (2023). “Modes of Network Governance Revisited: Assessing Their Prevalence, Promises, and Limitations in the Literature.” Public Administration Review, 83(6), 1564–1598. https://doi.org/10.1111/puar.13736
  • FRAME (FRench American Museum Exchange). “FRAME Museums.” https://framemuseums.org/(2026年9月6日閲覧).

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この記事を書いた人

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国立文化施設にて運営・経営に関する業務に携わっています。
博物館経営、文化政策、ミュージアムDX、教育普及を中心に、実務と研究の両面から情報発信を行っています。

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